愛する婚約者は、今日も王女様の手にキスをする。

古堂すいう

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藤色の花木は (ガブリエルside)

花を求める理由 (ガブリエルside)

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フルリス国の王都は、毎日休みなく活気づいた街である。

多くの商人や異国からの旅人がやってきて、様々な品物が大通り沿いに絶え間なく並ぶ。貴族達の乗る馬車が大通りを行き来し、使用人たちは、露天へ出入りし品物を買う。最近できた歌劇場へは多くの貴婦人が訪れ、サーカス団の公演を見に来た貴族子息達が和気藹々と王都の街を堂々と闊歩する。

 そんな賑わいのある街並みの中を、ガブリエルはどこまでも無表情で淡々と歩いていた。

 そんな彼を、行き交う人々が、息することも忘れて見入る。


「……どうしてお前がついてくるんだ」

ガブリエルは後ろからついてくるリュダへ視線をやった。

花を買いに行くと伝えた直後に思案に耽ったリュダを置いて、ガブリエルは街へ出ようとした。だがリュダは追いかけてきて「俺も行く!」とついてきたのだ。「ついてきたとしても何も面白いものなどない」と、言ったのだが……。

「えー!いいじゃん!お前が花買ってるところみたい!」
「……仕事はどうする。報告以外にも仕事はあるはずだ」
「う……ま、まあそうだけど……ちょっと息抜きする時間くらいはあるんだぜ」
「……」

ガブリエルは僅かに頷いて、前を向いて歩き出す。

「で、聞きそびれてたけど。花って誰に?王女殿下?」

リュダのその問いがあまりにも唐突で不可思議なものだったので、ガブリエルは思わず足を止めた。

「……なぜ?」

普通、花を贈る相手としては真っ先に婚約者を思い浮かべるはずだ。

「あー、いや……。俺さ、お前が王女殿下と歩いているところ見たことあるんだけど。王女殿下は随分とお前のことを……その、慕っているみたいに見えたもんだったから……てっきりお前もまんざらでもないのかと思って……」
「私には、婚約者がいる。故に、他の女性に花を送る等ありえない」
「や、それは知ってるけど……。お前、あの婚約者ちゃんのこと好きじゃないだろ」
「……」

黙り込んだガブリエルに、リュダは「あれ、まずいこと言っちゃったかな」とボリボリと頭の後ろを掻いて、気まずそうに口を開く。

「ごめん。お前がそういう奴じゃないって分かってるのに失礼なこと言ったな」
「……私は」
「ん?」
「いや……なんでもない」

口をつぐんだガブリエルに、リュダもそれ以上王女殿下に関わる話をふるのはやめた。2人はまた歩き始める。

「そんで、婚約者ちゃんに花を贈るってことは分かったけど……。彼女の誕生日か何かか?」

その問いに対してガブリエルは単に首をふって否定した。


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