愛する婚約者は、今日も王女様の手にキスをする。

古堂すいう

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運命の再会より

緑の場所

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この世の終わりのような顔をして肩を落とすロメリアに、リュダはポリポリと頬を掻いて、ポンと軽快な音をたて、手を叩いた。

「場所は知ってますよ、俺」
「え?」

何を言っているのだ?と首を傾げるロメリアを見て、リュダは「やっと顔をあげてくれた!」と喜んだ。

「王女様の庭園に呼び出されたんですよ、あいつ。あとをつけて確認しました」

自信満々に胸を張るリュダを無視して、ロメリアは考え込む。

「……王女様の庭園」

以前、共にお茶をしたところだ。場所なら分かる。が、きっとマリエンヌの許可なくして庭園に入ることは出来ないだろう。そう伝えるとリュダは考えるそぶりを見せた後で、再びポンと手を叩いた。どうやら、その動作が癖らしい。

「王女様の庭園が見渡せるいい場所があるんですよ。軍の奴らは皆、そこでこっそり散策している王女様を覗いているんです‥‥‥って、ああ!これ、言っちゃ駄目なやつだった」

額に大汗をかいてオロオロし始めたリュダを見て、ロメリアはくすりと笑いを零した。

ロメリアは箱入り娘で、ガブリエルや両親以外の人間と関わることは日常にいると、あまりない。リュダのように明るくとぼけたような人間とは尚更関わりなどなかった。

「あのー、どうかこのことは内密に‥‥‥できませんかね?」
「うん、いいよ」

ロメリアにしては気前よく頷くとリュダは「やっさしー!」と公爵令嬢に対して大分失礼な態度で喜んだ。

が、ロメリアは特に気にせず「早く案内して頂戴」と即す。

「はいはーい。それじゃあ行きましょうか!」

ロメリアは意気揚々と案内してくれるリュダの後ろについていく。赤い煉瓦で建てられた塔の背後に聳える城壁の上に登るのだそうだ。その城壁は、大昔に建てられた旧城のもので、今は使用されていない。その様相の殆どが蔦に覆われてしまっているせいで、積まれた石のほとんどに緑の影が落ちている。

その城壁までの道には古いタイルと、欠けた赤い煉瓦が落ちていた。草花が生い茂り、道とは言えない獣道だ。

歩きづらさを感じながらも、風に乗る緑の香りにロメリアのほんの少し固くなった心がほぐされていく。静かな場所だ。聳える城壁に物々しさはなく、廃れた物悲しさだけがそこに漂っている。


「‥‥‥いい場所ね」

呟くと、リュダは驚いたように振り返った。

「へえ、公爵令嬢でもこんな場所がいいって思うもんなんだなあ」
「どんな場所が好きだと思うの?」
「うーん‥‥きらびやかな社交の場とか、洗練された都会とか」
「綺麗なドレスも、宝石も大好きだけど、そういう場所はあんまり好きじゃないわ」
「なんで?」

さも不思議そうに問いかけてくるリュダに、「この人は世の中の貴族令嬢がみんなおんなじ趣味嗜好の人間だとでも思っているのかしら」とロメリアは内心で首をかしげた。
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