13 / 79
運命の再会より
緑の場所
しおりを挟むこの世の終わりのような顔をして肩を落とすロメリアに、リュダはポリポリと頬を掻いて、ポンと軽快な音をたて、手を叩いた。
「場所は知ってますよ、俺」
「え?」
何を言っているのだ?と首を傾げるロメリアを見て、リュダは「やっと顔をあげてくれた!」と喜んだ。
「王女様の庭園に呼び出されたんですよ、あいつ。あとをつけて確認しました」
自信満々に胸を張るリュダを無視して、ロメリアは考え込む。
「……王女様の庭園」
以前、共にお茶をしたところだ。場所なら分かる。が、きっとマリエンヌの許可なくして庭園に入ることは出来ないだろう。そう伝えるとリュダは考えるそぶりを見せた後で、再びポンと手を叩いた。どうやら、その動作が癖らしい。
「王女様の庭園が見渡せるいい場所があるんですよ。軍の奴らは皆、そこでこっそり散策している王女様を覗いているんです‥‥‥って、ああ!これ、言っちゃ駄目なやつだった」
額に大汗をかいてオロオロし始めたリュダを見て、ロメリアはくすりと笑いを零した。
ロメリアは箱入り娘で、ガブリエルや両親以外の人間と関わることは日常にいると、あまりない。リュダのように明るくとぼけたような人間とは尚更関わりなどなかった。
「あのー、どうかこのことは内密に‥‥‥できませんかね?」
「うん、いいよ」
ロメリアにしては気前よく頷くとリュダは「やっさしー!」と公爵令嬢に対して大分失礼な態度で喜んだ。
が、ロメリアは特に気にせず「早く案内して頂戴」と即す。
「はいはーい。それじゃあ行きましょうか!」
ロメリアは意気揚々と案内してくれるリュダの後ろについていく。赤い煉瓦で建てられた塔の背後に聳える城壁の上に登るのだそうだ。その城壁は、大昔に建てられた旧城のもので、今は使用されていない。その様相の殆どが蔦に覆われてしまっているせいで、積まれた石のほとんどに緑の影が落ちている。
その城壁までの道には古いタイルと、欠けた赤い煉瓦が落ちていた。草花が生い茂り、道とは言えない獣道だ。
歩きづらさを感じながらも、風に乗る緑の香りにロメリアのほんの少し固くなった心がほぐされていく。静かな場所だ。聳える城壁に物々しさはなく、廃れた物悲しさだけがそこに漂っている。
「‥‥‥いい場所ね」
呟くと、リュダは驚いたように振り返った。
「へえ、公爵令嬢でもこんな場所がいいって思うもんなんだなあ」
「どんな場所が好きだと思うの?」
「うーん‥‥きらびやかな社交の場とか、洗練された都会とか」
「綺麗なドレスも、宝石も大好きだけど、そういう場所はあんまり好きじゃないわ」
「なんで?」
さも不思議そうに問いかけてくるリュダに、「この人は世の中の貴族令嬢がみんなおんなじ趣味嗜好の人間だとでも思っているのかしら」とロメリアは内心で首をかしげた。
106
お気に入りに追加
5,450
あなたにおすすめの小説
私のことはお気になさらず
みおな
恋愛
侯爵令嬢のティアは、婚約者である公爵家の嫡男ケレスが幼馴染である伯爵令嬢と今日も仲睦まじくしているのを見て決意した。
そんなに彼女が好きなのなら、お二人が婚約すればよろしいのよ。
私のことはお気になさらず。

純白の牢獄
ゆる
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」
華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。
王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。
そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。
レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。
「お願いだ……戻ってきてくれ……」
王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。
「もう遅いわ」
愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。
裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。
これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

旦那様、離縁の申し出承りますわ
ブラウン
恋愛
「すまない、私はクララと生涯を共に生きていきたい。離縁してくれ」
大富豪 伯爵令嬢のケイトリン。
領地が災害に遭い、若くして侯爵当主なったロイドを幼少の頃より思いを寄せていたケイトリン。ロイド様を助けるため、性急な結婚を敢行。その為、旦那様は平民の女性に癒しを求めてしまった。この国はルメニエール信仰。一夫一妻。婚姻前の男女の行為禁止、婚姻中の不貞行為禁止の厳しい規律がある。旦那様は平民の女性と結婚したいがため、ケイトリンンに離縁を申し出てきた。
旦那様を愛しているがため、旦那様の領地のために、身を粉にして働いてきたケイトリン。
その後、階段から足を踏み外し、前世の記憶を思い出した私。
離縁に応じましょう!未練なし!どうぞ愛する方と結婚し末永くお幸せに!
*女性軽視の言葉が一部あります(すみません)
はっきり言ってカケラも興味はございません
みおな
恋愛
私の婚約者様は、王女殿下の騎士をしている。
病弱でお美しい王女殿下に常に付き従い、婚約者としての交流も、マトモにしたことがない。
まぁ、好きになさればよろしいわ。
私には関係ないことですから。
【完結】365日後の花言葉
Ringo
恋愛
許せなかった。
幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。
あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。
“ごめんなさい”
言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの?
※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。
ゼラニウムの花束をあなたに
ごろごろみかん。
恋愛
リリネリア・ブライシフィックは八歳のあの日に死んだ。死んだこととされたのだ。リリネリアであった彼女はあの絶望を忘れはしない。
じわじわと壊れていったリリネリアはある日、自身の元婚約者だった王太子レジナルド・リームヴと再会した。
レジナルドは少し前に隣国の王女を娶ったと聞く。だけどもうリリネリアには何も関係の無い話だ。何もかもがどうでもいい。リリネリアは何も期待していない。誰にも、何にも。
二人は知らない。
国王夫妻と公爵夫妻が、良かれと思ってしたことがリリネリアを追い詰めたことに。レジナルドを絶望させたことを、彼らは知らない。
彼らが偶然再会したのは運命のいたずらなのか、ただ単純に偶然なのか。だけどリリネリアは何一つ望んでいなかったし、レジナルドは何一つ知らなかった。ただそれだけなのである。
※タイトル変更しました

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~
Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。
走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。
君のためだと言われても、少しも嬉しくありません
みみぢあん
恋愛
子爵家の令嬢マリオンの婚約者、アルフレッド卿が王族の護衛で隣国へ行くが、任期がながびき帰国できなくなり婚約を解消することになった。 すぐにノエル卿と2度目の婚約が決まったが、結婚を目前にして家庭の事情で2人は…… 暗い流れがつづきます。 ざまぁでスカッ… とされたい方には不向きのお話です。ご注意を😓
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる