愛する婚約者は、今日も王女様の手にキスをする。

古堂すいう

文字の大きさ
4 / 79
必然の出会い

提案

しおりを挟む

 ガブリエルが、王都にある軍の宿舎へ行ってしまってからはや1年が経った。

 ロメリアはあれからガブリエルと顔を合わせてはいない。けれど、どうしても彼の様子が気になってしまい、たびたび手紙を送っていた。彼からの返事は手紙を出すたびに返ってはくるけれど「元気だ。そちらも元気そうでなにより」だとか、あるいはただ事務的に軍の訓練内容が羅列されているだけの時もある。


(面倒くさいなら、面倒くさいで、何かもっと書きようがあるじゃない!)


 ロメリアはそっけない返事が返って来るたびに、それを投げ捨てて怒るのだけれど。それでも大好きな婚約者からの手紙を捨てることは出来ず、その手紙を後生大事に胸に抱いては、その夜眠りにつくことを繰り返していた。

そんな日々を過ごしていたある日のこと。

ロメリアは父──セレスから呼び出された。

「ロメリア、この父と少しの間だけ王都へ行って見るかい?」
「え」

 突然の提案に身を固まらせるロメリアに、セレスは苦笑を零した。彼はロメリアがガブリエル恋しさに手紙を出し、そして返ってきた手紙を後生大事にしているところを何度も目にしていた。

 大切な愛娘がここまで心を寄せているのだ。何とかしてやりたいと思うのが、親心。そう考えたセレスは、娘と共に数日の間、王都へ行こうと決めた。

 セレスは公爵という身分にあって、王族とも血の繋がりがある。それ故に、普段は王族が要地としている領地を離れるわけにはいかないのだが、数日だけ離れる許可を王直々にもらったのだと言う。

 しかしそれには条件があるらしかった。

「もちろん、お前が会いたがっているガブリエルに会いに行くのでもいい。だが、向こうにいる間は王女様の話相手になって欲しいと、王に頼まれてしまってね」
「王女様?王女様って……」
「そうだよ。国王の第一王女であらせられる。マリエンヌ様だ」

マリエンヌ・ベル・マニエル・フルリス。

 この国の第一王女である彼女は聡明で、なによりも誰よりも美しいと聞く。彼女はロメリアと1つしか年が違わない。この国の令嬢なら誰もが話し相手になりたいと望む人間だ。

しかし、ロメリアだけは違う。

 マリエンヌは、この国では数少ないロメリアより地位の高い人物で、かつ、誰もがその美貌を称える人物だ。性格も穏やかで、天文学や化学の分野においても才能があると聞く。それに比べてロメリアは、勉学は全くできない上に、読む本といえばもっぱら恋愛小説ばかり。それに性格もあまりいいとは言えないと自分でも分かっている。唯一、自信をもって言えるのは「自分は美しい」ということだけれど。それだけだ。

 つまるところ、彼女を目の前にすると劣等感に苛まれそうになるから嫌なのである。そんなことを知る由もないセレスは「どうだろう?」と上機嫌にたずねてくる。

(……ガブリエルに会えるんだもの。苦手な人の相手をするだけで彼に会えるんだから、ちょっとは我慢するべきよね)

 ロメリアはそう自分に言い聞かせて、心の中にわだかまる漠然とした不安を心の片隅に追いやった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません~死に戻った嫌われ令嬢は幸せになりたい~

桜百合
恋愛
旧題:もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません〜死に戻りの人生は別の誰かと〜 ★第18回恋愛小説大賞で大賞を受賞しました。応援・投票してくださり、本当にありがとうございました! 10/24にレジーナブックス様より書籍が発売されました。 現在コミカライズも進行中です。 「もしも人生をやり直せるのなら……もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません」 コルドー公爵夫妻であるフローラとエドガーは、大恋愛の末に結ばれた相思相愛の二人であった。 しかしナターシャという子爵令嬢が現れた途端にエドガーは彼女を愛人として迎え、フローラの方には見向きもしなくなってしまう。 愛を失った人生を悲観したフローラは、ナターシャに毒を飲ませようとするが、逆に自分が毒を盛られて命を落とすことに。 だが死んだはずのフローラが目を覚ますとそこは実家の侯爵家。 どうやらエドガーと知り合う前に死に戻ったらしい。 もう二度とあのような辛い思いはしたくないフローラは、一度目の人生の失敗を生かしてエドガーとの結婚を避けようとする。 ※完結したので感想欄を開けてます(お返事はゆっくりになるかもです…!) 独自の世界観ですので、設定など大目に見ていただけると助かります。 ※誤字脱字報告もありがとうございます! こちらでまとめてのお礼とさせていただきます。

【完結】薔薇の花をあなたに贈ります

彩華(あやはな)
恋愛
レティシアは階段から落ちた。 目を覚ますと、何かがおかしかった。それは婚約者である殿下を覚えていなかったのだ。 ロベルトは、レティシアとの婚約解消になり、聖女ミランダとの婚約することになる。 たが、それに違和感を抱くようになる。 ロベルト殿下視点がおもになります。 前作を多少引きずってはいますが、今回は暗くはないです!! 11話完結です。 この度改編した(ストーリーは変わらず)をなろうさんに投稿しました。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

私のことを愛していなかった貴方へ

矢野りと
恋愛
婚約者の心には愛する女性がいた。 でも貴族の婚姻とは家と家を繋ぐのが目的だからそれも仕方がないことだと承知して婚姻を結んだ。私だって彼を愛して婚姻を結んだ訳ではないのだから。 でも穏やかな結婚生活が私と彼の間に愛を芽生えさせ、いつしか永遠の愛を誓うようになる。 だがそんな幸せな生活は突然終わりを告げてしまう。 夫のかつての想い人が現れてから私は彼の本心を知ってしまい…。 *設定はゆるいです。

陛下を捨てた理由

甘糖むい
恋愛
美しく才能あふれる侯爵令嬢ジェニエルは、幼い頃から王子セオドールの婚約者として約束され、完璧な王妃教育を受けてきた。20歳で結婚した二人だったが、3年経っても子供に恵まれず、彼女には「問題がある」という噂が広がりはじめる始末。 そんな中、セオドールが「オリヴィア」という女性を王宮に連れてきたことで、夫婦の関係は一変し始める。 ※改定、追加や修正を予告なくする場合がございます。ご了承ください。

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

処理中です...