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英雄になったダエル
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──魔王が復活した!
──世界の終わりだ!
その報に、大陸中の国々が絶望に打ちひしがれた。何千年も昔に封印されたという魔王。古き封印はやがて力を無くし、怒りに猛る魔王は長い封印の間に培った力で封印を解き、地上へ復活を遂げた。
──誰か、誰か大陸を救ってくれ!
誰かが叫んだ。
──まだ死にたくない!
誰かがそう叫んだ。
すると一縷の光が差した。大陸1の大国──シャシール国の国庫から見つかった大石に刺さった聖剣。
これが、魔王を打つという。
──魔王を打つ志のある者よ、皆シャシールの王都に集まれ!
国中の老若男女、大陸中の老若男女がシャシールの王都に集まった。大陸中の人々は「勇者現る」の報を今か、今かと待ち望んだ。
しかし、半年が経っても聖剣を引き抜く勇者が現れることはなかった。再び大陸中に絶望の影が落ちる。
そんな時。王都より遠く離れた田舎町で、1人の男が聖剣を引き抜きに現れた。誰もが「あんな田舎者」と罵る中で、彼──ダエル・クラレットは大石に刺さった聖剣を、額に汗一滴流すことなくそれを引き抜いた。
「随分と軽い剣だ」
ダエルは快活に笑って、聖剣を王宮のガラス天井から降り注ぐ太陽光へと掲げた。
一線の光が聖剣に降り注いだ。これぞまさしく天の恩寵。先まで彼の風情を馬鹿にしていた者達は皆一斉に見方を変えて、彼を褒めたたえた。そして誰もが言った。
──魔王を倒しに行ってくるんだろう?頑張ってくれよな!
──凱旋式をやるんだって?見にいくぞ!
ダエルは「魔王を倒しに行く」なんて言っていない。ただ、彼は「抜けない剣があるんだと。ちょっくら引き抜きに行ってみようかね」なんて言って、それで引き抜いてみせただけだった。
しかし彼は、強制的に魔王を倒しに行くよう言われても、一切動じることはなく「俺でよければ」と気前よく言って、魔王を倒しに行った。
彼に同行したのは、初めはたった1人。彼の幼馴染で、結婚を約束したカルミアただ1人だった。
しかし、各地でダエルが大きな魔物を倒すたびに、彼に付随する仲間が増えた。旅の道中、彼の人柄に惚れ込んで、着いてきた者もいる。
(まるで、物語の中の勇者のようだわ)
カルミアは、仲間が増えるごとに自分の居場所がなくなっていくようで、心元ない気持ちになった。仲間になった者は何故か皆、魅力的な女ばかり。治癒師、魔法使い、剣士、聖女、何らかの理由で村娘を装う隣国の王女。皆が皆、何かしらダエルの役に立っていた。
そう。カルミアを除いて皆が皆、何かしらの特技を有して魔王討伐に尽力した。
カルミアはただ、深手を負ったダエルの目の前にその身を晒し、魔王の爪によってその身体を抉られること以外に何も出来ることはなかった。
魔王討伐の報は、大陸中に流れた。
そしてダエルは「英雄」となった。彼の花嫁になりたいと、大陸中の国々が「我が娘を花嫁に」と名乗りを上げた。
そしてある日、ダエルはやっとのことで大きな傷を治したカルミアに告げたのだ。
「……ハーレムを作ろうと思うんだが」
カルミアは胸に込み上げる切なさに耐えて、ただ「そう」と頷いて、顔を俯けた。
納得したのではなかった。
ただ、そう言われてしまう情けない自分への苛立ちと、これからハーレムに入るであろう女達への嫉妬に歪む自分の顔をダエルに見て欲しくなかった。ただそれだけだった。
──世界の終わりだ!
その報に、大陸中の国々が絶望に打ちひしがれた。何千年も昔に封印されたという魔王。古き封印はやがて力を無くし、怒りに猛る魔王は長い封印の間に培った力で封印を解き、地上へ復活を遂げた。
──誰か、誰か大陸を救ってくれ!
誰かが叫んだ。
──まだ死にたくない!
誰かがそう叫んだ。
すると一縷の光が差した。大陸1の大国──シャシール国の国庫から見つかった大石に刺さった聖剣。
これが、魔王を打つという。
──魔王を打つ志のある者よ、皆シャシールの王都に集まれ!
国中の老若男女、大陸中の老若男女がシャシールの王都に集まった。大陸中の人々は「勇者現る」の報を今か、今かと待ち望んだ。
しかし、半年が経っても聖剣を引き抜く勇者が現れることはなかった。再び大陸中に絶望の影が落ちる。
そんな時。王都より遠く離れた田舎町で、1人の男が聖剣を引き抜きに現れた。誰もが「あんな田舎者」と罵る中で、彼──ダエル・クラレットは大石に刺さった聖剣を、額に汗一滴流すことなくそれを引き抜いた。
「随分と軽い剣だ」
ダエルは快活に笑って、聖剣を王宮のガラス天井から降り注ぐ太陽光へと掲げた。
一線の光が聖剣に降り注いだ。これぞまさしく天の恩寵。先まで彼の風情を馬鹿にしていた者達は皆一斉に見方を変えて、彼を褒めたたえた。そして誰もが言った。
──魔王を倒しに行ってくるんだろう?頑張ってくれよな!
──凱旋式をやるんだって?見にいくぞ!
ダエルは「魔王を倒しに行く」なんて言っていない。ただ、彼は「抜けない剣があるんだと。ちょっくら引き抜きに行ってみようかね」なんて言って、それで引き抜いてみせただけだった。
しかし彼は、強制的に魔王を倒しに行くよう言われても、一切動じることはなく「俺でよければ」と気前よく言って、魔王を倒しに行った。
彼に同行したのは、初めはたった1人。彼の幼馴染で、結婚を約束したカルミアただ1人だった。
しかし、各地でダエルが大きな魔物を倒すたびに、彼に付随する仲間が増えた。旅の道中、彼の人柄に惚れ込んで、着いてきた者もいる。
(まるで、物語の中の勇者のようだわ)
カルミアは、仲間が増えるごとに自分の居場所がなくなっていくようで、心元ない気持ちになった。仲間になった者は何故か皆、魅力的な女ばかり。治癒師、魔法使い、剣士、聖女、何らかの理由で村娘を装う隣国の王女。皆が皆、何かしらダエルの役に立っていた。
そう。カルミアを除いて皆が皆、何かしらの特技を有して魔王討伐に尽力した。
カルミアはただ、深手を負ったダエルの目の前にその身を晒し、魔王の爪によってその身体を抉られること以外に何も出来ることはなかった。
魔王討伐の報は、大陸中に流れた。
そしてダエルは「英雄」となった。彼の花嫁になりたいと、大陸中の国々が「我が娘を花嫁に」と名乗りを上げた。
そしてある日、ダエルはやっとのことで大きな傷を治したカルミアに告げたのだ。
「……ハーレムを作ろうと思うんだが」
カルミアは胸に込み上げる切なさに耐えて、ただ「そう」と頷いて、顔を俯けた。
納得したのではなかった。
ただ、そう言われてしまう情けない自分への苛立ちと、これからハーレムに入るであろう女達への嫉妬に歪む自分の顔をダエルに見て欲しくなかった。ただそれだけだった。
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