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1巻
1-3
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「大丈夫だ」
「本当ですか?」
「リディアは心配症だな。大丈夫だよ。それより早く行かなくてはな。時間に遅れたら父様の顔に泥を塗ることになる」
「……はい」
リディアは戸惑うような素振りを見せたが、すぐに頷いた。
リディアと共に歩き始めた僕は、シモンが去って行った方向に視線をやる。
気になるが、処罰について、これ以上立ち入る権利を僕は持たない。できるだけの慈悲をかけるようには言った。あとはシモンに任せよう。
「……じゃあ、急ごうか、リディア」
後ろ髪を引かれる思いを抱えたまま、僕は目的の部屋へ急いだ。
武器庫の管理室というのは、武器庫に繋がる廊下の手前にある。
主に武器の調達を担う人間がいる場所だ、と父様の話を思い出す。とはいえ、軍に所属していることには違いないので、剣の腕前も相当なものであるとのことだ。
先の件があるので、どんな荒くれ者が指南役になるのか内心ドキドキしながら扉を叩くと、返ってきたのは存外に柔らかな声だった。
「どうぞ、入ってくれたまえ」
扉を開けると、部屋の中からは爽やかな緑とインクの香りがした。
香水というより、これはただ単に、部屋の中に置かれている観葉植物の香りというべきか。軍という剛健なイメージから、この部屋は随分とかけ離れていた。
床に敷かれた青色のタイルは丁寧に磨かれ、観葉植物が窓から差し込む陽光を受けて伸び伸びと育っている。執務机の上には品の良い卓上ランプに、文鎮、何種類ものインク瓶が置かれている。
何も知らなければ、大変趣味の良い貴婦人たちが集うサロンを訪れたのではないかと思うだろう。
「大丈夫、ここはちゃんと武器庫の管理室だよ。最初にここを訪れた人間は皆、君と同じような反応をするんだ」
そう言いながら、近づいてくる男に僕は目を向けた。
鳶色の髪に、同じく鳶色の瞳。
父様の知り合いというにはあまりにも若いように思える。むしろ、父様の知り合いの息子と言われたほうが納得できる、若々しい容貌の青年だった。
「やあ、初めまして。僕がレオン・ダッグルーズだよ。君があの温和な侯爵のご子息……え、本当にご子息? 令嬢じゃなくて?」
「僕は正真正銘の男です」
憤慨して言うと、レオンは慌てて取り繕った。
「ご、ごめんね。じゃあ、本当に君がエリス君だね? 敬語なんて使わないでよ。歳はそんなに離れていないし……それに雇い主である君のほうが身分は上だよ」
「それは、僕の指南役を正式に引き受けてくださるということですか?」
「うん! 僕まだ軍じゃ下っ端だから、お給金が少ないんだ。だからお小遣い稼ぎしないとなんだけど、軍人が大々的に副業するわけにはいかないから、誰かの指南役を引き受けるのが一番手っ取り早いのさ!」
あまりにあっけらかんと言い放つので、僕はどう反応していいのか分からなかった。
「……分かりました。じゃない、分かった。僕の名前はエリスだ。よろしく頼む」
「うん、うん。よろしくね!」
「失礼なことを聞くけど、あなたは本当に父様の知り合い? 随分と若く見えるのだけど」
レオンはハッとして「ああ」と頷く。
「僕の父上が君のお父上と知り合いなんだ。その繋がりで、僕と君のお父上も知り合いなだけさ」
「なるほど」
「うんうん。……ところで」
そう言って、レオンが僕の背後にいるリディアへ視線を移した。
――嫌な予感がする。
「なんて美しい女性なんだ!」
案の定だった。
僕はとっさに、頬を赤く染めてリディアに近づく彼の前に立ちはだかる。いくら父様の知り合いの息子だからって、その行動に品性があるかどうかは別の問題というわけか。
「彼女のお名前は?」
尋ねられたリディアがこちらを見る。名乗ってもよろしいか、と聞きたいのだろう。
よろしくはないが、あまり礼を欠いたことをすると父様の評判を落とすことになってしまう。僕が渋々頷くと、彼女は深く頭を下げながら口を開いた。
「エリス様にお仕えしております。リディア・カナコルクと申します」
「なんと名前も美しい!」
レオンは一歩一歩と近づき膝をつくと、僕の頭を通り越してリディアを見つめ、どこからともなく薔薇を取り出した。
「月の光に蜂蜜をひと匙垂らしたかのような麗しき髪。瑞々しく輝く翡翠の瞳。薔薇色に染まる頬。細くしなやかな手足。ああ、まるで美しい宝石ばかりを集めて王冠にしたような輝きを放つあなたに、僕は一目で心を奪われた!」
なんなんだ、こいつは。うっとりとした目で譫言を漏らす目の前の男に、僕は開いた口を閉じることができなかった。
この男は、素でこのような性格なのだろうか。
だとしたら、どうして父様は、この男を僕の剣の指南役にしようと思ったんだ。もっといなかったのかよ。
ペラペラつらつらと、それはもう吟遊詩人も顔を真っ青にするほどの言葉を尽くして、レオンはリディアへの賛美を謳いあげる。隣でドン引きしている僕には気づかずに。
リディアもどうしていいのか分からないようで、終始僕に視線を送ってくる。
こうなったら、あの忙しない口元を布で巻いて、その隙にこの場を辞して、「あの指南役はよろしくない」と父様に文句を言ってやろうか。
さすがに失礼なことを考え始めた時、やっとレオンはそのことに気づいたようで、気まずそうに首の裏を掻いた。
「いや、すまない。美しい女性を見るとつい」
「それはやはり……素なのか」
「ん?」
「いや、なんでもない。それより今回こちらから頼んでおいて悪いが、僕の剣の指南の件はなかったことに」
「えぇえええ! そんなこと言わないで! ぜひ、指南させておくれよ~!」
レオンは僕の言葉を聞いて、べそべそと泣き真似をし始めた。この男は、何か誤解をしている。
「言っておくけど、指南してもらおうとしている場所は僕が通う学園であって、屋敷じゃない。つまり僕の指南役を引き受けても、リディアには会えない、ということだ」
なにせ学園に自分の執事やメイドを連れてくるのは、何か特別な事情がある場合を除いて基本的に禁止されているのだから。
「え、そうなの?」
「そうだ。だから――」
言いかけた時、扉が叩かれた。
まだ誰かも名乗っていないのに、レオンが軽い調子で「どうぞ~」と促す。
「――……ここにいたか」
入ってきたのは、シモンだった。
「……シモン」
僕が呼びかけると、シモンがツカツカと僕の前に歩いてきて、顔を覗き込んだ。
そんなに近づかれると眩しすぎて顔が見えない。
「エリス、怪我はないと言っていたが確認したい。治療室があるから来なさい。そこのお嬢さんも怪我があっては大変だから、共においで」
そんな大袈裟な。と思わないでもなかったが、こんな時に限って、手首の血が服の裾に滲んでいることに気づいてしまった。
今は抵抗してもあまり意味はない。大人しく治療してもらうことにしよう。
それにしてもどうしてまだシモンはこんなに不機嫌なんだ?
「……分かった。さ、リディアも行って診てもらおう」
「エリス様、私は大丈夫です。触れられてもおりませんから、ここでお待ちしております」
「いや、君をこんな軽薄な男と二人きりにはさせられない」
レオンを見ると、彼はシモンを前にしているのに全く物怖じする気配も見せずに肩を竦めた。
「ひどい言い草だなあ。僕はそんな卑劣な人間じゃないよ。ね、将軍?」
「安心してくれ。扉の前にちゃんと俺の部下をつけておくから」
「うわ、信用ないな~」
二人は軽い調子で会話していた。
「二人は知り合い?」
「知り合いっていうか、腐れ縁だよね~」
軽い調子で笑うレオンに対して、シモンも苦笑をこぼして「そうだな」と頷く。
「腐れ縁のよしみで言うが、レオンは嫌がる女性を襲うような節操のない奴ではないよ」
シモンが言うのだから、嘘ではないだろう。だが、シモンの言葉は信じられたとして、この男自身を信用できるかは別問題である。
「……リディア、なにかあれば叫ぶんだぞ」
耳打ちすると、リディアは苦笑しながら、ふと真面目な顔になって僕の顔を覗き込んだ。
「……ところでエリス様、やはり怪我をなさっておいでだったのですか? 申し訳ございません。私が気づかなかったばかりに、シモン様にまでご迷惑を……」
「今さっき気づいたんだ。手首の裏を少し切っていただけ。本当にそれだけだ。心配する必要はない」
「はい……」
それでもなお心配そうなリディアに、僕は安心させるように微笑んだ。
「では、エリス」
シモンに促されて、僕は管理室を出た。
やはり軍の人間には怪我がつきものなのだろう。治療室があるのは当然か。
なんて呑気なことを考えていたら、前を歩くシモンが「痛むか?」とわずかに振り向いて聞いてくる。まだ少し冷たい調子の声音だ。そっと手首の裏を見せると、シモンの表情はさらに険しくなってしまった。そんな険しい顔をさせたくて見せたわけではない。
「そんなに痛まない。浅い傷だ。これくらいの怪我は、軍の人間にとってはどうってことないだろう?」
「……そうだな。だがそれは、軍の人間ならの話だ」
「まあ、そうだけど」
なんだろう。いつもよりシモンの口数が少ないからか、それとも優しい調子ではないからか、話しづらい気がする。
「……ねえ、なんでそんなに不機嫌なの? 不機嫌になるべきなのは、僕のほうじゃない?」
ほんの少しからかってみると、シモンはわずかに眉尻を下げて「そうだな、すまない」と謝った。
「ここだ。さあ、入って」
シモンに案内されて、治療室に入る。
消毒に使われる薬草の独特な香りと、何の用途で使われるのか分からない藁の香りが鼻をついた。室内は想像以上に大きく、清潔に保たれている。しかしそこに軍医はいなかった。
なぜいないのか聞いてみると、おそらく薬品調達のために出ているだけだろう、と返ってくる。
「待っていてくれ。まずは水を汲んでくる」
そう言って出て行き、すぐに戻ってきたシモンは、僕の傷口を桶に汲んだ綺麗な水で洗った後、薬品の入った瓶が収納されている棚の前で足を止める。
「傷の手当てくらいなら軍医とさほど変わらない治療ができるから、安心してほしい。さ、ここへ座って」
僕を傍にあった椅子に座るように促して、シモンは棚から青い瓶を取り出し、対面の椅子に腰かけた。
「エリス、手を」
「ん……ん?」
いや、普通に手を差し出してしまったが、つまりシモンが消毒をしてくれるということか?
いやいや、駄目だろう。触られたりしたら、心臓が破裂してしまうではないか。
「じ、自分でやる! 消毒くらい自分でできるぞ」
急いで手を引っ込めようとしたら、シモンは手首を柔らかく掴んで引き留めた。
「俺に手当てをされるのがそんなに嫌か?」
「……いや、そういうことじゃない。これくらい自分でできるから、いいって……うぎゃ!」
傷口にピリリとした痛みが広がる。近くで嗅ぐとより強烈な薬品の香りと痛みが相まって、シモンに触れられているというのに気分は高揚するどころか、むしろ降下する。
小さなかすり傷とはいえ、とてつもなく染みる。予想以上に深い傷だったのかもしれない。
「……急になんてことをするんだ」
「そんなに怒るな。これでも怪我の手当ては上手いほうなんだぞ? ほら、まだじっとしていなさい」
いつもの優しい調子で言われると、なすすべもない。
手当てされている間、僕たちはじっと黙り込む。
最初に口を開いたのはシモンだった。
「……すまなかった。もっと早く通りかかっていれば」
改めて謝る。
「それを言っても仕方がないと思う。シモンが偶然通りかかっただけでも幸運だった。僕の力ではあいつら全員あしらうなんてことできなかっただろうしな」
「……」
「なんで黙るの」
「いや、今日のあなたはとても優しいと思って」
シモンがやんわりと微笑むから、触れられた手首がカッと熱くなったような気がした。
「僕はいつも優しいと思うんだけど」
いや、お前には優しくなかったな……。とは言えず、僕はむっつり黙り込むしかなかった。
「今、自分でそうでもないかと思っただろう」
図星を突かれて身体が強張る。
なんで分かったんだ。僕は今だって無表情になっているはずなのに。
「お……思ったけど。わざわざ指摘しなくてもいいじゃないか」
「……ずっと聞きたかったんだが、どうしてあなたはそんなに俺にだけ冷たいのかな。ルーベンの言うように最初は反抗期か、あるいは思春期かと思っていたが……俺以外にはひどく優しい」
囁くように言われて、耳が赤くなっていないか、ふと不安になった。目の前にある紫色の瞳の中に、誘惑するような色が見えるのは気のせいか。
白状しなさい。と言外に言われているような気がするのは……本当に気のせいなのか?
「……っ」
僕は途端に、逃げ出したくなった。だが、僕が逃げると予想していたのか、怪我をしていない左手が、シモンの大きな手に捕まる。
思わず振り払いそうになったが、先よりずっと強い力で捕まっていて、振り払うことができなかった。
「……っ……ん」
左手に、シモンの手が絡む。
わざとなのか、それとも偶然なのか。手首の、脈が感じられる部分を、意図があるかのようにシモンの指先が掠めていく。
「答えてくれないか?」
いや、答える答えないの前にこの手を離してほしい。これでは興奮と緊張と羞恥でまともに話ができないではないか。
それに、なにか変だ。シモンの聞き方は、まるで答えが分かっているかのように、いたずらめいている。
「俺のことが嫌いだから?」
そんなエロい声を出さないでほしい、頼むから。
「別に……」
「うん?」
うわ、エロい。どうしてこんなに短い返事で、ここまでの色気を出せるのだろうか。
そうではない。今はそんなことを考えている場合ではない。
「お前のことは……その、特別嫌いなわけじゃない」
「そうか?」
「う、ん」
シモンは一体どんな答えを欲していたのか。
僕がどんな答えを出すと予想していたのか。
知りたくて、表情を窺ってみたものの、そこにはいつも通りの優しい笑みが広がっているだけで、他の感情を読み取ることや、まして思考を汲み取ることもできそうになかった。
落胆して肩を落としそうになったところで、絡んでいたシモンの左手がすっと離れる。
どうやら本当に怪我がないか確認していただけのようだった。変な勘ぐりをしてしまった自分が情けない。
「そうだ。もう一つ聞きたいんだが、いいかい」
「な、なんだ」
「今日は、何の用があってここを訪ねた?」
至極真っ当な問いだった。
「……三か月後に、年に一度開催される剣技大会があるんだ。それで、レオンに剣技の指南役を頼みに……」
「あなたは今まで剣の指南役を雇ったことはないと聞くが」
え、誰だ。そんなことをシモンに教えた奴は。しかしそう問う前に、シモンは「どうして急に?」と再び問いかけてきた。
「最後くらい、ちゃんとしようと思っただけだ……」
「……基本的には真面目なあなたが、今まで本気でやろうと思わなかったほうが意外だが」
目が泳がないように力を込めていると、シモンが推測するかのように視線を上へやる。
「あなたは別に、剣を扱うのが下手なわけではないから……大勢の前では緊張してしまうだけかな。あるいは怪我をするのが嫌なのか。いや、違うな。対人が苦手なのか」
「なんで分かるの」
「なんとなく」
シモンはまた柔らかく微笑んで、僕の手を優しく撫でた。その手つきに、労わりを感じて、いつもは頑なに開かない僕の口が、ぽろりと本音をこぼした。
「……生半可な優しさなんて、反吐が出るって自分でも思うけど。今までサボってきた理由は確かにそう」
「だが、それではいけないと思った。だからあなたは、今回本気でやろうと考えたのかな」
本当はそれだけではなくて。ただ、シモンを慕うのに相応しい人間でいたいからだけど……まあ、そんなことはもちろん言えない。
「……うん」
「エリス」
「なに?」
「余計なお世話かもしれないが……人に剣を向けて平気である必要はないんだよ」
いつの間にか、シモンは『将軍』の顔をしていた。
だけどその表情は決して冷たいものではなくて、まして怒っているようでもなくて。ただ教え導こうとする厳しさと優しさが混在したものだった。
「……でもそれじゃあ、戦えないんじゃないのか」
「そんなことはない。泣きながら剣を握ったっていい。いざという時戦えるのなら、それでいいんだよ」
「そうかな」
「あなたは人に剣を向けられるようになるために、試合に勝ちたいわけではないのだろう?」
そう言われて初めて、気づく。僕が試合に勝ちたいのは、苦手と向き合ってこなかった自分を鍛え直すためであり、シモンに恥じない自分でいたいからだ。
自分が何を望んで向き合うと決めたのか、シモンから言われて、苦手意識と本来の目標を混同していたことに気づいた。
「……その通りだ」
途端に視界が開けたような気がして、背筋をピンと伸ばして答える。すると、シモンはいつもの表情に戻って穏やかに笑った。張り詰めていた空気が緩まったのを肌で感じる。
「なあ、エリス」
「ん?」
「俺では駄目か?」
「……は? 唐突になんだ」
「レオンではなく、俺が指南しようか」
「え」
いや、いやいやいや、そんなのは駄目に決まっているだろう!
一体どこに剣の指南を大将軍に頼む馬鹿がいるっていうんだ。
それに、そもそも。
「お前が学園に来たら、大騒ぎになってしまうじゃないか。注目されながら練習するなんて僕は絶対に嫌だ」
努力の成果を見てほしいと思うことはあっても、努力が実を結ぶまでの鍛練に励む姿を大勢の人間に見られたくはない。
素直にそう告げると、シモンは「それもそうか」と考え込むように左手で無精髭を撫でた。
「……惜しいな」
ぼそりと呟くシモン。
その言葉の意味を計りかねている内に、彼は立ち上がってしまった。
「あの……手当て、ありがとう。あと、それから今度会ったら直接言おうと思っていたんだけど。お菓子もありがとう」
「美味しかったかね」
「うん。でも一人では食べきれないから、いくばくかは人に配ることにした。それでも良かったか?」
「もちろんだよ」
シモンは嬉しそうに微笑んだ。
しばらくはまた寮生活に戻るから、この微笑みが見られなくなる。それが寂しい。
だが、そんなことはやはり口が裂けても言えなかった。
◆
国内一の名門校であるこの学園に入学するのは、ほとんどが貴族だが、他に軍人や、貴族の養子となった子供も入ってくる。
つまり、この学園には未来の国政を担おうと志す者たちが在籍しているというわけなのだが、だからといって、学園全体が権力争いによる固い雰囲気と緊張に包まれているわけでもない。
この学園は、学生達に節度ある教育を施す、教育機関としては非常に堅実な場所だった。
「おはようございます、エリス様」
「おはよう、今日からまたよろしくね」
「こちらこそ、よろしくお願いいたしますわ。お時間のある時にでも夏の休暇中のお話をぜひともお聞かせくださいませ」
夏の休暇が終わったばかりの少し落ち着きのない学園内の廊下には、深緑色の制服を身にまとった学生たちがまばらにいる。数人の令嬢たちから声をかけられ、それに答えていると、こちらへ視線を寄越し、こそこそと話す者たちが目に入った。
『あら、エリス様よ。夏の休暇明けでもやはりお変わりないようね。どうして日焼けなさらないのかしら。あとで聞いてみようかしら』
『はあ、素敵よねえ。永遠に見つめていたいくらい。きっと令嬢としてお生まれになったとしてもあのように凛々しく、お美しくお育ちあそばされたのではないかしら』
そう賛美の声が聞こえる一方で……
『でたな、小悪魔令息。いいよなあ、顔がいい奴は。それだけで人気者になれるんだから。この世の中、世知辛いもんだぜ』
『あの顔でもう何十人の令嬢を誘惑して、抱いたらしいぞ。いいなあ、この世を謳歌とはまさにこのことだ』
なんて声も聞こえてくる。言っておくが、僕は童貞だ。誰も抱いてなんかいない。
根も葉もない噂に妬みが籠って、健全な成長を試みる人間の耳を汚すような性質の悪い悪口だ。
とはいえ慣れたものだから、いちいち嫌な気分にもならないが。
「エリス様、夏の休暇中はどうお過ごしでしたの?」
教室に入った途端に話しかけてきた令嬢に、僕は愛想よく答えた。
「父様と母様と一緒に避暑地に行くとかかな。でも、基本的には王都の邸宅で過ごしていたよ」
「では、他国へのご訪問はなさらなかったんですの?」
「遊学中の姉様が帰って来る予定だったから、今回はね。でも結局帰ってこなかったよ。随分と遊学を楽しんでいるらしい」
「まあ、ローリエ様が?」
姉様は、現在隣国へ遊学中だ。爵位を継ぐと自由な時間が得られないから、その前に遊学したいという姉様の要望に父様が応えたのだ。
ちなみにこの国では女性が爵位を継ぐことはよくあることだ。それを他国から来た留学生に教えると「それは珍しいことだ」と言われることが多い。
「お、いたいた。エリス、元気にしてたかー!」
元気よく教室に駆け込んできたのは、その留学生の一人であるノアだった。彼は隣国の海上商人の息子らしく快活な印象があって、実際その性格はとても明るい。褐色の肌に、南国の果実を思わせる鮮やかな朱色の瞳が特徴的な美男子だ。
「元気だったよ。それにしても、また一段と肌が焼けたな。ノア」
「おう、なんたって大陸を囲む海を一周していたからな! 甲板に出て、日を浴びまくったんだ」
豪快に笑うノアにつられて教室の皆が笑う。
「へえ……それで、僕にお土産はある?」
「ないわけないだろ。自分で持ってくるのは大変だから、お前の寮の部屋に送っといた」
「そんなに多いのか?」
「うん、言っただろ? 大陸の周りの海を回ったって。いろんな国の港町で買ったお土産がいっぱいあるからな、楽しみにしてろ!」
彼が白い歯を見せて笑うと、周囲から黄色い歓声があがる。ノアは自分の見せ方をよく知っている男だ。……だからといって、恋愛事に慣れているわけではないけれど。
「あら、私にはないの?」
突然、ぬっと顔を出して話しかけてきたのはカトレアだ。
ノアはカトレアを見ると嫌そうに顔を顰めた。
「あんたに送ったってどうせ、文句を言われるだけだからな。一個も買ってない」
「あら、ひどいわ。人からもらったものに文句を言ったりなんてしないわよ」
意地悪く笑うカトレアに、ノアは一層眉間に皺を寄せた。
その表情だけをみると、ノアはカトレアのことを嫌いなのかと勘違いしそうになるが、実はそうではない。本人が気づいているかどうかは微妙だが、ノアは僕と同じで、想い人には素直になれない人間なのである。
同じ性質を持つ者であるノアに同情していると、途端にカトレアが眉を吊り上げた。
「あなたたち、夏の休暇を楽しんだみたいだけど、剣技大会の鍛練に励む時間はあったんでしょうねえ?」
改めてカトレアがそんなことを言ってくるので、僕は苦笑しながら頷いた。
「今回は本気でやるつもりだよ。一人での鍛練を怠ったことはないけど、今回は指南役もつけることにした」
「あら、あなたにしては珍しい。どういう風の吹き回しか知らないけど……って、ああ、そっか。今回はシモン様が見に来られるからね」
カトレアの告げた言葉への理解が、一瞬遅れる。
「……は? 見に来られるって何を? 誰が? なんだって?」
「何をって、剣技大会をよ。シモン様が、剣技大会を見に、来られるのよ」
「…………はあああ!?」
そんなこと、知らないぞ僕は!
シモンが剣技大会を見に来るだと?
「あら、知っているわけじゃなかったのね。まあでも、つい最近お決めになったそうだから、知らなくても無理はないのかしら」
「なんでシモンが……」
呆然と呟くと、カトレアが肩を竦める。
「さあね。急にご覧になりたいって仰ったと聞いたわ。一体どうしてなのかは誰も分からないけれど、この学園の、特に軍に関係のある人たちは狂喜乱舞しているそうよ。それはそうよね、活躍しているところを憧れの将軍に見てもらえるのだから」
この間会った時、シモンはそんなことを言っていたか?
僕が緊張しすぎて、話してくれたのに聞いていなかっただけか!?
いや、少なくとも僕が剣技大会と言っても特別な反応はしていなかったように思える。だが、本人が「知らない」と言ったわけではないから、本当は知っていたのかもしれない。
しかし知っていたというのなら、どうしてあの日、剣技大会を見に来ることを教えてくれなかったのか。僕に言ったら嫌がられると思ったとか?
それは……ありえないことではない。
「うわあ……エリス、お前、今ものすごく怖い顔してるぞ」
「当たり前よ。憧れの人が見に来るんだもの……エリスはかの御仁のことになると、人格が変わるんだから」
「エリスはほんと、そのシモン様? って人に憧れてるんだなあ。そんなにかっこいい人なのか?」
「当たり前だ、かっこいいなんて言葉では言い表せないくらいに、かっこいい! あの艶やかな焦げ茶色の髪も。甘いハンサムな顔も、厚い胸板も。切れ長の紫色の瞳も。渋い無精髭も。腰に響くような声も。それでもってなにより、優しい性格も。う、思い出すだけで心臓が破裂しそうだ」
「はいはい」
あしらうように手を翻すカトレアに「そんな冷たくしなくても」と唇を尖らせていると、ノアが不思議そうに問いかけてくる。
「なあ、エリスは、どうしてそのシモン様って人を慕うんだ? 別にお前は軍に入ることを望んでいるわけじゃないんだろう?」
それはそうだが、軍に入ることを望んでおらずとも、シモンを慕う理由なんて山ほどある。出会ってからずっと魅力的な男だったから、むしろ慕わない理由を探すほうが大変なほどだ。
そう説明しようと口を開きかけた時、神学を担当する教師が教室に入ってきた。
陰鬱な顔のまるで吸血鬼のような男だが、生徒には真摯な態度で接し、授業内容は示唆に富んでいるため、とてもいい教師だと評判である。
そんな彼のぼんやりとした声を聞きながら、僕は自分の胸元に視線を落とす。そこには入学してからずっと使っている紫色の石のついたループタイが光っている。父様から譲り受けた、今でもお気に入りだ。
これを見つめるたびに……初めて彼の瞳を間近で見た時の記憶が蘇るのだ。
◆
まだ幼かった頃、僕は不機嫌も露わに、父様と共に王宮の廻廊を歩いていた。
父様の領地のことで、国王陛下に謁見する用があるとかないとか。そんなことだったと思う。幼い頃のことなのでそこのところは、よく覚えていない。
その日、父様は謁見のついでに、国王陛下に僕の顔を見せようと考えていたようだった。
『国王様はとてもお優しい方だよ。お前はもちろん覚えていないだろうが、あのお方はお前が生まれた日の晩にこっそりと王宮を抜け出して、侯爵領の屋敷まで足を運んでお祝いを言いにきてくださったんだ。あまりにも可愛いお前を見て、国王様は涙を流されていたなあ』
そう嬉しそうに語る父様の手を握りながら、僕は初めて入った王宮の中を興味津々で眺めていた。
王宮の天井は見上げると首が痛くなるくらい高く、廻廊の天井には、朝から昼へ、昼から夜へ移り変わる空模様が終わりなく描かれていた。壁には金色の額縁で飾られた無数の絵画。廻廊に敷かれた絨毯は星を散らした夜空のように深い青をしていた。
まるで天上界へ迷い込んでしまったようだ、と僕は足取りも軽く歩いていた。
だが、王宮で人とすれ違い話しかけられるたびに、僕の機嫌は降下していった。
『まあ、とても愛らしい女の子ですね』
『将来、美人にお育ちになられるわ』
「本当ですか?」
「リディアは心配症だな。大丈夫だよ。それより早く行かなくてはな。時間に遅れたら父様の顔に泥を塗ることになる」
「……はい」
リディアは戸惑うような素振りを見せたが、すぐに頷いた。
リディアと共に歩き始めた僕は、シモンが去って行った方向に視線をやる。
気になるが、処罰について、これ以上立ち入る権利を僕は持たない。できるだけの慈悲をかけるようには言った。あとはシモンに任せよう。
「……じゃあ、急ごうか、リディア」
後ろ髪を引かれる思いを抱えたまま、僕は目的の部屋へ急いだ。
武器庫の管理室というのは、武器庫に繋がる廊下の手前にある。
主に武器の調達を担う人間がいる場所だ、と父様の話を思い出す。とはいえ、軍に所属していることには違いないので、剣の腕前も相当なものであるとのことだ。
先の件があるので、どんな荒くれ者が指南役になるのか内心ドキドキしながら扉を叩くと、返ってきたのは存外に柔らかな声だった。
「どうぞ、入ってくれたまえ」
扉を開けると、部屋の中からは爽やかな緑とインクの香りがした。
香水というより、これはただ単に、部屋の中に置かれている観葉植物の香りというべきか。軍という剛健なイメージから、この部屋は随分とかけ離れていた。
床に敷かれた青色のタイルは丁寧に磨かれ、観葉植物が窓から差し込む陽光を受けて伸び伸びと育っている。執務机の上には品の良い卓上ランプに、文鎮、何種類ものインク瓶が置かれている。
何も知らなければ、大変趣味の良い貴婦人たちが集うサロンを訪れたのではないかと思うだろう。
「大丈夫、ここはちゃんと武器庫の管理室だよ。最初にここを訪れた人間は皆、君と同じような反応をするんだ」
そう言いながら、近づいてくる男に僕は目を向けた。
鳶色の髪に、同じく鳶色の瞳。
父様の知り合いというにはあまりにも若いように思える。むしろ、父様の知り合いの息子と言われたほうが納得できる、若々しい容貌の青年だった。
「やあ、初めまして。僕がレオン・ダッグルーズだよ。君があの温和な侯爵のご子息……え、本当にご子息? 令嬢じゃなくて?」
「僕は正真正銘の男です」
憤慨して言うと、レオンは慌てて取り繕った。
「ご、ごめんね。じゃあ、本当に君がエリス君だね? 敬語なんて使わないでよ。歳はそんなに離れていないし……それに雇い主である君のほうが身分は上だよ」
「それは、僕の指南役を正式に引き受けてくださるということですか?」
「うん! 僕まだ軍じゃ下っ端だから、お給金が少ないんだ。だからお小遣い稼ぎしないとなんだけど、軍人が大々的に副業するわけにはいかないから、誰かの指南役を引き受けるのが一番手っ取り早いのさ!」
あまりにあっけらかんと言い放つので、僕はどう反応していいのか分からなかった。
「……分かりました。じゃない、分かった。僕の名前はエリスだ。よろしく頼む」
「うん、うん。よろしくね!」
「失礼なことを聞くけど、あなたは本当に父様の知り合い? 随分と若く見えるのだけど」
レオンはハッとして「ああ」と頷く。
「僕の父上が君のお父上と知り合いなんだ。その繋がりで、僕と君のお父上も知り合いなだけさ」
「なるほど」
「うんうん。……ところで」
そう言って、レオンが僕の背後にいるリディアへ視線を移した。
――嫌な予感がする。
「なんて美しい女性なんだ!」
案の定だった。
僕はとっさに、頬を赤く染めてリディアに近づく彼の前に立ちはだかる。いくら父様の知り合いの息子だからって、その行動に品性があるかどうかは別の問題というわけか。
「彼女のお名前は?」
尋ねられたリディアがこちらを見る。名乗ってもよろしいか、と聞きたいのだろう。
よろしくはないが、あまり礼を欠いたことをすると父様の評判を落とすことになってしまう。僕が渋々頷くと、彼女は深く頭を下げながら口を開いた。
「エリス様にお仕えしております。リディア・カナコルクと申します」
「なんと名前も美しい!」
レオンは一歩一歩と近づき膝をつくと、僕の頭を通り越してリディアを見つめ、どこからともなく薔薇を取り出した。
「月の光に蜂蜜をひと匙垂らしたかのような麗しき髪。瑞々しく輝く翡翠の瞳。薔薇色に染まる頬。細くしなやかな手足。ああ、まるで美しい宝石ばかりを集めて王冠にしたような輝きを放つあなたに、僕は一目で心を奪われた!」
なんなんだ、こいつは。うっとりとした目で譫言を漏らす目の前の男に、僕は開いた口を閉じることができなかった。
この男は、素でこのような性格なのだろうか。
だとしたら、どうして父様は、この男を僕の剣の指南役にしようと思ったんだ。もっといなかったのかよ。
ペラペラつらつらと、それはもう吟遊詩人も顔を真っ青にするほどの言葉を尽くして、レオンはリディアへの賛美を謳いあげる。隣でドン引きしている僕には気づかずに。
リディアもどうしていいのか分からないようで、終始僕に視線を送ってくる。
こうなったら、あの忙しない口元を布で巻いて、その隙にこの場を辞して、「あの指南役はよろしくない」と父様に文句を言ってやろうか。
さすがに失礼なことを考え始めた時、やっとレオンはそのことに気づいたようで、気まずそうに首の裏を掻いた。
「いや、すまない。美しい女性を見るとつい」
「それはやはり……素なのか」
「ん?」
「いや、なんでもない。それより今回こちらから頼んでおいて悪いが、僕の剣の指南の件はなかったことに」
「えぇえええ! そんなこと言わないで! ぜひ、指南させておくれよ~!」
レオンは僕の言葉を聞いて、べそべそと泣き真似をし始めた。この男は、何か誤解をしている。
「言っておくけど、指南してもらおうとしている場所は僕が通う学園であって、屋敷じゃない。つまり僕の指南役を引き受けても、リディアには会えない、ということだ」
なにせ学園に自分の執事やメイドを連れてくるのは、何か特別な事情がある場合を除いて基本的に禁止されているのだから。
「え、そうなの?」
「そうだ。だから――」
言いかけた時、扉が叩かれた。
まだ誰かも名乗っていないのに、レオンが軽い調子で「どうぞ~」と促す。
「――……ここにいたか」
入ってきたのは、シモンだった。
「……シモン」
僕が呼びかけると、シモンがツカツカと僕の前に歩いてきて、顔を覗き込んだ。
そんなに近づかれると眩しすぎて顔が見えない。
「エリス、怪我はないと言っていたが確認したい。治療室があるから来なさい。そこのお嬢さんも怪我があっては大変だから、共においで」
そんな大袈裟な。と思わないでもなかったが、こんな時に限って、手首の血が服の裾に滲んでいることに気づいてしまった。
今は抵抗してもあまり意味はない。大人しく治療してもらうことにしよう。
それにしてもどうしてまだシモンはこんなに不機嫌なんだ?
「……分かった。さ、リディアも行って診てもらおう」
「エリス様、私は大丈夫です。触れられてもおりませんから、ここでお待ちしております」
「いや、君をこんな軽薄な男と二人きりにはさせられない」
レオンを見ると、彼はシモンを前にしているのに全く物怖じする気配も見せずに肩を竦めた。
「ひどい言い草だなあ。僕はそんな卑劣な人間じゃないよ。ね、将軍?」
「安心してくれ。扉の前にちゃんと俺の部下をつけておくから」
「うわ、信用ないな~」
二人は軽い調子で会話していた。
「二人は知り合い?」
「知り合いっていうか、腐れ縁だよね~」
軽い調子で笑うレオンに対して、シモンも苦笑をこぼして「そうだな」と頷く。
「腐れ縁のよしみで言うが、レオンは嫌がる女性を襲うような節操のない奴ではないよ」
シモンが言うのだから、嘘ではないだろう。だが、シモンの言葉は信じられたとして、この男自身を信用できるかは別問題である。
「……リディア、なにかあれば叫ぶんだぞ」
耳打ちすると、リディアは苦笑しながら、ふと真面目な顔になって僕の顔を覗き込んだ。
「……ところでエリス様、やはり怪我をなさっておいでだったのですか? 申し訳ございません。私が気づかなかったばかりに、シモン様にまでご迷惑を……」
「今さっき気づいたんだ。手首の裏を少し切っていただけ。本当にそれだけだ。心配する必要はない」
「はい……」
それでもなお心配そうなリディアに、僕は安心させるように微笑んだ。
「では、エリス」
シモンに促されて、僕は管理室を出た。
やはり軍の人間には怪我がつきものなのだろう。治療室があるのは当然か。
なんて呑気なことを考えていたら、前を歩くシモンが「痛むか?」とわずかに振り向いて聞いてくる。まだ少し冷たい調子の声音だ。そっと手首の裏を見せると、シモンの表情はさらに険しくなってしまった。そんな険しい顔をさせたくて見せたわけではない。
「そんなに痛まない。浅い傷だ。これくらいの怪我は、軍の人間にとってはどうってことないだろう?」
「……そうだな。だがそれは、軍の人間ならの話だ」
「まあ、そうだけど」
なんだろう。いつもよりシモンの口数が少ないからか、それとも優しい調子ではないからか、話しづらい気がする。
「……ねえ、なんでそんなに不機嫌なの? 不機嫌になるべきなのは、僕のほうじゃない?」
ほんの少しからかってみると、シモンはわずかに眉尻を下げて「そうだな、すまない」と謝った。
「ここだ。さあ、入って」
シモンに案内されて、治療室に入る。
消毒に使われる薬草の独特な香りと、何の用途で使われるのか分からない藁の香りが鼻をついた。室内は想像以上に大きく、清潔に保たれている。しかしそこに軍医はいなかった。
なぜいないのか聞いてみると、おそらく薬品調達のために出ているだけだろう、と返ってくる。
「待っていてくれ。まずは水を汲んでくる」
そう言って出て行き、すぐに戻ってきたシモンは、僕の傷口を桶に汲んだ綺麗な水で洗った後、薬品の入った瓶が収納されている棚の前で足を止める。
「傷の手当てくらいなら軍医とさほど変わらない治療ができるから、安心してほしい。さ、ここへ座って」
僕を傍にあった椅子に座るように促して、シモンは棚から青い瓶を取り出し、対面の椅子に腰かけた。
「エリス、手を」
「ん……ん?」
いや、普通に手を差し出してしまったが、つまりシモンが消毒をしてくれるということか?
いやいや、駄目だろう。触られたりしたら、心臓が破裂してしまうではないか。
「じ、自分でやる! 消毒くらい自分でできるぞ」
急いで手を引っ込めようとしたら、シモンは手首を柔らかく掴んで引き留めた。
「俺に手当てをされるのがそんなに嫌か?」
「……いや、そういうことじゃない。これくらい自分でできるから、いいって……うぎゃ!」
傷口にピリリとした痛みが広がる。近くで嗅ぐとより強烈な薬品の香りと痛みが相まって、シモンに触れられているというのに気分は高揚するどころか、むしろ降下する。
小さなかすり傷とはいえ、とてつもなく染みる。予想以上に深い傷だったのかもしれない。
「……急になんてことをするんだ」
「そんなに怒るな。これでも怪我の手当ては上手いほうなんだぞ? ほら、まだじっとしていなさい」
いつもの優しい調子で言われると、なすすべもない。
手当てされている間、僕たちはじっと黙り込む。
最初に口を開いたのはシモンだった。
「……すまなかった。もっと早く通りかかっていれば」
改めて謝る。
「それを言っても仕方がないと思う。シモンが偶然通りかかっただけでも幸運だった。僕の力ではあいつら全員あしらうなんてことできなかっただろうしな」
「……」
「なんで黙るの」
「いや、今日のあなたはとても優しいと思って」
シモンがやんわりと微笑むから、触れられた手首がカッと熱くなったような気がした。
「僕はいつも優しいと思うんだけど」
いや、お前には優しくなかったな……。とは言えず、僕はむっつり黙り込むしかなかった。
「今、自分でそうでもないかと思っただろう」
図星を突かれて身体が強張る。
なんで分かったんだ。僕は今だって無表情になっているはずなのに。
「お……思ったけど。わざわざ指摘しなくてもいいじゃないか」
「……ずっと聞きたかったんだが、どうしてあなたはそんなに俺にだけ冷たいのかな。ルーベンの言うように最初は反抗期か、あるいは思春期かと思っていたが……俺以外にはひどく優しい」
囁くように言われて、耳が赤くなっていないか、ふと不安になった。目の前にある紫色の瞳の中に、誘惑するような色が見えるのは気のせいか。
白状しなさい。と言外に言われているような気がするのは……本当に気のせいなのか?
「……っ」
僕は途端に、逃げ出したくなった。だが、僕が逃げると予想していたのか、怪我をしていない左手が、シモンの大きな手に捕まる。
思わず振り払いそうになったが、先よりずっと強い力で捕まっていて、振り払うことができなかった。
「……っ……ん」
左手に、シモンの手が絡む。
わざとなのか、それとも偶然なのか。手首の、脈が感じられる部分を、意図があるかのようにシモンの指先が掠めていく。
「答えてくれないか?」
いや、答える答えないの前にこの手を離してほしい。これでは興奮と緊張と羞恥でまともに話ができないではないか。
それに、なにか変だ。シモンの聞き方は、まるで答えが分かっているかのように、いたずらめいている。
「俺のことが嫌いだから?」
そんなエロい声を出さないでほしい、頼むから。
「別に……」
「うん?」
うわ、エロい。どうしてこんなに短い返事で、ここまでの色気を出せるのだろうか。
そうではない。今はそんなことを考えている場合ではない。
「お前のことは……その、特別嫌いなわけじゃない」
「そうか?」
「う、ん」
シモンは一体どんな答えを欲していたのか。
僕がどんな答えを出すと予想していたのか。
知りたくて、表情を窺ってみたものの、そこにはいつも通りの優しい笑みが広がっているだけで、他の感情を読み取ることや、まして思考を汲み取ることもできそうになかった。
落胆して肩を落としそうになったところで、絡んでいたシモンの左手がすっと離れる。
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途端に視界が開けたような気がして、背筋をピンと伸ばして答える。すると、シモンはいつもの表情に戻って穏やかに笑った。張り詰めていた空気が緩まったのを肌で感じる。
「なあ、エリス」
「ん?」
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「え」
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一体どこに剣の指南を大将軍に頼む馬鹿がいるっていうんだ。
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「お前が学園に来たら、大騒ぎになってしまうじゃないか。注目されながら練習するなんて僕は絶対に嫌だ」
努力の成果を見てほしいと思うことはあっても、努力が実を結ぶまでの鍛練に励む姿を大勢の人間に見られたくはない。
素直にそう告げると、シモンは「それもそうか」と考え込むように左手で無精髭を撫でた。
「……惜しいな」
ぼそりと呟くシモン。
その言葉の意味を計りかねている内に、彼は立ち上がってしまった。
「あの……手当て、ありがとう。あと、それから今度会ったら直接言おうと思っていたんだけど。お菓子もありがとう」
「美味しかったかね」
「うん。でも一人では食べきれないから、いくばくかは人に配ることにした。それでも良かったか?」
「もちろんだよ」
シモンは嬉しそうに微笑んだ。
しばらくはまた寮生活に戻るから、この微笑みが見られなくなる。それが寂しい。
だが、そんなことはやはり口が裂けても言えなかった。
◆
国内一の名門校であるこの学園に入学するのは、ほとんどが貴族だが、他に軍人や、貴族の養子となった子供も入ってくる。
つまり、この学園には未来の国政を担おうと志す者たちが在籍しているというわけなのだが、だからといって、学園全体が権力争いによる固い雰囲気と緊張に包まれているわけでもない。
この学園は、学生達に節度ある教育を施す、教育機関としては非常に堅実な場所だった。
「おはようございます、エリス様」
「おはよう、今日からまたよろしくね」
「こちらこそ、よろしくお願いいたしますわ。お時間のある時にでも夏の休暇中のお話をぜひともお聞かせくださいませ」
夏の休暇が終わったばかりの少し落ち着きのない学園内の廊下には、深緑色の制服を身にまとった学生たちがまばらにいる。数人の令嬢たちから声をかけられ、それに答えていると、こちらへ視線を寄越し、こそこそと話す者たちが目に入った。
『あら、エリス様よ。夏の休暇明けでもやはりお変わりないようね。どうして日焼けなさらないのかしら。あとで聞いてみようかしら』
『はあ、素敵よねえ。永遠に見つめていたいくらい。きっと令嬢としてお生まれになったとしてもあのように凛々しく、お美しくお育ちあそばされたのではないかしら』
そう賛美の声が聞こえる一方で……
『でたな、小悪魔令息。いいよなあ、顔がいい奴は。それだけで人気者になれるんだから。この世の中、世知辛いもんだぜ』
『あの顔でもう何十人の令嬢を誘惑して、抱いたらしいぞ。いいなあ、この世を謳歌とはまさにこのことだ』
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教室に入った途端に話しかけてきた令嬢に、僕は愛想よく答えた。
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「では、他国へのご訪問はなさらなかったんですの?」
「遊学中の姉様が帰って来る予定だったから、今回はね。でも結局帰ってこなかったよ。随分と遊学を楽しんでいるらしい」
「まあ、ローリエ様が?」
姉様は、現在隣国へ遊学中だ。爵位を継ぐと自由な時間が得られないから、その前に遊学したいという姉様の要望に父様が応えたのだ。
ちなみにこの国では女性が爵位を継ぐことはよくあることだ。それを他国から来た留学生に教えると「それは珍しいことだ」と言われることが多い。
「お、いたいた。エリス、元気にしてたかー!」
元気よく教室に駆け込んできたのは、その留学生の一人であるノアだった。彼は隣国の海上商人の息子らしく快活な印象があって、実際その性格はとても明るい。褐色の肌に、南国の果実を思わせる鮮やかな朱色の瞳が特徴的な美男子だ。
「元気だったよ。それにしても、また一段と肌が焼けたな。ノア」
「おう、なんたって大陸を囲む海を一周していたからな! 甲板に出て、日を浴びまくったんだ」
豪快に笑うノアにつられて教室の皆が笑う。
「へえ……それで、僕にお土産はある?」
「ないわけないだろ。自分で持ってくるのは大変だから、お前の寮の部屋に送っといた」
「そんなに多いのか?」
「うん、言っただろ? 大陸の周りの海を回ったって。いろんな国の港町で買ったお土産がいっぱいあるからな、楽しみにしてろ!」
彼が白い歯を見せて笑うと、周囲から黄色い歓声があがる。ノアは自分の見せ方をよく知っている男だ。……だからといって、恋愛事に慣れているわけではないけれど。
「あら、私にはないの?」
突然、ぬっと顔を出して話しかけてきたのはカトレアだ。
ノアはカトレアを見ると嫌そうに顔を顰めた。
「あんたに送ったってどうせ、文句を言われるだけだからな。一個も買ってない」
「あら、ひどいわ。人からもらったものに文句を言ったりなんてしないわよ」
意地悪く笑うカトレアに、ノアは一層眉間に皺を寄せた。
その表情だけをみると、ノアはカトレアのことを嫌いなのかと勘違いしそうになるが、実はそうではない。本人が気づいているかどうかは微妙だが、ノアは僕と同じで、想い人には素直になれない人間なのである。
同じ性質を持つ者であるノアに同情していると、途端にカトレアが眉を吊り上げた。
「あなたたち、夏の休暇を楽しんだみたいだけど、剣技大会の鍛練に励む時間はあったんでしょうねえ?」
改めてカトレアがそんなことを言ってくるので、僕は苦笑しながら頷いた。
「今回は本気でやるつもりだよ。一人での鍛練を怠ったことはないけど、今回は指南役もつけることにした」
「あら、あなたにしては珍しい。どういう風の吹き回しか知らないけど……って、ああ、そっか。今回はシモン様が見に来られるからね」
カトレアの告げた言葉への理解が、一瞬遅れる。
「……は? 見に来られるって何を? 誰が? なんだって?」
「何をって、剣技大会をよ。シモン様が、剣技大会を見に、来られるのよ」
「…………はあああ!?」
そんなこと、知らないぞ僕は!
シモンが剣技大会を見に来るだと?
「あら、知っているわけじゃなかったのね。まあでも、つい最近お決めになったそうだから、知らなくても無理はないのかしら」
「なんでシモンが……」
呆然と呟くと、カトレアが肩を竦める。
「さあね。急にご覧になりたいって仰ったと聞いたわ。一体どうしてなのかは誰も分からないけれど、この学園の、特に軍に関係のある人たちは狂喜乱舞しているそうよ。それはそうよね、活躍しているところを憧れの将軍に見てもらえるのだから」
この間会った時、シモンはそんなことを言っていたか?
僕が緊張しすぎて、話してくれたのに聞いていなかっただけか!?
いや、少なくとも僕が剣技大会と言っても特別な反応はしていなかったように思える。だが、本人が「知らない」と言ったわけではないから、本当は知っていたのかもしれない。
しかし知っていたというのなら、どうしてあの日、剣技大会を見に来ることを教えてくれなかったのか。僕に言ったら嫌がられると思ったとか?
それは……ありえないことではない。
「うわあ……エリス、お前、今ものすごく怖い顔してるぞ」
「当たり前よ。憧れの人が見に来るんだもの……エリスはかの御仁のことになると、人格が変わるんだから」
「エリスはほんと、そのシモン様? って人に憧れてるんだなあ。そんなにかっこいい人なのか?」
「当たり前だ、かっこいいなんて言葉では言い表せないくらいに、かっこいい! あの艶やかな焦げ茶色の髪も。甘いハンサムな顔も、厚い胸板も。切れ長の紫色の瞳も。渋い無精髭も。腰に響くような声も。それでもってなにより、優しい性格も。う、思い出すだけで心臓が破裂しそうだ」
「はいはい」
あしらうように手を翻すカトレアに「そんな冷たくしなくても」と唇を尖らせていると、ノアが不思議そうに問いかけてくる。
「なあ、エリスは、どうしてそのシモン様って人を慕うんだ? 別にお前は軍に入ることを望んでいるわけじゃないんだろう?」
それはそうだが、軍に入ることを望んでおらずとも、シモンを慕う理由なんて山ほどある。出会ってからずっと魅力的な男だったから、むしろ慕わない理由を探すほうが大変なほどだ。
そう説明しようと口を開きかけた時、神学を担当する教師が教室に入ってきた。
陰鬱な顔のまるで吸血鬼のような男だが、生徒には真摯な態度で接し、授業内容は示唆に富んでいるため、とてもいい教師だと評判である。
そんな彼のぼんやりとした声を聞きながら、僕は自分の胸元に視線を落とす。そこには入学してからずっと使っている紫色の石のついたループタイが光っている。父様から譲り受けた、今でもお気に入りだ。
これを見つめるたびに……初めて彼の瞳を間近で見た時の記憶が蘇るのだ。
◆
まだ幼かった頃、僕は不機嫌も露わに、父様と共に王宮の廻廊を歩いていた。
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その日、父様は謁見のついでに、国王陛下に僕の顔を見せようと考えていたようだった。
『国王様はとてもお優しい方だよ。お前はもちろん覚えていないだろうが、あのお方はお前が生まれた日の晩にこっそりと王宮を抜け出して、侯爵領の屋敷まで足を運んでお祝いを言いにきてくださったんだ。あまりにも可愛いお前を見て、国王様は涙を流されていたなあ』
そう嬉しそうに語る父様の手を握りながら、僕は初めて入った王宮の中を興味津々で眺めていた。
王宮の天井は見上げると首が痛くなるくらい高く、廻廊の天井には、朝から昼へ、昼から夜へ移り変わる空模様が終わりなく描かれていた。壁には金色の額縁で飾られた無数の絵画。廻廊に敷かれた絨毯は星を散らした夜空のように深い青をしていた。
まるで天上界へ迷い込んでしまったようだ、と僕は足取りも軽く歩いていた。
だが、王宮で人とすれ違い話しかけられるたびに、僕の機嫌は降下していった。
『まあ、とても愛らしい女の子ですね』
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