小悪魔令息は、色気だだ漏れ将軍閣下と仲良くなりたい。

古堂すいう

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番外編②

休息

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「それは後で」

答えると、シモンはやっと僕の手をとって歩き出す。心なしか口数が少ない。まるで子供のようだ。眠いと急に口数が減る。これは最近分かったシモンの習性だ。自分では気づいていないのだろう。かわいすぎる。

そんなシモンの背を見つめながら、屋敷全体を見渡す。調度品は淡い色彩のものへ。絵画もより一層華やかなものへ。絨毯は毛足の短いものへ。最後にこの屋敷を訪れてから内装はがらりと変わっていた。だけども趣味の良さは相変わらず。

シモンと初めて身体を重ねて以来、何度かこの屋敷を訪れたが、お互いに忙しくしていてこのひと月は会えていなかった。

僕は結局、王宮で文官として働く前に、まずは領地で父様と姉様の補佐を務め、領地経営全般を実地で学ぶことにした。そのため学園を卒業してからは領地へ帰り、領内を周りながら各地に置かれた水質管理所を訪ねて調査書と現在の領内の川の水質に間違いはないかを確認したり、収穫祭の様子を視察したり、領民から直接要望を聞いたり、他の領地へ行って領民の様子をみて見たり、多くのことを短い期間で経験している。

別に、領地経営について詳細に知らずとも、文官にはなれると言う者もいる。確かに、文官の役職の中には領地経営とは無関係の分野だって多くある。

だが、領地経営の仕組みを知らず、各地の現状を知らなければ、文官となった時、自らの仕事の意味と繋がりを理解できないまま働くことになる。それだけは嫌だった。

誰のために今の仕事をしているのか。
この仕事をすることによってどのような利益が生まれるのか。

それを知ってこそ、だと思う。

それを知るために、このひと月動いてきた。

これからもこんな日々が続くだろうし、今以上に忙しくもなるだろう。

シモンと会えないのは寂しいことこの上ないが、彼は将軍として僕より忙しくしているのだ。僕だけがのんびりしているわけにはいかない。いつか何かあった時、シモンと同じ景色が見られる場所に立ち、思慮深く物事を考えられるようになるための大切な期間だ。

だから、この期間が無駄だとは決して思わない。

だが、こうしてシモンと会えた今「それは後で」と余裕をぶっこいて言ったが、僕だって本当はシモンと奥深くまで触れ合いたいと心底思っている。

シモンは不実な男では決してないから会えない期間不安になることはないが、寂しくはなるし、ドロドロに溶けあって永遠に離れられなくなってしまえばいっそ楽だと思う時もある。我ながらやはり重い。

「……?どうした、シモン」

ふいに、シモンが振り返った。階段を登り終えて、浴室の手前だ。

「一緒に入ろう」
「一緒にって……風呂にか」
「髪を洗っておくれ。髭も剃って欲しい……。あなたは髭を剃るのが上手いからな」
「……」

まあ、別に。もう何度も一緒に湯を使ったことがあるから、今更恥ずかしがることはない。嘘。まだかなり恥ずかしい。裸体に自信がないわけではなく、ただ単純にシモンに見られると緊張して心臓がバクバクする。

それに自覚している通り、根が変態なものだから……こう、なんというか、どうしてもシモンの「それ」に視線が吸い寄せられてしまう。

だけども、いつになく甘えたなシモンの誘いを僕が断れるはずもない。

それに──……。

「丁度、試してみて欲しかったしな」
「なにがだね」
「ううん、なんでもない。先に入っててよ。後からちゃんと髭剃ってあげるから」

不思議そうに見つめてくるシモンに微笑み返すと、彼がそれ以上何か問い掛けてくることはなかった。
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