小悪魔令息は、色気だだ漏れ将軍閣下と仲良くなりたい。

古堂すいう

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番外編②

意味のない贈り物

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この贈り物は、特に意味があってする贈り物ではない。

ただずっと……意味のない贈り物をしたかった。将軍になったから、とか。武勲を立てたからとか。そうではなくてただ、恋人同士だから出来る意味のない贈り物をしてみたかったのだ。

「シモン将軍閣下って、普段はどんなものを好んで身に着けておられるのかしら?どうせ贈るんだったら普段から使えるものの方が良いわよね?」
「あー、確かに」

と、言われてみて普段のシモンを思い浮べてみる。

恋人になってまだそんなに日は経っていないが、それ以前から彼の姿を見つめる機会は多かったから、頭にはそれはそれはたくさんのハンサムで色気増し増しなシモンの姿を思い浮べることが出来る。

例えば、社交界の時のシモン。通常、将軍という地位にあっては、非常時のために装飾が華美ではない服装をすることが多いが、社交の場や他国の使者と交流する晩餐会などでは、動きを妨げない範囲で少々装飾の多くなった服装を身に纏い、裏地の紅い優美なマントを背に負って、剣の鞘も金と白銀の装飾と玉飾りのついた豪奢なものになる。もちろん収めている剣は元来彼が使い慣れている愛剣だ。そういった華美が好まれる場で、大体シモンが見に着ける衣装の色は、濃い青や、白と銀が多い。それも全体的に華美ではあるが、決して下品ではないものばかりだ。

それらは全て自ら選んでいるらしい。

シモンはとても趣味が良いのだ。

そんな彼が普段から身に着けているものといえば……。

「……シモンが普段から身に着けているものって、やっぱり剣か?」

いや、だけど僕は剣のことはあまりよく分からない。

軍内部で特に使用するであろう武具や馬具についても下手な知識で買ったものを贈り物にするには難易度が高すぎる。少なくとも今、何の知識も蓄えていないような状態で買う品物ではない。

それでは、武具や馬具以外にシモンが普段使いするものなんて何があるだろうか……。

「うーん……んー?……んー」

声を出したって何も思いつきやしない。下手な首飾りや腰飾りなんかも、訓練中の邪魔になる可能性がある。

「普段使いから離れたほうがいいのかもな……」

例えば、眠る時に使えるものとか。そういう限定的に使えるものでもいいかもしれない。

香水は?……でもなあ、シモンはそのままでも十分にいい匂いがするから、別にいらないような気がする。

あ、シモンの匂いを思い出したら……鼻血が。

駄目だ、駄目だ。今は妄想で興奮している場合ではない。

じゃあ、バスローブ?これは……ああ、駄目だ。想像しただけでまた鼻血が……。

これじゃあ、僕のための贈り物になってしまうではないか!

いや、でも何を贈ろうにも結局はそれを身に着けているシモンが見たいからという欲求に繋がってしまう。こうなったらその欲求に従うしかないのだろうか。

だがしかし、贈るにしてももう少し何かないものか。

「シモンはなんでも似合うからなあ……こういう時困るんだよなあ」

くしゃくしゃと髪の毛が全て抜け落ちるような勢いで髪の毛を掻きむしりながら、ふとシモンの笑う顔を思い浮べる。

大人だから。将軍だから。当然なのかもしれないが、僕の頭の中にいるシモンは、いつも余裕たっぷりだ。恋愛経験以外の経験だって、僕との歳の差以上に多く積んできているから、その仕草や態度に滲み出てしまうのは当然と言える。

僕はその差を埋めようと努力するつもりだが、完璧に埋められるものだとは思っていない。シモンが経験してきた事柄はそれほど軽くはないことばかりだからだ。

だから、シモンが余裕たっぷりで、恋愛未経験の僕を導いてくれることは当然の流れであると言えるし、僕もそれを「ありがたや」と思っている。

しかしながら、時々それを気に喰わないとも思う。

たまには僕みたいに狼狽えてくれたっていいじゃないか。顔を恥じらいで赤く染めてくれてもいいじゃないか。

僕はシモンと体験する全てのことが未経験で、余裕もないのに、シモンばかりが余裕たっぷりで。だからたまにはその余裕を奪ってやりたいと思う。

今回の贈り物でどうこうしようと思っているわけではなかったが、気が変わった。こうなったら、意地でも僕のこの欲望に沿う贈り物を見つけてやる!

「……あ」

視界の端に「それ」が映った。これは「恋人を翻弄してやれ」という神の思し召しかもしれない。これまでにないほど胸が高鳴るのを感じた。

これだ!僕が求めていたものは!
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