24 / 32
番外編①
シモンの回想……登場
しおりを挟む
何の騒ぎかとあたりを見渡すものはいない。扇状の大階段に繋がる室内バルコニー。その扉が開かれる瞬間を、誰もが心待ちにしていたのだから。
「あら、嫌だ。もう始まるみたい。私は両親の元に戻りますわね。せっかくの弟の晴れ姿ですもの。もっと近くで見なくてはね」
彼女はそう告げて、たおやかに笑い紅いドレスの裾を派手に翻し、去って行った。その後を見計らったかのようにルーベンが傍に戻って来る。
「ローリエ嬢に挨拶しなくてよかったのか。お前の婚約者とローリエ嬢は友人だろう?」
「い、いやあ……ちょっと、その……すまん」
彼の婚約者はローリエ嬢とは長年来の友人だ。ローリエ嬢はあの通り、高嶺の花と崇められる存在だが、彼女自身は男など歯牙にもかけない。そんな女性だから、友人の婚約者に対しても厳しい目を向けるらしく、ルーベンは口には出さないがローリエ嬢よりだいぶ年上であるにも関わらず、彼女に対して苦手意識を持っている。
と、そんなことを考えていると、会場内に割れんばかりの拍手喝采が起こった。
華のように色鮮やかな衣装と花飾りを身に着けた貴族の子女達が次から次へと階段を下って来る。色とりどりの花が春を運んでくるようだ。と誰かが賞賛の声を贈った。
「ひゃー!若々しくて目に眩しいねえ。皆、すごく綺麗じゃない」
「そうだな」
いい歳をしてはしゃぐルーベンを横目に見ながら大階段を降りてくる子女達の様子を見つめる。皆、頬を紅潮させ、緊張の面持ちで手を取る相手を見つめていた。ルーベンの言う通り、正装を身に纏う彼らは若々しく目に眩しい。それぞれが、思い思いの正装を身に纏い、その胸ポケットには自らの家紋が刻まれたブローチをつけている。それが天井から釣り下がるシャンデリアの光を反射して、本当に眩しく目を細めていると、横から「あれ、老眼ですか?シモン将軍閣下」とルーベンにからかわれる。
「はは、その冗談は洒落にならないぞ。ルーベン」
「確かに!俺も冗談で言えた身じゃないな!」
「それより今は話しかけるな……そろそろ──……」
言葉にしなかったのではない。言葉が広間全体を覆うほどの拍手と歓声にかき消された。令嬢達の甲高い黄色い喜声が大階段をくだる「彼」を貫くような勢いで、広間を駆け抜けていく。
「うわあ……えげつないな」
ルーベンがぼぞりと呟く。
確かに、本当にえげつない。
上品な烏色の正装。首元で揺れる赤いリボン。決して派手な佇まいをしているわけではないのに、その佇まいと洗練された所作が上品な華やかさを帯びる。なにより花のようにほころぶ顔が、天界から舞い降りた天使と背負う後光を想起させ、この場で伏せて拝みたくなるほどの神々しさを放っていた。実際、涙を流しながら拝み始める令嬢まで出始め、そこかしこでざわざわと音の波が揺れていた。
「あら、嫌だ。もう始まるみたい。私は両親の元に戻りますわね。せっかくの弟の晴れ姿ですもの。もっと近くで見なくてはね」
彼女はそう告げて、たおやかに笑い紅いドレスの裾を派手に翻し、去って行った。その後を見計らったかのようにルーベンが傍に戻って来る。
「ローリエ嬢に挨拶しなくてよかったのか。お前の婚約者とローリエ嬢は友人だろう?」
「い、いやあ……ちょっと、その……すまん」
彼の婚約者はローリエ嬢とは長年来の友人だ。ローリエ嬢はあの通り、高嶺の花と崇められる存在だが、彼女自身は男など歯牙にもかけない。そんな女性だから、友人の婚約者に対しても厳しい目を向けるらしく、ルーベンは口には出さないがローリエ嬢よりだいぶ年上であるにも関わらず、彼女に対して苦手意識を持っている。
と、そんなことを考えていると、会場内に割れんばかりの拍手喝采が起こった。
華のように色鮮やかな衣装と花飾りを身に着けた貴族の子女達が次から次へと階段を下って来る。色とりどりの花が春を運んでくるようだ。と誰かが賞賛の声を贈った。
「ひゃー!若々しくて目に眩しいねえ。皆、すごく綺麗じゃない」
「そうだな」
いい歳をしてはしゃぐルーベンを横目に見ながら大階段を降りてくる子女達の様子を見つめる。皆、頬を紅潮させ、緊張の面持ちで手を取る相手を見つめていた。ルーベンの言う通り、正装を身に纏う彼らは若々しく目に眩しい。それぞれが、思い思いの正装を身に纏い、その胸ポケットには自らの家紋が刻まれたブローチをつけている。それが天井から釣り下がるシャンデリアの光を反射して、本当に眩しく目を細めていると、横から「あれ、老眼ですか?シモン将軍閣下」とルーベンにからかわれる。
「はは、その冗談は洒落にならないぞ。ルーベン」
「確かに!俺も冗談で言えた身じゃないな!」
「それより今は話しかけるな……そろそろ──……」
言葉にしなかったのではない。言葉が広間全体を覆うほどの拍手と歓声にかき消された。令嬢達の甲高い黄色い喜声が大階段をくだる「彼」を貫くような勢いで、広間を駆け抜けていく。
「うわあ……えげつないな」
ルーベンがぼぞりと呟く。
確かに、本当にえげつない。
上品な烏色の正装。首元で揺れる赤いリボン。決して派手な佇まいをしているわけではないのに、その佇まいと洗練された所作が上品な華やかさを帯びる。なにより花のようにほころぶ顔が、天界から舞い降りた天使と背負う後光を想起させ、この場で伏せて拝みたくなるほどの神々しさを放っていた。実際、涙を流しながら拝み始める令嬢まで出始め、そこかしこでざわざわと音の波が揺れていた。
113
お気に入りに追加
3,654
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつまりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。