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番外編①
シモンの回想……社交
しおりを挟む「はあー、あの小さかったエリスも、もう16歳かあ。早いなあ……」
しみじみと、そう宣うのはルーベンだった。
「なあ、お前もそう思うだろう?」
「ああ、そうだな」
同意するとルーベンは再びしみじみとした様子で周囲を見渡した。
ここは王宮の広間。
今日は16歳を迎えた貴族の子女達が正式な社交人として認知される重要な場でもある。周囲にはまだ貫禄のある大人達しかいないが、これからこの広間は若々しい風に吹かれ賑わうことだろう。
すでに将軍の地位についた俺と、近しい立場にあるルーベンは近衛兵に指示を出しながら大広間を回る。公爵を筆頭とした貴族当主や、婦人に声を掛けられては立ち止まり、また歩いては広間を観察する。仕事をしながら、将軍として礼を尽くさなければならないのは面倒だが、今回近衛に対するほとんどの指示は幹部に任せてあるから、まだ楽な方だ。
「まあ……これは、これはシモン将軍閣下。お久しゅうございますわ」
目の前に佇むのは、鮮烈な赤のドレスを身に纏う子女だった。ヴァレヌヴェルチェ侯爵家次期当主であり、エリスの実姉でもあるローリエだ。瑞々しい美しさと理知的なその容姿が、数多の男の眼を引いているが、そんなことはおかまいなしに、彼女は優雅に手を差し出した。心得て、その手を取る。
「お久しぶりでございます。相変わらずお美しいですな」
手の甲に口づける。視線を上げると目があって、にっこりと微笑まれる。その容貌はエリスとよく似ていると言われているが、エリスの方が無垢な印象が強い。ローリエ嬢はどちらかと言えば妖艶で、その奥に聡明な狡猾さが滲む。
「今日くらいは、若い令嬢に社交界の薔薇としての立場をお譲りになられてはいかがですか?」
「あら嫌だ。もちろんそのつもりでしてよ」
ひらひらとした扇を振って一層微笑む彼女は、一見機嫌が良さそうだが、ほんの少し疲れた様子を見せている。その理由には、心当たりがついた。
「あなたの弟君なら、何も心配はいらないかと」
「……そうですわね。わたくしもそれほど心配はしていませんのよ。ただ」
「ただ?」
「あの子のエスコートするお相手が、ね」
「ほお」
16歳になると、婚約者がいる者も多い。早いと結婚する者もいる。幼少の頃から婚約者がいることも珍しくなく、こういった場には恋人か婚約者、あるいは結婚相手を伴って出席する。
しかし、エリスにはそういった相手がいないことは既に多くの者が認知している。そのため、今回麗しの侯爵令息のエスコートする相手が誰なのか、皆が気にしていることだった。
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