18 / 32
番外編①
シモンの回想……青色
しおりを挟む
「いやあ……それにしても、すごい綺麗な子だったなあ。天使みたいで。しかもあのヴァレヌヴェルチェ侯爵家のご令息だろ?滅多にお目に掛かれる子じゃない。お近づきになれるなんて幸運だったなあ」
エリスと出会った日。
顔を青ざめさせ、我が子を探しながら王宮の廻廊を彷徨う侯爵の元へ眠るエリスを返した後、俺とルーベンは軍の宿舎へと戻っていた。王宮には多くの貴族が出入りしているが、あのような小さな子供が出入りすることは極稀だ。目の前に現れた稀有な存在に、ルーベンは興奮冷めやらぬ様子だった。
「そうだな。あんなに小さいのに振り下ろされる剣の前に出るなんて、なかなかの度量だ」
「だよね、なんなら軍に誘っちゃう?」
胸を躍らせるルーベンに対して、俺を首を振らざるを得なかった。
「……いや、情に厚すぎていざという時、あの子は非常になれないだろう。向いているとはいえないな」
「確かに。それにものすごい勢いで泣いていたしね……よっぽど怖かったんだろうなあ。びゃあぁぁぁああだってさ。面白過ぎる」
「ああ」
思い返すと、表情の変化が凄まじい子供だった。青い瞳に浮かぶ僅かな恐怖。それでも背筋を伸ばして、凛と振舞う子供ながらあっぱれな子だ。と感心した次の瞬間には、子供特有の空間を穿つような泣き声をあげて、目から大粒の涙を零す。
「……面白い子供だった」
感想を零すと、ルーベンは陽気に頷いた。
「それにお前のこと大分気に入ってたみたいだしな」
「そうだったか?」
「うん。だってずっとお前の服の裾掴んで離さなかったじゃん。あれくらいの子供ってさ、お前みたいな髭面男とは距離を置くもんだって勝手に思ってたけど、そうじゃないんだなあ」
呟きながら、ルーベンは鞘に納めた剣の柄をゆるゆると撫でる。
「ま、あの子が特殊なだけかもだけど。なにせ顔を見たこともない俺をお前の剣から助けようとしたんだから。いやあ、威勢が良すぎてちょっとドキドキしちゃったよ」
「嬉しそうに言うもんじゃない。子供に守られるなんて、情けない上にかっこ悪すぎる」
「分かってる。分かってる。……おっと用事を思い出した。それじゃおっさきー!」
説教を受ける気配を感じたのだろう。ルーベンは逃げるようにその場を去った。その背中を見届けながら溜息を吐くと「シモンさまー!」と背後から何人かの男達から呼び出される。会議の時間だ。
忙しい毎日。
平和な国とはいえ、島国ではない以上、国境線の警備や国全土の警邏など仕事は山のようにある。
エリスとの出会いは、そんな忙しい日々の中で起こった。この出会いは俺にとって鮮烈な出会いで、澄んだ青色を見るたび、空を見上げるたびに、勇ましい子供を思い出したものだった。
エリスと出会った日。
顔を青ざめさせ、我が子を探しながら王宮の廻廊を彷徨う侯爵の元へ眠るエリスを返した後、俺とルーベンは軍の宿舎へと戻っていた。王宮には多くの貴族が出入りしているが、あのような小さな子供が出入りすることは極稀だ。目の前に現れた稀有な存在に、ルーベンは興奮冷めやらぬ様子だった。
「そうだな。あんなに小さいのに振り下ろされる剣の前に出るなんて、なかなかの度量だ」
「だよね、なんなら軍に誘っちゃう?」
胸を躍らせるルーベンに対して、俺を首を振らざるを得なかった。
「……いや、情に厚すぎていざという時、あの子は非常になれないだろう。向いているとはいえないな」
「確かに。それにものすごい勢いで泣いていたしね……よっぽど怖かったんだろうなあ。びゃあぁぁぁああだってさ。面白過ぎる」
「ああ」
思い返すと、表情の変化が凄まじい子供だった。青い瞳に浮かぶ僅かな恐怖。それでも背筋を伸ばして、凛と振舞う子供ながらあっぱれな子だ。と感心した次の瞬間には、子供特有の空間を穿つような泣き声をあげて、目から大粒の涙を零す。
「……面白い子供だった」
感想を零すと、ルーベンは陽気に頷いた。
「それにお前のこと大分気に入ってたみたいだしな」
「そうだったか?」
「うん。だってずっとお前の服の裾掴んで離さなかったじゃん。あれくらいの子供ってさ、お前みたいな髭面男とは距離を置くもんだって勝手に思ってたけど、そうじゃないんだなあ」
呟きながら、ルーベンは鞘に納めた剣の柄をゆるゆると撫でる。
「ま、あの子が特殊なだけかもだけど。なにせ顔を見たこともない俺をお前の剣から助けようとしたんだから。いやあ、威勢が良すぎてちょっとドキドキしちゃったよ」
「嬉しそうに言うもんじゃない。子供に守られるなんて、情けない上にかっこ悪すぎる」
「分かってる。分かってる。……おっと用事を思い出した。それじゃおっさきー!」
説教を受ける気配を感じたのだろう。ルーベンは逃げるようにその場を去った。その背中を見届けながら溜息を吐くと「シモンさまー!」と背後から何人かの男達から呼び出される。会議の時間だ。
忙しい毎日。
平和な国とはいえ、島国ではない以上、国境線の警備や国全土の警邏など仕事は山のようにある。
エリスとの出会いは、そんな忙しい日々の中で起こった。この出会いは俺にとって鮮烈な出会いで、澄んだ青色を見るたび、空を見上げるたびに、勇ましい子供を思い出したものだった。
116
お気に入りに追加
3,654
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」
「恩? 私と君は初対面だったはず」
「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」
「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」
奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。
彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。