小悪魔令息は、色気だだ漏れ将軍閣下と仲良くなりたい。

古堂すいう

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番外編①

シモンの回想……青色

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「いやあ……それにしても、すごい綺麗な子だったなあ。天使みたいで。しかもあのヴァレヌヴェルチェ侯爵家のご令息だろ?滅多にお目に掛かれる子じゃない。お近づきになれるなんて幸運だったなあ」

エリスと出会った日。

顔を青ざめさせ、我が子を探しながら王宮の廻廊を彷徨う侯爵の元へ眠るエリスを返した後、俺とルーベンは軍の宿舎へと戻っていた。王宮には多くの貴族が出入りしているが、あのような小さな子供が出入りすることは極稀だ。目の前に現れた稀有な存在に、ルーベンは興奮冷めやらぬ様子だった。

「そうだな。あんなに小さいのに振り下ろされる剣の前に出るなんて、なかなかの度量だ」
「だよね、なんなら軍に誘っちゃう?」

胸を躍らせるルーベンに対して、俺を首を振らざるを得なかった。

「……いや、情に厚すぎていざという時、あの子は非常になれないだろう。向いているとはいえないな」
「確かに。それにものすごい勢いで泣いていたしね……よっぽど怖かったんだろうなあ。びゃあぁぁぁああだってさ。面白過ぎる」
「ああ」

思い返すと、表情の変化が凄まじい子供だった。青い瞳に浮かぶ僅かな恐怖。それでも背筋を伸ばして、凛と振舞う子供ながらあっぱれな子だ。と感心した次の瞬間には、子供特有の空間を穿つような泣き声をあげて、目から大粒の涙を零す。

「……面白い子供だった」

感想を零すと、ルーベンは陽気に頷いた。

「それにお前のこと大分気に入ってたみたいだしな」
「そうだったか?」
「うん。だってずっとお前の服の裾掴んで離さなかったじゃん。あれくらいの子供ってさ、お前みたいな髭面男とは距離を置くもんだって勝手に思ってたけど、そうじゃないんだなあ」

呟きながら、ルーベンは鞘に納めた剣の柄をゆるゆると撫でる。

「ま、あの子が特殊なだけかもだけど。なにせ顔を見たこともない俺をお前の剣から助けようとしたんだから。いやあ、威勢が良すぎてちょっとドキドキしちゃったよ」
「嬉しそうに言うもんじゃない。子供に守られるなんて、情けない上にかっこ悪すぎる」
「分かってる。分かってる。……おっと用事を思い出した。それじゃおっさきー!」

説教を受ける気配を感じたのだろう。ルーベンは逃げるようにその場を去った。その背中を見届けながら溜息を吐くと「シモンさまー!」と背後から何人かの男達から呼び出される。会議の時間だ。

忙しい毎日。

平和な国とはいえ、島国ではない以上、国境線の警備や国全土の警邏など仕事は山のようにある。

エリスとの出会いは、そんな忙しい日々の中で起こった。この出会いは俺にとって鮮烈な出会いで、澄んだ青色を見るたび、空を見上げるたびに、勇ましい子供を思い出したものだった。
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