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ライレルの馬祭り Ⅱ
痛感
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「ええ、そうね。確かに私は警戒を解かれて、結局彼と長々とお話してしまったわよ」
開き直ってそう答えると、エドモンドが「嫌味で言ったんじゃないよ」と苦笑交じりに宥めてくる。
「それで?……結局彼は、側妃様と関わりのない人なの?」
結局のところ、聞きたかったのはそれだけである。あの茶会では明らかにミレーユを陥れて、公爵家を巻き込もうとする動きがあった。そんな折に現れて接触してきた不可思議な男。警戒しない方が可笑しい。
「大いに関わりのある人間だ」
「!……やっぱりそうなのね」
自分の推測が当たったことに驚いていると、エドモンドは肩を竦めて「ただ」と前置きする。
「関わりがあると言っても直接的な関わりではないんだ」
「どういうこと?」
「あの男が中立派だったご婦人方や、こちらの派閥に属していたご婦人方と密な関係を築いた後に……皆が側妃派に鞍替えする」
「……」
つまり、クラディスは貴族の地位にある婦人達を側妃派へ寝返させるための橋渡し役と言ったところか。
そうだとすると、あれほどまでに適切な人材はいないように思える。
相手の警戒心を解き、例え懐に潜り込んだと気づかれても、不快感を決して与えてこない。それどころか自然な無邪気さで近寄ってきて、本心は静かな笑みで謎めかせ、興味を引かせる。
「……私を側妃派へ寝返らせようとしているのかしら」
「おそらくな」
「じゃあ、私の愛人になろうとしているの?」
「いや……あなたの場合はまだ結婚していないから、狙っているとしたらあなたの伴侶の座だろうな」
「……私の伴侶になれば次期公爵になれるから?」
「ああ」
「……」
側妃派の橋渡し役であるクラディスが、もし公爵になったら。
きっと、リダルや彼を取り囲む人間は窮地に立たされる。公爵という立場を手に入れることが出来れば、国の行く末をその一存で変えてしまえるほどの権力と財力を有することが出来るからだ。
(それら2つを欲することなく、私を見てくれる人なんて……いないような気がする)
エドモンドでさえ、ミレーユに公爵令嬢という付加価値を見出してしまうと言うのだ。
他に誰が、自分のことを1人の人間として愛してくれるというのだろう。
(……そもそも、結婚相手を選ぶのに愛してくれる相手を選ぼうとすることが……いけないことなのかもしれない)
この貴族社会で、愛ある結婚などやすやすと手に入るものではない。多くの者が望まぬ結婚をして子をなし、義務を終えた後は外に愛人や恋人を作り、夫婦間では得られず、足りなくなった愛を育んで、心を慰める。
そんなものだ。とそんな風にミレーユが割り切れないのは身近に健全な愛を育む両親の姿があったからだろう。
愛のある結婚の素晴らしさを知っているからこそ割り切れない。諦めきれない。
だがいい加減、分かってしまう。
それはとても、とても難しいことなのだと。
愛のある結婚をして、幸せになるのは……公爵令嬢という立場にあるミレーユにとっては奇跡に近いことなのだ。
公爵位を欲する者が再び身近に現れて……ミレーユはあらためて自らの望みを叶える難しさを痛感する。
開き直ってそう答えると、エドモンドが「嫌味で言ったんじゃないよ」と苦笑交じりに宥めてくる。
「それで?……結局彼は、側妃様と関わりのない人なの?」
結局のところ、聞きたかったのはそれだけである。あの茶会では明らかにミレーユを陥れて、公爵家を巻き込もうとする動きがあった。そんな折に現れて接触してきた不可思議な男。警戒しない方が可笑しい。
「大いに関わりのある人間だ」
「!……やっぱりそうなのね」
自分の推測が当たったことに驚いていると、エドモンドは肩を竦めて「ただ」と前置きする。
「関わりがあると言っても直接的な関わりではないんだ」
「どういうこと?」
「あの男が中立派だったご婦人方や、こちらの派閥に属していたご婦人方と密な関係を築いた後に……皆が側妃派に鞍替えする」
「……」
つまり、クラディスは貴族の地位にある婦人達を側妃派へ寝返させるための橋渡し役と言ったところか。
そうだとすると、あれほどまでに適切な人材はいないように思える。
相手の警戒心を解き、例え懐に潜り込んだと気づかれても、不快感を決して与えてこない。それどころか自然な無邪気さで近寄ってきて、本心は静かな笑みで謎めかせ、興味を引かせる。
「……私を側妃派へ寝返らせようとしているのかしら」
「おそらくな」
「じゃあ、私の愛人になろうとしているの?」
「いや……あなたの場合はまだ結婚していないから、狙っているとしたらあなたの伴侶の座だろうな」
「……私の伴侶になれば次期公爵になれるから?」
「ああ」
「……」
側妃派の橋渡し役であるクラディスが、もし公爵になったら。
きっと、リダルや彼を取り囲む人間は窮地に立たされる。公爵という立場を手に入れることが出来れば、国の行く末をその一存で変えてしまえるほどの権力と財力を有することが出来るからだ。
(それら2つを欲することなく、私を見てくれる人なんて……いないような気がする)
エドモンドでさえ、ミレーユに公爵令嬢という付加価値を見出してしまうと言うのだ。
他に誰が、自分のことを1人の人間として愛してくれるというのだろう。
(……そもそも、結婚相手を選ぶのに愛してくれる相手を選ぼうとすることが……いけないことなのかもしれない)
この貴族社会で、愛ある結婚などやすやすと手に入るものではない。多くの者が望まぬ結婚をして子をなし、義務を終えた後は外に愛人や恋人を作り、夫婦間では得られず、足りなくなった愛を育んで、心を慰める。
そんなものだ。とそんな風にミレーユが割り切れないのは身近に健全な愛を育む両親の姿があったからだろう。
愛のある結婚の素晴らしさを知っているからこそ割り切れない。諦めきれない。
だがいい加減、分かってしまう。
それはとても、とても難しいことなのだと。
愛のある結婚をして、幸せになるのは……公爵令嬢という立場にあるミレーユにとっては奇跡に近いことなのだ。
公爵位を欲する者が再び身近に現れて……ミレーユはあらためて自らの望みを叶える難しさを痛感する。
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