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ライレルの馬祭り Ⅰ
未練
しおりを挟む「……ひっ……く……っう」
ミレーユは、1人大きな寝台の上で涙を流していた。
エドモンドにはああ言ってしまったけれど、本当はもう彼以外の人間を好きになれそうにはなかった。
どうしてこんなに惹かれてしまっているのか自分でもよく分からない。彼はとても魅力的で、大人で、思慮深く、時々意地悪な男だ。アランのように甘い言葉ばかりを吐くわけでも、良いところをわざわざ見せようとすることもない。
分かっていた。
彼は彼が出来るだけの精一杯で誠実であろうとしてくれていたことを。
思い返せば、彼が向けてくれる表情や態度に嘘はなかったように思う。
それらを信じて、この関係を続けようと思えば続けられたはずだ。
だけど、恐怖が勝ってしまった。
このままずっと、大切なことを隠されながら共に過ごしていかなければならないのか。
このままずっと、お互いの立場が互いに何らかの意味を持ってしまう関係を続けなければならないのか。
それはあまりにも酷なことのように、思えた。
慕う相手でなければ、なんの感慨も抱くことはないだろうけれど。
ミレーユは既に、エドモンドのことを好きになってしまっている。
だから遅い。
もう、遅い。
『……終わりにしよう』
自分から言い出したことの癖に、エドモンドの低い声がやけに耳に響いて、心から離れない。
どこかで、期待していたのかもしれない。いや、かもしれないじゃない。期待していた。
そんな事は言わないで欲しい。と言って欲しかったのかも知れない。
彼は短い時間で熟慮出来る人間なのかもしれないが、それでもあんなにあっさりと肯定されると、落胆してしまう。
彼は、自分が思うほど想ってくれていたわけではないのだ、と。
彼にとって、自分はその程度の存在だったのだ、と。
思えばエドモンドは今まで、多くの女性と交際してきた人間だ。きっと彼の中では、ミレーユは他の女と何も変わらないのかもしれない。
来る者拒まず、去るもの追わず。
そんな言葉が頭を過って、ミレーユは思わず1人で頷いてしまった。
(……簡単に決めつけたら失礼かしら)
だけど、心の中でくらい恨み言の1つや2つを言わせて欲しい。
そうでなければ、心が休まらない。
彼が悪いわけではないと分かっているけれど。それでも、恨めしいと思ってしまう。こんなに好きにさせておいて、あっさり身を引くなんて。これが駆け引きだというのなら、惨敗だ。
自分には到底出来そうにない。向けられる言葉をそのまま受け止めてしまう自分は、きっと恋愛事の駆け引きには向いていない。
ということは、この先例え誰かと恋人になったとしても……。
碌な恋愛ができる気がしなかった。
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