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策略 (エドモンドside)

気遣い

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「……それで、お兄様はこの一件が片付いたら彼女と別れることにしたの?本当に?」

 リダルは、心底不思議そうにしながら執務机の前に腰掛けて、ワインを一口あおった。

 ここは一応、リダル自身の執務机だから、彼がいることは当然なのだが。普段善良ぶって愛想よく振る舞っている彼と、このいかにも退廃的な雰囲気を醸し出す男とでは、全く印象が違い、いつまで経っても新鮮に感じられて非常に面白い…と今までであれば思うのだが、さすがに今日はそんな気分にはなれなかった。


「本当に、とはどういう意味です?俺は彼女の純粋な願いを叶えられない男ですから……仕方がない」
「ふーん……て、言う割には顔が曇ってるように見えるのは気のせい?」
「そりゃぁ、顔だって曇るでしょうよ。今まで女性から別れを切り出されるなんてことありませんでしたからね。衝撃で未だに心臓がバクついてますよ」
「うわ、嫌だね。モテる男の自慢話なんて」
「あなただってモテるでしょうよ」
「それはそうだけど。まあ、僕に寄ってくる令嬢達って皆、彼女ら自身の親の指示で動いてるんだから、モテるとは言わないよね」

 そうは言うものの、リダル自身は眉目秀麗で、かつ表向きの人当たりは非常に良い。加えて智恵に富んでいる。彼自身に憧れている令嬢は多いはずだが……。

彼がそれを理解していないはずはないのに。

「あの……もしかして、俺は慰められてます?」
「今更気づいたのかい」
「はぁ、まあ……なんだ、あなたに気遣われると薄気味悪いな」
「人がせっかく慰めているのに、なんだいその言い草は」

リダルは苦笑を零しながらも、それ以上何か言うことはない。いつもであれば、立て板に水のような勢いで言葉を掛けてくるはずだが。

どうやら自分でも気づかない内にだいぶ参ってしまっているらしい。

色恋に飽き、美女と浮名を流すことにさえ飽いて……ただ、己が「楽しい」と思うことだけをして、あとは流れる葉が如くに漂うばかりの人生を送ってきた。

だから……今回もまた、流されるままでいい。とそう思っていたのだが。

ミレーユと共に過ごす内に、久しく湧かなかった「渇望」が、湧いた。

最初に出会った頃は「ただの世間知らずのお嬢さん」くらいにしか思わなかったが、己の芯が固い上に気が強く、我儘なところもあり、純真無垢で……なにより、恋慕を抱いたその姿があまりに愛らしく、可愛らしく。

何度、己と彼女の年の差を恨んだか分からない。

もし、年の差がなかったら。

(俺は、おそらく彼女をめちゃくちゃに抱いていただろうな)

久しくなかった渇望と欲情を抱えて、純真無垢な彼女に快楽を教え込んだかも知れない。
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