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動き出す事態

結ばれない

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2人の間に気まずい沈黙が落ちた。

(別に、アランがどうなったって知ったことではないけど……それより気になるのは)

ミレーユは、エドモンドの様子を伺った。膝を折って、寝台の傍に座る彼の顔の位置はミレーユよりも僅かに高いくらいだ。それなのにエドモンドはミレーユを見ようとはせず、彼女の小さな白い手を凝視している。

(責任を……感じているのかしら)

思考を整理する時間がなく、ミレーユの脳内はまだ混乱を極めている。

けれど、確かに分かっていることも1つあった。

(本当は分かりたくなんてなかったけど……)

エドモンドは多少なりとも自分に情を移してくれている。と、ミレーユは直感で感じていた。それが嬉しいと思う反面、今回の事で分かってしまった事柄が喜々として騒ぐ感情に蓋をする。

(彼と私が心から信頼し合うのは……無理なことなのかもしれない)

悲しいけれど、認めたくないけれど……それが事実なのだ。互いの持つ肩書きがあまりに大きすぎて、ことある事にその肩書が互いを「個」として見ることを阻む。今回の一件でよく分かった。

結局、尊き王族の血を受け継ぎ国のために動こうとしているエドモンドにとって、ミレーユの存在は様々な局面で重要な意味を持ってしまう。例えば今回の件では「囮」としての意味を持ってしまった。アランの件では、やはり「国益になる存在」という意味を持ってしまったし、今後もきっとミレーユは「公爵令嬢」として価値を見出され、時に利用されることになるだろう。自分が生まれもった肩書はそれほどまでに大きく、国にとって重要なものだったのだ。

それが、公爵家のたった1人の娘として生まれた者の定めなのかもしれない。受け入れるべき事柄だ。

(だけど、そのたびにこんな風に黙っていられるのはまっぴら御免よ)

教えてくれないのは嫌だった。ちゃんと言葉にして欲しかったのだ。エドモンドの立場を考えると、言えないことがたくさんあるのは分かる。が別に全てを教えて欲しいなどと思っているわけではない。自分が重要な立ち位置にいることくらいは教えて欲しい。けれど今回エドモンドはそうしなかった。おそらく彼は考えなくしてミレーユに言わなかったわけではない。彼なりの理由があってそうしたのなら、きっと彼はこんなことが起こるたびに、ミレーユには黙って行動するのだろう。

ミレーユにはそれが耐えられない。だけれどエドモンドはそうするしかない。平行線だ。


(だから……分かりたくなんてなかったのよ)

ずっと知らんぷりをしていたかった。だけどもうそれは無理だと分かってしまったから。

ミレーユは心の奥底から湧き上がるエドモンドへの恋慕を自ら叱咤して抑え「私の目を見て頂戴」とエドモンドに顔をあげるよう即した。

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