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動き出す事態
真剣
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恐ろしい。そう思った。
それでも、自分は何も悪いことなどしていない。
そんな思いが強かったから、ミレーユはキッと睨み返した。
ここで、カトレーヌが「不敬だ!」と騒いでも、ミレーユは言い訳をすればいい。
元々愛想がいいとは言えないミレーユなので「ただ見つめていただけですのに」と言えばどうにでもなる上に、ここには王妃様がいる。
王妃と側妃は仲が悪いから、当然王妃はミレーユを庇うだろう。
そこまで考えを巡らせた上で、ミレーユはカトレーヌを睨みつけていた。するとカトレーヌが悔しそうにしているのが遠目でもよく分かった。
(なによ、私は何も悪いことなんてしていないわ。侯爵とアランが悪いことをしたのだから、罰せられるのは当然よ)
「ん?どうかしたか……?」
ふいに、カトレーヌが見えなくなった。彼女が姿を消したのではない。
エドモンドが意図してか、していないのか、ミレーユとカトレーヌの間にまるで壁を作るかのごとく立ちはだかったのだ。
ミレーユはエドモンドを見つめたが、彼は飄々とした表情で、何かを考えているような様子はない。
カトレーヌがミレーユを睨んでいることに気づいたのかと思ったが、どうやらそうではないらしかった。
「な、なんでもないわ」
「そうかい?何かあったら言うんだよ」
優しく言われて、ミレーユは素直に頷いた。
さて、王族の皆が揃い、招待客も揃った。
広間の中心にまず進み出たのは、結婚したばかりの貴族達だ。伴侶を見つめながら中心に進み出た彼らは、王族に一礼する。
すると、滑らかに音楽が流れ出し、皆手を取り合って踊りだした。
結婚したばかりの婦人が身に纏う色とりどりのドレスが、花開くように空間を舞う。
ミレーユは既にカトレーヌに睨まれたことなど忘れて、彼女達の幸せそうな様子に魅入っていた。
「……綺麗」
自然と口からまろびでた感想は、静かな音楽に共に溶けて消えてしまった。
彼らのダンスが終わると、会場中から拍手喝采が起こる。ミレーユも全力で拍手していると、横から忍ぶような笑い声が聞こえてきた。
「なによ」
ミレーユが不貞腐れながら問うと、エドモンドは「いや……」と1つ呼吸を置いた後で、言葉を発した。
「お嬢さんは、感動したりすると表情に出やすいんだね。目がキラキラしていた」
「そ、そう?」
「うん。──……綺麗だった」
「そうね。すごい綺麗だったわ」
「違うよ。お嬢さんがね」
「……それは」
それはどうもありがとう。と、そう言葉を返そうとしたのだが、ミレーユには出来なかった。
見上げた時の、エドモンドの表情がいつになく真剣で、その表情があまりにも魅力的で、強気な言葉が勢いを失い、唇から溢れる前に萎んでしまったのだ。
それでも、自分は何も悪いことなどしていない。
そんな思いが強かったから、ミレーユはキッと睨み返した。
ここで、カトレーヌが「不敬だ!」と騒いでも、ミレーユは言い訳をすればいい。
元々愛想がいいとは言えないミレーユなので「ただ見つめていただけですのに」と言えばどうにでもなる上に、ここには王妃様がいる。
王妃と側妃は仲が悪いから、当然王妃はミレーユを庇うだろう。
そこまで考えを巡らせた上で、ミレーユはカトレーヌを睨みつけていた。するとカトレーヌが悔しそうにしているのが遠目でもよく分かった。
(なによ、私は何も悪いことなんてしていないわ。侯爵とアランが悪いことをしたのだから、罰せられるのは当然よ)
「ん?どうかしたか……?」
ふいに、カトレーヌが見えなくなった。彼女が姿を消したのではない。
エドモンドが意図してか、していないのか、ミレーユとカトレーヌの間にまるで壁を作るかのごとく立ちはだかったのだ。
ミレーユはエドモンドを見つめたが、彼は飄々とした表情で、何かを考えているような様子はない。
カトレーヌがミレーユを睨んでいることに気づいたのかと思ったが、どうやらそうではないらしかった。
「な、なんでもないわ」
「そうかい?何かあったら言うんだよ」
優しく言われて、ミレーユは素直に頷いた。
さて、王族の皆が揃い、招待客も揃った。
広間の中心にまず進み出たのは、結婚したばかりの貴族達だ。伴侶を見つめながら中心に進み出た彼らは、王族に一礼する。
すると、滑らかに音楽が流れ出し、皆手を取り合って踊りだした。
結婚したばかりの婦人が身に纏う色とりどりのドレスが、花開くように空間を舞う。
ミレーユは既にカトレーヌに睨まれたことなど忘れて、彼女達の幸せそうな様子に魅入っていた。
「……綺麗」
自然と口からまろびでた感想は、静かな音楽に共に溶けて消えてしまった。
彼らのダンスが終わると、会場中から拍手喝采が起こる。ミレーユも全力で拍手していると、横から忍ぶような笑い声が聞こえてきた。
「なによ」
ミレーユが不貞腐れながら問うと、エドモンドは「いや……」と1つ呼吸を置いた後で、言葉を発した。
「お嬢さんは、感動したりすると表情に出やすいんだね。目がキラキラしていた」
「そ、そう?」
「うん。──……綺麗だった」
「そうね。すごい綺麗だったわ」
「違うよ。お嬢さんがね」
「……それは」
それはどうもありがとう。と、そう言葉を返そうとしたのだが、ミレーユには出来なかった。
見上げた時の、エドモンドの表情がいつになく真剣で、その表情があまりにも魅力的で、強気な言葉が勢いを失い、唇から溢れる前に萎んでしまったのだ。
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