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恋人期間
自尊心
しおりを挟むリダル皇子主催のパーティー。この字面だけを見ると、どことなく堅苦しいような気もするだろうが、そんなことはない。
少なくとも、隠されし皇族であるエドモンドと、公爵のたった1人の愛娘であるミレーユにとっては、次代に爵位を次ぐ予定の貴族達と交流を図るためのいわば皇子の私的なパーティーは、あまり気を張る必要のないものだった。
しかし、王城へ向かう馬車に乗り込んだミレーユの表情は僅かに緊張で強張っていた。
今日は、心の支えである公爵夫妻がいない。
今までにも、ミレーユは1人で晩餐会や、皇族主催のパーティーに参加したことはあるけれど、アランの一件以来、1人で公の場に出ることは避けていた。
貴族社会の中では浮気や不倫、婚約破棄などの不幸な情報は、婚約や結婚といった幸福な情報より数倍早く回る。
アランの浮気も、どこから知れたのか今やフルリス国全域の貴族に知れ渡っていた。
──あのアランとかいう若者。私は前々から怪しいと思っていたんだ。なにせ、表面がよろしすぎて、裏側が全く見えない。そういう者は得てして裏側にとんでもない本性を隠している者だ。
と、偉そぶって葉巻を吸い、妻がいながらも多くの愛人は侍らす貴族もいれば
──メイドに婚約者を奪われてあの高慢な公爵令嬢はさぞ自尊心を傷つけられたことでしょうねえ
と、嫌味たっぷりに笑うミレーユと同じ年頃の令嬢がいたり
ミレーユとアランの婚約破棄は、暇を持て余している一部貴族達の格好の餌じきになっていると言っても良かった。
そんな中で、もちろん公爵夫妻はリダル皇子主催のパーティーについて「行く必要はない」と娘を止めたが、ミレーユは自尊心が極めて高いため、己の不名誉が社交界で延々と流れ続けるのを良しとは思っていなかった。
新しい恋人(仮)がいると分かれば、少なくとも婚約者に浮気された可哀想な公爵令嬢。という気分を害するような憐れみは、全てとは言わないまでも無くなるだろう。
さすが、国で1番美しい公爵令嬢だけあって、やはり代わりはいるのだ。
とでも思ってくれれば上々である。
ミレーユはそんなことを考えている自分のことをあまり好きにはなれなかったが、幼い頃から、魑魅魍魎跋扈する貴族社会で生きてきた彼女にとってその思考は当たり前のものであると言えた。
「お嬢様、着きました」
馬車が止まり、扉向こうから叩く音がする。ミレーユは意を決して馬車から降りた。
差し出された御者の手を取る。するとふわりと星空色のドレスが軽やかに広がった。
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