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恋人期間

鎧のない心

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今まで、ミレーユは自分のことを好きにならない男なんてきっとこの世にはいないと考えていた。なにせ、幼い頃から「大陸一美しい」だの「妖精姫」「国を傾けるほどの美しさ」だのなんだのと、それはもう言葉を尽くして賛美されてきたのだから。それこそ、母のお腹にいる頃から賛美ばかり飲んできたせいで、ミレーユは自尊心が雲の上より高い位置にあって雨風に打たれたことなど一度もなかったのである。


しかしその自尊心もまた、アランによって影を落とすようになってしまったが。


ミレーユは未だに自分が美しく誰よりも愛らしいと思ってはいるけれど、そう思うたびに心の片隅で「本当かしら?」と首を傾げる小さな自分がいることを自覚していた。


「どうしたんだい」
「な、なんでもないわ」

ぷいと顔を背けながらも、ミレーユはどうしようもないほどの不安と疑問に頭を抱えていた。

こんなふうに不安になったことはない。自分を守るための鎧だった自信に対して疑問を抱いたことなんてない。

そんな状態だから、エドモンドにも「かわいい」と言ってもらいたい。好きになって欲しい。そのためにはどんな行動を取ればいいのか。どんな服装をすればいいのか。


そんな風に必死に考えている自分がどうにも心もとない。鎧を剥ぎ取られて、裸で何もない空間を歩いているような、不安と羞恥でどうにかなりそうだった。

「顔があかいね。熱でもあるのかい」

ふと、大きな掌が額を覆う。突然のことにミレーユはビクリと肩を震わせて、澄んだ青色の瞳を丸くした。金の睫毛が憂えた様子で震え、木漏れ日を受けて繊細な輝きを放つ。

エドモンドはそんな彼女の表情を見て、何かに囚われたような気持ちになってその華奢な腰を抱き寄せた。

「な、なあに」

甘い声音と、不安げに揺れる瞳がエドモンドを囚えて離さない。普段は高慢な態度と自信に満ちた言動ばかり取るのに、エドモンドが急に距離を縮めようとした途端、狩られる前の子鹿のように怯えた様子を見せる。

「‥‥‥うん、いやあ、お嬢さんの腰の細さに驚いている」
「そ‥‥‥そう」
「急に触れてしまって申し訳なかったな」

紳士に謝るエドモンドにミレーユは「今後触るときはちゃんと言って頂戴」とだけ告げて、またぷいと顔を背けた。

ぎこちなくも、どこか甘い空気が二人の空間に満ちる。そこでふと思い出した風にエドモンドは「お嬢さんは何色がお好きかな」と洒落ぶって問いかけてきた。急に話の展開が変わったことに内心で驚きながらも、漂っていたぎこちのない空気が晴れたことに安堵して、ミレーユはうーんと悩みながら口を開く。
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