婚約者が愛していたのは、私ではなく私のメイドだったみたいです。

古堂すいう

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友人

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エドモンドと次に会う約束をして、ミレーユはパーティー会場に戻った。

「ああ、良かった。ミレーユ、どこに行っていたんだい」

突然、背後から話しかけられて、ミレーユは肩をビクリと震わせた。

「……アラン」

振り返り、見仰いだアランの顔はいつもと変わらず生真面目そうで、この人がまさか「俺」という一人称を使ったり、薄くも厚くもないその唇で今まで濃厚な口づけを交わしていたとは一見して誰も分からないだろう。

けれど、ミレーユにはこの男の本性がもう分かってしまった。

煮えたぎるような不快感。

先までは、彼を見ただけで心が浮き立ったのに、今は彼を見るだけで不愉快を通り越して吐き気を催しそうになる。

「ミレーユ?」

今すぐこの場で「お前に名前を呼ばれる筋合いはない!」と言ってやりたいがぐっと堪える。

ここでミレーユが騒げば、恐らくこの場にいるすべての人間がアランに疑いの目を向けるだろう。父であるモデューセ公爵は彼とエリーを今すぐここから追い出してくれるかもしれない。

けれどそれだけではまた足りない。足りるはずもない。

花盛り。乙女の貴重な恋する時間を奪って置きながら、この男はいわば両手に花を抱え、片方には愛をささやき、片方は利用するために水だけを与えた。

なんて最低な男だろう!

「ミレーユ、一体どうしたんだい」
「……なんでもないわよ」

思わず冷たい口調になってしまった。

アランはミレーユのその口調に驚いたようで目を丸くする。

(しまった……!)

ここでミレーユが、2人の秘密の関係を知っていると悟られたら、彼はより慎重になってしまうだろう。

と、ミレーユが焦っているところへ背後からカツンと耳あたりの良い靴音が聞こえた。

「ミレーユ嬢」

この声音に振り返ると、エドモンドがいた。

一体どうしたのだろう。先程、次の約束をしたばかりだというのに。

ミレーユが首を傾げると、エドモンドが先程とは打って変わってどこか貴族然とした様子で礼をした。ニッコリ笑うエドモンドに、何か言い忘れたことでもあるのかと思ってミレーユは「どうかなさいまして?」と気軽な様子で声を掛ける。

「ミレーユ、この方とは知り合いなのか?」

今までミレーユが、気安く男に話しかける場面など見たこともないアランは、驚いた様子でミレーユに問いかけたが、ミレーユはそれを無視して、エドモンドの答えを待った。

「少しお時間を頂けますか?」
「ええ……いいわ。アラン、待っていて頂戴」
「……」

アランは押し黙ったまま、返事をしない。ミレーユはエドモンドとともに広間の片隅によると、「いい忘れていたが」と言葉を足す。


「堂々と嫌悪感をあらわにするな。こっちが不貞に気づいているとバレたら、それこそ外堀から埋められて、結婚せざるを得なくなるぞ」
「だって、仕方がないじゃないの。嫌なんだもの」
「あなたの素直なところは美徳とするところだがな。彼と結婚するのはもっと嫌だろう?」
「……嫌よ」
「なら、ほんの少しの間は適当にあしらう程度にしなさい。男心を誰より理解している友人からの忠告だ」
「……うん」

エドモンドは、不服そうに顔をしかめるミレーユの頭を丁寧に撫でて「さ、戻った戻った」と背を柔く押した。

(捨てる神あれば拾う神ありとは、まさにこのことをいうのかしら)

別に捨てられたわけじゃないけど。と誇り高いミレーユは1言付け足して、こちらを凝視続けるアランの元へ渋々と戻った。
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