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婚約パーティー
ハンカチ
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ハンカチだった。あまり優雅なハンカチとは言い難かったが、それでも「涙を拭きなさい」という意味で差し出されたであろうハンカチは、悲しみに浸るミレーユの心に優しさを吹き込む。そっとハンカチを受け取り、涙を拭いた。香るのはバニラのような甘い香り。暖かなその香りに、拭われたはずの涙がまた息を返して、それはボロボロととめどなく流れてくる。
「よく泣くお嬢さんだなあ」
呆れたような、それでいて深い優しさをにじませる声音に、ミレーユはいよいよ声を抑えられなくなって「うわあぁぁああああああああん!」と大声を出した。
「おお、おお、これはあれだな。赤子の声みたいじゃないか」
男は苦笑を零しながらも、わんわんと泣くミレーユを見捨てることなく、その場に留まった。ミレーユはこれ以上ないほど、泣いて、泣いて。泣きすぎて疲れてしまった。流れる涙は枯れてしまい、ついでに声も枯れてしまって、荒れ狂う体内から吐き出すものが何も無くなってしまった。
「少しすっきりしたかい」
男は目の前でしゃがみ込んで、ミレーユの頭を柔く撫でた。
「うん」
ミレーユは幼子のような声音でコクリと頷いた。
「そうか。それは良かった」
「……おじ様、優しいのね。お名前は?」
「おじ様かあ……。俺はまだ30手前なんだがなあ」
「私はまだ18歳よ。私からしてみれば、おじ様はおじ様だわ」
「それもそうだな」
うんうんと納得するように頷く男に、ミレーユは可笑しくなってクスリと笑いを零した。
「お、その調子、その調子。あなたは美人なんだから笑っていたほうがいいな」
慣れた様子で褒めたたえてくる男に、ミレーユは首を傾げた。
「そういえば、おじ様お名前は?」
問いかけると、男はしばし考えるようなそぶりを見せて「申し遅れました。エドモンド・ダナイ。地位は男爵」と告げた。ミレーユは意外に思った。確かにこの男はあまり貴族然としてはいないが、オーラがある。父であるミセラ公爵と同等か、それ以上の。それなので男爵という地位ではあまりに不釣り合いのような気がする。
「……エドモンドおじ様?」
「いや、おじ様はつけなくていい。それに地位はあなたの方が上だろう。呼捨てでも構わない。なんなら愛称で呼んでくれてもいい」
「お父様から軽々しく男性を愛称では呼ばない方がいいって言われているの。だから、エドモンドって呼ぶわ」
「そうかい?じゃあ、それでいい」
「私の名前はミレーユよ。ミレーユ・モデューセ」
「さすがに知っている」
苦笑を零すエドモンドに、ミレーユは問いかける。
「あなたは私のこと、何て呼ぶの?」
「うーん、さすがに呼捨てにするのは憚られるから、ミレーユ嬢くらいにしとくかな」
「うん、じゃあそう呼んで頂戴」
ミレーユは気がついた。いっぱい泣いてみっともない姿を晒したおかげで、エドモンドとは普通に話せている。アランと父以外の男とこんなにもすんなりと話せたことはないので、ミレーユは内心で驚いていた。それはエドモンドの作り出す雰囲気が柔らかく、女性の心を開き方を知っているからだということは分かるが、それを理解していたとしてもこうして他愛もなく話せてしまうのだから、すごい人だとミレーユは感心する。
「よく泣くお嬢さんだなあ」
呆れたような、それでいて深い優しさをにじませる声音に、ミレーユはいよいよ声を抑えられなくなって「うわあぁぁああああああああん!」と大声を出した。
「おお、おお、これはあれだな。赤子の声みたいじゃないか」
男は苦笑を零しながらも、わんわんと泣くミレーユを見捨てることなく、その場に留まった。ミレーユはこれ以上ないほど、泣いて、泣いて。泣きすぎて疲れてしまった。流れる涙は枯れてしまい、ついでに声も枯れてしまって、荒れ狂う体内から吐き出すものが何も無くなってしまった。
「少しすっきりしたかい」
男は目の前でしゃがみ込んで、ミレーユの頭を柔く撫でた。
「うん」
ミレーユは幼子のような声音でコクリと頷いた。
「そうか。それは良かった」
「……おじ様、優しいのね。お名前は?」
「おじ様かあ……。俺はまだ30手前なんだがなあ」
「私はまだ18歳よ。私からしてみれば、おじ様はおじ様だわ」
「それもそうだな」
うんうんと納得するように頷く男に、ミレーユは可笑しくなってクスリと笑いを零した。
「お、その調子、その調子。あなたは美人なんだから笑っていたほうがいいな」
慣れた様子で褒めたたえてくる男に、ミレーユは首を傾げた。
「そういえば、おじ様お名前は?」
問いかけると、男はしばし考えるようなそぶりを見せて「申し遅れました。エドモンド・ダナイ。地位は男爵」と告げた。ミレーユは意外に思った。確かにこの男はあまり貴族然としてはいないが、オーラがある。父であるミセラ公爵と同等か、それ以上の。それなので男爵という地位ではあまりに不釣り合いのような気がする。
「……エドモンドおじ様?」
「いや、おじ様はつけなくていい。それに地位はあなたの方が上だろう。呼捨てでも構わない。なんなら愛称で呼んでくれてもいい」
「お父様から軽々しく男性を愛称では呼ばない方がいいって言われているの。だから、エドモンドって呼ぶわ」
「そうかい?じゃあ、それでいい」
「私の名前はミレーユよ。ミレーユ・モデューセ」
「さすがに知っている」
苦笑を零すエドモンドに、ミレーユは問いかける。
「あなたは私のこと、何て呼ぶの?」
「うーん、さすがに呼捨てにするのは憚られるから、ミレーユ嬢くらいにしとくかな」
「うん、じゃあそう呼んで頂戴」
ミレーユは気がついた。いっぱい泣いてみっともない姿を晒したおかげで、エドモンドとは普通に話せている。アランと父以外の男とこんなにもすんなりと話せたことはないので、ミレーユは内心で驚いていた。それはエドモンドの作り出す雰囲気が柔らかく、女性の心を開き方を知っているからだということは分かるが、それを理解していたとしてもこうして他愛もなく話せてしまうのだから、すごい人だとミレーユは感心する。
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