婚約者が愛していたのは、私ではなく私のメイドだったみたいです。

古堂すいう

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婚約パーティー

婚約パーティー

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「アラン君、ミレーユのことをよろしく頼むよ」

公爵家の屋敷で開かれる「婚約パーティー」には、広間を覆いつくすほどの人が溢れていた。なにせ、シュエンゼル国の次期公爵候補が決まったのだから。

それはもう大賑わいである。

皆、上機嫌に酒を飲み、歌い、踊り、楽し気な雰囲気が広間を満たしていた。

その中でも極めて上機嫌なのが、このパーティーの主催者。シュエンゼル国の公爵であり、ミレーユを溺愛する父でもあるミセラ・モデューセ公爵である。その対面にいて、堂々として生真面目そうな男は、ミレーユの婚約者アラン。カダール侯爵家の次男である。彼は片手にワインを持ち、慈しみに溢れた目でミレーユを見つめた後で、モデューセ公爵にニコリと微笑んだ。


「もちろんです。僕は絶対にミレーユのことを、この国で一番幸せな花嫁にしてみせます」
「はっはっは!言ってくれるじゃないか。その調子で娘のことを頼むよ。君のような真面目で誠実な青年に公爵家の家督を譲ることが出来る私は果報者だなあ」
「そんな、僕なんてまだまだです」

謙遜するアランの服の裾をミレーユはそっと摘まんで、引っ張った。

「謙遜することなんてないわ。アランは私が選んだ人ですもの。この国の誰よりも立派な公爵になるわ」
「ミレーユ……。君にそう言ってもらえることが、なにより嬉しいよ」

アランはミレーユの手を取って、その甲に口づけをした。その一瞬、何故かアランの視線がどこかへずれたような気がしたけれど。(気のせいかしら?)とミレーユは無視した。

「おお、おお、若い2人に当てられてしまいそうだ。いやいや、まだ私は話したりないがね。アラン君とはぜひ、家督の相続について真剣に話し合いたいところだが……今日はやめておこう。娘も君と2人きりになりたいようだから」

そう言って、モデューセ公爵はミレーユに向けて片目を瞬き、その場をそそくさと去っていってしまった。

「もう、お父様ったら……。ごめんね、アラン」
「どうして、君が謝るの?」
「だって、これじゃあまるで、家督を継いでもらうために、私があなたと婚約したみたいじゃないの」

しょんぼりと肩を落とすミレーユの頭を、アランはそっと撫でた。

「僕は分かっているよ。君がそんなことのために僕を婚約者にしたんじゃないって」
「本当に?」
「ああ、君は僕を愛してくれている。ちゃんと伝わっているよ」

アランは爽やかに笑って、ミレーユの額に口づけを落とした。その感触にうっとりしながら、ミレーユはアランの手を握る。が、その瞬間にミレーユの手は払われてしまった。

「……え」

あまりのことに驚いて、アランの顔を見上げると、アランはミレーユの方を見ておらず、どこか別の……夜の庭園に繋がる廊下の方をじっと見ていた。その瞳には今にも消えてしまいそうなほどに切ない光が宿っている。


「ア、アラン……?」
「すまない。ミレーユ」

どこか急くような様子のアランに「どうかしたの? 」とミレーユが問いかける前に、アランは「すまない。少しいいかな。すぐに戻って来るから。君はここで待っていて」と早口に言ってその場を去って行ってしまった。

(……一体、どうしたのかしら?)


ミレーユは、去っていくアランの背中を見ながら、何故か漠然とした不安に襲われてそっと彼の後を追いかけることにした。
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