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花籠の祭典

欲目

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皇子の言葉にぞっとするものを感じながら、セレーネは逃げ出せないかと思考を巡らせる。

しかし、そんな思考をあざ笑うが如く皇子は立ち上がり、そばに置いてあった鈴を鳴らす。

するとどこからともなく黒装束を身に纏った女達が現れて、目に毒々しい色をしたランプを部屋に持ち込み、すぐに去っていった。

一体、なんだというのか。

警戒心を露わにしていると、ランプから黙々と煙が上がってくる。

ねっとりと甘い香りがした。

気分が悪くなったセレーネは、鼻を覆いたくて仕方がないが両腕を縛られていてそれが出来ない。

「あははははは!残念だなあ、セレーネ。甘すぎて、甘すぎて臭いだろう?これにはな、身体を痺れさせる効果があるんだよ。そして極めつけは身体中を敏感にさせて、淫靡な快感に呑ませることも出来る。ああ、安心していい。声は出せるさ……ただしまともには喋れない。出せるのは甘い喘ぎ声だけだ」  

にやにやと笑う皇子は、自分自身も煙を吸って興奮したのか、頬を高潮させ、歩いてくる。

(気持ち悪い……)

セレーネは吐き気に耐えながら、ロイを睨みあげた。

「……お前のような女は、快楽に落とすのが1番面白い」

余裕たっぷりに笑い、頬を掴んでくるロイに、いい加減セレーネは頭にきた。

エルゲン以外の男に触られたくなどなかった。

このロイという皇子の人となりの浅はかさに、セレーネは心底嫌悪を抱いている。

婚約者であった頃は気が弱く、セレーネに対してはうじうじとしていた癖に。自分が強い立場にいる時ばかり、偉そうにふんぞり返って……なんて情けない!

「……っ!」
「う……がっ!」

セレーネは気づけば、ロイの腹に頭突きをくらわせていた。


もちろん、ロイがそんな急な攻撃に耐えられるはずもなく、よろりと後ろに倒れて尻もちをつく。

頑強で絢爛豪華な衣装を身に纏っていて分かりづらいが、ロイは軟弱な身体をしている。幼い頃から病弱であったとか、そういうことではなく単なる鍛錬不足。

「い、痛い!痛い!痛い痛い痛い!」
「っ!」

ロイは叫びながら、情けなくボロボロと涙を零し、セレーネの頬を叩いた。

その力は、ミリーナとそう変わらない。

本当に、ひ弱な皇子なのだ。この皇子は。声の出せないセレーネは、呆れを通り越して関心してしまった。

親の欲目とはこういうことを言うのだろうか、と。

情けなくもこんな者が、一時期は皇位継承権を、手にしていただなんて……。

皇帝は須く民の父であり、導く威厳を持たなければならないのに、このロイにはそんな威厳のようなものは一切感じられない。

それくらいはセレーネにだって分かる……それなのに、皇帝夫妻はロイに皇位継承権を与えた。

その事実に、セレーネは心底ぞっとした。
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