大好きな旦那様はどうやら聖女様のことがお好きなようです

古堂すいう

文字の大きさ
上 下
64 / 73
花籠の祭典

欲目

しおりを挟む
皇子の言葉にぞっとするものを感じながら、セレーネは逃げ出せないかと思考を巡らせる。

しかし、そんな思考をあざ笑うが如く皇子は立ち上がり、そばに置いてあった鈴を鳴らす。

するとどこからともなく黒装束を身に纏った女達が現れて、目に毒々しい色をしたランプを部屋に持ち込み、すぐに去っていった。

一体、なんだというのか。

警戒心を露わにしていると、ランプから黙々と煙が上がってくる。

ねっとりと甘い香りがした。

気分が悪くなったセレーネは、鼻を覆いたくて仕方がないが両腕を縛られていてそれが出来ない。

「あははははは!残念だなあ、セレーネ。甘すぎて、甘すぎて臭いだろう?これにはな、身体を痺れさせる効果があるんだよ。そして極めつけは身体中を敏感にさせて、淫靡な快感に呑ませることも出来る。ああ、安心していい。声は出せるさ……ただしまともには喋れない。出せるのは甘い喘ぎ声だけだ」  

にやにやと笑う皇子は、自分自身も煙を吸って興奮したのか、頬を高潮させ、歩いてくる。

(気持ち悪い……)

セレーネは吐き気に耐えながら、ロイを睨みあげた。

「……お前のような女は、快楽に落とすのが1番面白い」

余裕たっぷりに笑い、頬を掴んでくるロイに、いい加減セレーネは頭にきた。

エルゲン以外の男に触られたくなどなかった。

このロイという皇子の人となりの浅はかさに、セレーネは心底嫌悪を抱いている。

婚約者であった頃は気が弱く、セレーネに対してはうじうじとしていた癖に。自分が強い立場にいる時ばかり、偉そうにふんぞり返って……なんて情けない!

「……っ!」
「う……がっ!」

セレーネは気づけば、ロイの腹に頭突きをくらわせていた。


もちろん、ロイがそんな急な攻撃に耐えられるはずもなく、よろりと後ろに倒れて尻もちをつく。

頑強で絢爛豪華な衣装を身に纏っていて分かりづらいが、ロイは軟弱な身体をしている。幼い頃から病弱であったとか、そういうことではなく単なる鍛錬不足。

「い、痛い!痛い!痛い痛い痛い!」
「っ!」

ロイは叫びながら、情けなくボロボロと涙を零し、セレーネの頬を叩いた。

その力は、ミリーナとそう変わらない。

本当に、ひ弱な皇子なのだ。この皇子は。声の出せないセレーネは、呆れを通り越して関心してしまった。

親の欲目とはこういうことを言うのだろうか、と。

情けなくもこんな者が、一時期は皇位継承権を、手にしていただなんて……。

皇帝は須く民の父であり、導く威厳を持たなければならないのに、このロイにはそんな威厳のようなものは一切感じられない。

それくらいはセレーネにだって分かる……それなのに、皇帝夫妻はロイに皇位継承権を与えた。

その事実に、セレーネは心底ぞっとした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います

りまり
恋愛
 私の名前はアリスと言います。  伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。  母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。  その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。  でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。  毎日見る夢に出てくる方だったのです。

【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい

高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。 だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。 クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。 ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。 【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】

【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる

kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。 いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。 実はこれは二回目人生だ。 回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。 彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。 そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。 その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯ そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。 ※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。 ※ 設定ゆるゆるです。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

報われない恋の行方〜いつかあなたは私だけを見てくれますか〜

矢野りと
恋愛
『少しだけ私に時間をくれないだろうか……』 彼はいつだって誠実な婚約者だった。 嘘はつかず私に自分の気持ちを打ち明け、学園にいる間だけ想い人のこともその目に映したいと告げた。 『想いを告げることはしない。ただ見ていたいんだ。どうか、許して欲しい』 『……分かりました、ロイド様』 私は彼に恋をしていた。だから、嫌われたくなくて……それを許した。 結婚後、彼は約束通りその瞳に私だけを映してくれ嬉しかった。彼は誠実な夫となり、私は幸せな妻になれた。 なのに、ある日――彼の瞳に映るのはまた二人になっていた……。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※お話の内容があわないは時はそっと閉じてくださいませ。

【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない

曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが── 「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」 戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。 そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……? ──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。 ★小説家になろうさまでも公開中

【完結】婚約者様、王女様を優先するならお好きにどうぞ

曽根原ツタ
恋愛
オーガスタの婚約者が王女のことを優先するようになったのは――彼女の近衛騎士になってからだった。 婚約者はオーガスタとの約束を、王女の護衛を口実に何度も破った。 美しい王女に付きっきりな彼への不信感が募っていく中、とある夜会で逢瀬を交わすふたりを目撃したことで、遂に婚約解消を決意する。 そして、その夜会でたまたま王子に会った瞬間、前世の記憶を思い出し……? ――病弱な王女を優先したいなら、好きにすればいいですよ。私も好きにしますので。

処理中です...