61 / 73
花籠の祭典
無感情
しおりを挟む「なにが可笑しいのよ!」
またしても甲高い声を上げるミリーナに対して、セレーネは背後に立つ男にちらりと視線を送った。
ミリーナはもう自分に手を出すことは出来ない。少なくとも顔を叩かれることはないだろう。
ミリーナの背後に控える男達は、セレーネの顔に商品的価値を見出している。
昔から、この顔のことで問題に巻き込まれることは多かった。幸いにも突発的なものばかりだったが、数度は本気で攫われそうになったこともある。
さすがに、妹のミリーナが顔を出している時点でただ単に攫われるだけとは思わないが、この男達がいる間は、少なくともミリーナはセレーネに手を出すことは不可能だ。
それならば、言い返しても問題ないだろう。
「あの人は、確かに誰にでも優しいけど……エルゲンは私のこと愛してくれているもの。例えあなたが後釜に座ろうとしたって追い返されるだけよ」
きっと、少し前だったら。
セレーネは、ミリーナの言葉に同意してしまっていたかもしれない。エルゲンは誰にでも優しいから。大勢の前で婚約破棄され、財産まで没収されそうになっている令嬢が放っておけなかっただけかもしれない。
本当は、エルゲンは一緒になりたい人がいたのかもしれない。
そんな風に考えて、きっとこの場でこんなに冷静ではいられなかった。
だけど今は、エルゲンがどれだけ長い間、一生懸命にセレーネ自身を愛してくれていたのか理解出来ているから。
「ふん!可哀想なお姉様!そんなのただの妄言だわ」
「そう思いたいなら、そう思っていたらいいんじゃない?」
やけに冷静で、かつ無感情なセレーネにミリーナは胃をじくじくと炙られるような痛みを覚え、その表情を歪める。
拳がぶるぶると震えるが、背後には男達がいる。殴れない。
今のミリーナに出来る最大限のことは、時間が来るまでセレーネを罵倒し続けることだ。
ずっと、ずっと憎かったこの姉を。言葉で絶望の淵に追いやることだ。
教養もあって、礼儀作法も完璧な自分が、祖父エダンに愛されず、何故気だけは強く何をしてもすぐに飽きるセレーネが愛されるのか。
やはり容姿だろうか。
セレーネは幼い頃から飛び抜けた美貌を持っている。ミリーナだって相当な美人だが、やはりセレーネには及ばない。
たったそれだけの理由で?許せない。
お姉様は顔だけのろくでなし。
何をしたって私より劣っていた。
両親は私だけを愛してくれていた。
ミリーナは考えられるだけの罵詈雑言をセレーネに浴びせたが、堪える様子は見られない。
100
お気に入りに追加
4,906
あなたにおすすめの小説

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います
りまり
恋愛
私の名前はアリスと言います。
伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。
母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。
その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。
でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。
毎日見る夢に出てくる方だったのです。

【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい
高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。
だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。
クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。
ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。
【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】

【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる
kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。
いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。
実はこれは二回目人生だ。
回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。
彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。
そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。
その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯
そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。
※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。
※ 設定ゆるゆるです。
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

報われない恋の行方〜いつかあなたは私だけを見てくれますか〜
矢野りと
恋愛
『少しだけ私に時間をくれないだろうか……』
彼はいつだって誠実な婚約者だった。
嘘はつかず私に自分の気持ちを打ち明け、学園にいる間だけ想い人のこともその目に映したいと告げた。
『想いを告げることはしない。ただ見ていたいんだ。どうか、許して欲しい』
『……分かりました、ロイド様』
私は彼に恋をしていた。だから、嫌われたくなくて……それを許した。
結婚後、彼は約束通りその瞳に私だけを映してくれ嬉しかった。彼は誠実な夫となり、私は幸せな妻になれた。
なのに、ある日――彼の瞳に映るのはまた二人になっていた……。
※この作品の設定は架空のものです。
※お話の内容があわないは時はそっと閉じてくださいませ。

【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない
曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが──
「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」
戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。
そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……?
──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。
★小説家になろうさまでも公開中

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~
Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。
走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる