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花籠の祭典
無感情
しおりを挟む「なにが可笑しいのよ!」
またしても甲高い声を上げるミリーナに対して、セレーネは背後に立つ男にちらりと視線を送った。
ミリーナはもう自分に手を出すことは出来ない。少なくとも顔を叩かれることはないだろう。
ミリーナの背後に控える男達は、セレーネの顔に商品的価値を見出している。
昔から、この顔のことで問題に巻き込まれることは多かった。幸いにも突発的なものばかりだったが、数度は本気で攫われそうになったこともある。
さすがに、妹のミリーナが顔を出している時点でただ単に攫われるだけとは思わないが、この男達がいる間は、少なくともミリーナはセレーネに手を出すことは不可能だ。
それならば、言い返しても問題ないだろう。
「あの人は、確かに誰にでも優しいけど……エルゲンは私のこと愛してくれているもの。例えあなたが後釜に座ろうとしたって追い返されるだけよ」
きっと、少し前だったら。
セレーネは、ミリーナの言葉に同意してしまっていたかもしれない。エルゲンは誰にでも優しいから。大勢の前で婚約破棄され、財産まで没収されそうになっている令嬢が放っておけなかっただけかもしれない。
本当は、エルゲンは一緒になりたい人がいたのかもしれない。
そんな風に考えて、きっとこの場でこんなに冷静ではいられなかった。
だけど今は、エルゲンがどれだけ長い間、一生懸命にセレーネ自身を愛してくれていたのか理解出来ているから。
「ふん!可哀想なお姉様!そんなのただの妄言だわ」
「そう思いたいなら、そう思っていたらいいんじゃない?」
やけに冷静で、かつ無感情なセレーネにミリーナは胃をじくじくと炙られるような痛みを覚え、その表情を歪める。
拳がぶるぶると震えるが、背後には男達がいる。殴れない。
今のミリーナに出来る最大限のことは、時間が来るまでセレーネを罵倒し続けることだ。
ずっと、ずっと憎かったこの姉を。言葉で絶望の淵に追いやることだ。
教養もあって、礼儀作法も完璧な自分が、祖父エダンに愛されず、何故気だけは強く何をしてもすぐに飽きるセレーネが愛されるのか。
やはり容姿だろうか。
セレーネは幼い頃から飛び抜けた美貌を持っている。ミリーナだって相当な美人だが、やはりセレーネには及ばない。
たったそれだけの理由で?許せない。
お姉様は顔だけのろくでなし。
何をしたって私より劣っていた。
両親は私だけを愛してくれていた。
ミリーナは考えられるだけの罵詈雑言をセレーネに浴びせたが、堪える様子は見られない。
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