大好きな旦那様はどうやら聖女様のことがお好きなようです

古堂すいう

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花籠の祭典

愚か

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「おっと、お嬢さん。これ以上は許せねぇな」


荒い口調で宣う男が、ようやくローブを外した。

髭面の強面な男だ。彼はにやにやと笑いながら、ミリーナの細腕を捉えて離さない。

「この女の面は値千金なんだ。これ以上傷つけられたら、こっちは商売上がったりなんだよ。……別に俺達はいいんだぜ?この女とあんたをここで同時に攫うんでも。別にあんたから金を貰うわけじゃあないしなあ」
「……馬鹿なことを言うのはやめなさい。離して!」 


ミリーナは甲高い声をあげて叫んだ。すると男はやかましそうに「へいへい」と言って、その手を離す。

その様子を見て、セレーネは1つ違和感を感じた。

(別にあんたから金を貰うわけじゃない……って、どういうこと?この男達の雇い主はミリーナではないってこと?)

しかし、確かに言われてみれば変だ。

ミリーナに、この男達を雇う財力があるわけがない。公爵家にはあるだろうが……。

しかしミリーナはその公爵家の今やたった1人の令嬢である。

もし公爵家が雇い主なのだとしたら、その息女に対してこんな無礼な発言をするだろうか。


ミリーナは男に触れられた腕の部分をハンカチでゴシゴシとこすりながら「それで、もう報告したの?」と問いかける。

「今、下っ端の奴が行ってる」

男が端的に答えると、ミリーナは口角を気味悪く捻じ曲げて、セレーネを見下ろした。

「ふふ、ふふふふ、可哀想なお姉様。今までの幸せはどん底に堕ちる前のただの序章だったのよ」

ミリーナの瞳の奥は淀んでいる。彼女は、セレーネまでとは言わないまでも、美しい令嬢の1人としての名声くらいは持っていた。

しかしながら、今目の前で下品な笑い声を上げている彼女からは、一切の気品が失われている。およそ公爵の息女とは思えない。

「そうだわ、お姉様。1つだけ教えてあげる……。お姉様がいなくなった後はね。私がエルゲン様の妻になるのよ」
「……」

セレーネは絶句してしまい、表情が固まってしまった。それを見て、ミリーナは何を勘違いしたのか今までにないほど奇妙な笑顔で笑い始めた。

「エルゲン様は、お姉様を愛しているとくだらない噂を聞く度に、私は心を痛めていたわ。だって、あの方は誰にでも優しいだけだもの。例え、お姉様のことが好きではなくても、王子様に婚約破棄された哀れな人をあの方が放っておくわけがない。それを皆、勘違いして……。きっとあの方は姉様がいなくなった後、お優しいから悲しむ素振りを見せるんでしょうね。そしてそれをお慰めするのが、この私よ」

うっとり恍惚に満ちた表情のミリーナに、セレーネはポカンと口を開けて、思わず鼻で笑ってしまった。

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