大好きな旦那様はどうやら聖女様のことがお好きなようです

古堂すいう

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想い

祝福について

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本当にこの人は、よく出来た人だと思う。

セレーネは感心していた。人の気持ちをよく察することが出来る。穏やかで春のように温かい人。だからこそ、女神様は彼を選んだのだろう。きっと、レーヌの心にも彼から与えられたぬくもりがあるはずだ。だから彼女はエルゲンのことを慕う。けれど、その想いは受け入れられなかった。


セレーネは想像してみた。

今まで他人の立場になって考えたことなど一度もなかったが、セレーネはもし自分がレーヌの立場だったらと考えざるを得なかった。エルゲンに心を奪われているという点においては、彼女と同じような立場にあるから。

幼い頃から無自覚に恋い慕う人─エルゲン。やっと聖女として傍に立つことが出来たのに、彼には妻がいる。しかも、自分でも自覚出来なかった恋心をその妻に指摘された挙げ句、自覚したばかりの想いさえ断ち切られてしまった。

これで本当に断ち切られたのなら良い。けれどもしそうでないとしたら、これから彼女は地獄のような日々を送ることになる。

恋い慕う相手と一生添い遂げることが出来ないと。その事実を飲み込んで生きていかなければならないのだ。

「‥‥‥何か、考え事ですか?」
「‥‥‥あ」
「そんなに難しい顔をして、レーヌのことを考えていらっしゃるのでしょう」
「ええ‥‥‥私だったら耐えられないと思ったの」
「どういう意味ですか?」
「もし私が聖女様と同じ立場だったら‥‥‥女神様にお願いしてでも、あなたの心を繋ぎ止めたいと思うわ」
「‥‥‥」

聖女という立場を利用してでも、エルゲンを繋ぎ止めたいと思ってしまう。もし自分がレーヌと同じ立場にあったら、そう望む。それがセレーネの本音だった。

レーヌが思い詰めてそのような行動を取らないことが不思議でならない。そんなことを懸念していると、エルゲンも気づいたらしい。けれども彼は穏やかな表情を崩さないままで、口を開いた。

「聖女にそのような力はありませんよ」

エルゲンの言葉を不思議に思い、セレーネは首を傾げた。

「え、でも‥‥‥エルゲンは直接女神様に問いかけが出来るのでしょう?」
「それは祝福を受けているからですよ。例え、聖女といえども祝福がなければ特別な力が与えられることはありません」
「聖女を選んだのは女神様なのに?」
「ええ。彼女は女神に選ばれましたが、祝福を得たわけではありませんよ。祝福というのは、女神に語りかける能力を与えられることをさします」
「じゃあ、レーヌ様に特別な能力があるというわけではないの?」
「ええ。彼女はこの国を守護する女神に祈りを捧げることで、民に安心感を与える役割を負うだけです」
「‥‥‥そうだったの」

これは意外なことを聞いた。と目を丸くするセレーネにエルゲンはくすくすと上品に笑ってみせた。
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