大好きな旦那様はどうやら聖女様のことがお好きなようです

古堂すいう

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想い

花籠の花

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数日が経った。

エルゲン曰く、今のところレーヌとの間に不穏な空気が立ち込めることはなく、彼女は聖女としての仕事を見事にこなしてくれているという。ただ、時折憂えた顔を見せるらしい。彼女の憂える理由は、やはりエルゲンに振られてしまったことなのだろう。エルゲンは彼女を下手に慰めたりせず、静観しているとのことだ。セレーネもそれが懸命であると思う。期待を持たせる行為は、なるべくしないほうがいい。乙女の時間は有限なのだから。期待で時間を潰させるなんてことは、絶対にしてはならない。それを理解しているからこそ、エルゲンはレーヌに対して、何もしないし、これ以上何も言わない。

(優しいエルゲンのことだから……心を痛めているに違いないわね)

だが、エルゲンはそれすら表には出さず、表面上は何事もなかったかのような顔をしてセレーネとの夕食を共にしていた。

「意外ですね、セレーネは魚があまり好きではないと思っていたのですが、今日は全て食べきれましたね。偉いですよ」

優しく微笑みながら、果実水を飲むエルゲンに、セレーネは白身魚の最後のひと欠片をフォークで差して、口の中にほおりこんだ。

「白身魚は大丈夫なの。それ以外は無理だけど。それにもう子供じゃないもの。好き嫌いなんて言ってられないわ」
「……ふむ、それなら明日の夜にはにんじんのサラダを出すように料理長に伝えておきましょうか」

エルゲンの提案に、セレーネは「うえ」と嫌な顔をした。

「おや、好き嫌いしないのではなかったのですか?」
「今日のエルゲンは意地悪だわ」

セレーネが拗ねたふうに言うと、エルゲンは少し慌てた様子で「意地悪してみたかっただけですよ」と言葉を付け加えた。和気あいあいと食事を済ませた後、メイド達がテーブルの上に食後のケーキと紅茶を並べていく。その様子を見守るセレーネに、エルゲンは「セレーネ、少し先のお話をしなければなりません」と切り出した。セレーネは頷き視線で「ええ、どうぞ」と返事する。

「半年後にある、花籠の祭典に……神官長の妻として参加していただきたいのですが」

花籠の祭典。全国各地で摘まれた花が王都に届けられ、教会に献花される。全ての花を女神に献花する儀式のことを花籠の祭典と呼ぶ。だが、実際この祭典は国の平穏と民の安寧を願う聖女の目を楽しませるために営まれる祭典でもある。そして聖女の目を楽しませた花々は、花籠に下げられ、神官達や教会の子供達によって市井に配られるのだ。以前の祭典もセレーネは参加した。今年も参加しようと考えていたので「もちろんよ」と心よく返事する。

しかし、エルゲンの表情はセレーネの返事に対してあまり良いものではなかった。
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