大好きな旦那様はどうやら聖女様のことがお好きなようです

古堂すいう

文字の大きさ
上 下
28 / 73
聖女

遊び

しおりを挟む


「だ、大丈夫よ……心配してくれてありがとう」

セレーネが微笑んでみせると、女の子は「そう?」と僅かに首を傾げた。

「ええ。それより、レーヌ様じゃないけど。私で良ければご本を読むけど……。どうかしら」
「え、いいの?おねえさん、読んでくれるの?」
「ええ。絵本なんて自分で読んだことないから、上手に読めないかもしれないけど。それでもいい?」

問うと、子供達は目を輝かせて「うんうん!」と頷いた。「じゃあ、絵本を持ってきて頂戴」とセレーネが頼むと、子供達はまたしても我先にと教会へ駆けこんで、たくさんの絵本を抱えて出てきた。

セレーネは周囲に子供達が座っていることを確認して、絵本を1つ1つ丁寧に読み上げていった。王城に巣食うドラゴンに囚われたお姫様と、そんな彼女を救うために王城へ赴く王子様のお話。小さな動物達が、合唱団を作って森の音楽会に参加するお話。森に住まう優しいおばあさんが拾った子犬の話。それはもうたくさんの本を読んだ。絵本を読んだ後は、かくれんぼをせがまれて、かくれんぼを。その次は追いかけっこを。

幼い頃から、エダンと一緒に様々な場所へ赴き遊んだセレーネだったが、こんな風に大勢と遊んだ記憶はなく、かくれんぼだの追いかけっこだのと言った遊びも知らなかった。

かくれんぼや、鬼ごっことは何か。とセレーネが問いかけると子供達は信じられないと目をいっぱいに開いて「じゃあ、教えてあげるよ!」とまるで先生になったかのようにセレーネに詳しく教えてくれた。

(かくれんぼと追いかけっこって……こんなに楽しいのね!)

セレーネは子供達と遊ぶ間、ほんの少し昔に戻ったような気がして嬉しくなった。

「あー!お姉さん捕まえた!」

セレーネは身長も歩幅も小さいので、全力で走っても、常日頃から走り回っている子供達に追いつかないことがある。それ故に全力で逃げていたのだが、走ってる途中で追いかけてきた子供が足にしがみついたので、セレーネは勢いあまってしまい、そのまま転んでしまった。

「……っ」

幸いにも、膝からこけたので、咄嗟に肘で支えて地面に顔がつくことはなかったが、ドレスには草や土がついてしまった。

「あ、おねえさん。大丈夫?」

見上げてくる男の子は、セレーネの顔を見上げた。

「だ、大丈夫よ。安心して頂戴。それより早く逃げないと。今度は私が追いかける番なのでしょう?」
「あ、そうだった!」
「そうよ、そうよ。さ、逃げなさいな」
「うん!」

男の子は元気よく頷いて、その場をトテトテと走り去っていった。その背を見届けて、セレーネはホッと息を吐く。ドレスをほんの少しめくって肘をみて見ると、わずかに血が滲んでいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います

りまり
恋愛
 私の名前はアリスと言います。  伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。  母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。  その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。  でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。  毎日見る夢に出てくる方だったのです。

君のためだと言われても、少しも嬉しくありません

みみぢあん
恋愛
子爵家の令嬢マリオンの婚約者、アルフレッド卿が王族の護衛で隣国へ行くが、任期がながびき帰国できなくなり婚約を解消することになった。 すぐにノエル卿と2度目の婚約が決まったが、結婚を目前にして家庭の事情で2人は……    暗い流れがつづきます。 ざまぁでスカッ… とされたい方には不向きのお話です。ご注意を😓

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる

kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。 いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。 実はこれは二回目人生だ。 回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。 彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。 そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。 その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯ そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。 ※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。 ※ 設定ゆるゆるです。

【完結】王太子殿下が幼馴染を溺愛するので、あえて応援することにしました。

かとるり
恋愛
王太子のオースティンが愛するのは婚約者のティファニーではなく、幼馴染のリアンだった。 ティファニーは何度も傷つき、一つの結論に達する。 二人が結ばれるよう、あえて応援する、と。

氷の貴婦人

恋愛
ソフィは幸せな結婚を目の前に控えていた。弾んでいた心を打ち砕かれたのは、結婚相手のアトレーと姉がベッドに居る姿を見た時だった。 呆然としたまま結婚式の日を迎え、その日から彼女の心は壊れていく。 感情が麻痺してしまい、すべてがかすみ越しの出来事に思える。そして、あんなに好きだったアトレーを見ると吐き気をもよおすようになった。 毒の強めなお話で、大人向けテイストです。

もう、愛はいりませんから

さくたろう
恋愛
 ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。  王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

処理中です...