大好きな旦那様はどうやら聖女様のことがお好きなようです

古堂すいう

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聖女

子供達と聖女

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静々と、こちらへ向かって来るのはレーヌだった。瑞々しい桃色を帯びた銀髪。朱色の瞳。その尊顔の穏やかさ。レーヌが庭に降りてきただけで、その場は清廉さを帯びるような気配がした。

「あ、レーヌ様だ!」
「レーヌ様!」

セレーネの周りにいた子供達は庭に入って来たレーヌを視界に映すとすぐに彼女の元へ走り寄る。もの凄い好かれようだ。セレーネはほんの少し寂しいような気持ちを抑えて、すっと立ち上がり最高礼を示した。地位的には、セレーネの方が上なのだが、聖女はこの国を守る大事な逸材。貴族なれども無碍にしてはならないと国の法により定められている。

「そのような礼は不要ですわ、セレーネ様。子供達にお菓子を持ってきてくださったとのこと、感謝申し上げます」

呼びかけられて、セレーネは肩を震わせる。頭をあげるとレーヌは柔らかく微笑んで、すぐにセレーネから視線を外し、子供達へ慈愛の籠った瞳を向ける。

「お菓子をいただいていたのね」
「うん、そうだよ!お姉ちゃんがくれたお菓子すごく美味しかったよ!」
「僕も、僕も!あ、でも、レーヌ様の作ってくれるお菓子の方がもっと好き!」
「あら、ありがとう。今度また作るわね」

レーヌは小さな子供達の頭を撫でた。

「ねえねえ、レーヌ様ご本読んでよー!」
「駄目!かくれんぼするんだ!」

子供達にせがまれて、レーヌは困り顔をする。

「ごめんなさいね。これから……神官長様と急いで買い出しに行ってこないといけないの。帰ってきたら遊んであげるから」

神官長。という言葉にセレーネは両手を握りしめた。この大神殿の神官長はエルゲンだ。これからエルゲンと買い出しに行ってくるというレーヌは、文句を飛ばす子供達を適当に宥めて、すぐにその場を去っていく。彼女はただ単に、子供達の様子を見に来ただけだったのかもしれない。

「本当に、レーヌ様はお綺麗だわ。エルゲン様とお似合いなのに……残念ね」
「ほんと、エルゲン様には奥様がいらっしゃるというし……」
「一体どうして、あの我儘で傲慢だと噂の公爵令嬢様とご結婚なさったのかしら」
「なんでも皇子様に婚約破棄されたところを憐れんで結婚なさったというわよ」
「まあ、エルゲン様……お可哀相だわ」

ひそひそと話す神官は知らない。今目の前にいるのが、その我儘で傲慢だと噂の公爵令嬢だということを。今日、セレーネが教会にいることを知っているのはエルゲンと、そして今訪ねてきたレーヌだけだから。

「おねえさん、どうしたの?」

ふいに、袖口をひっぱられて、視線を降ろすと、くすんだ金髪の女の子が心配気に顔を覗き込んでいた。
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