27 / 73
聖女
子供達と聖女
しおりを挟む
静々と、こちらへ向かって来るのはレーヌだった。瑞々しい桃色を帯びた銀髪。朱色の瞳。その尊顔の穏やかさ。レーヌが庭に降りてきただけで、その場は清廉さを帯びるような気配がした。
「あ、レーヌ様だ!」
「レーヌ様!」
セレーネの周りにいた子供達は庭に入って来たレーヌを視界に映すとすぐに彼女の元へ走り寄る。もの凄い好かれようだ。セレーネはほんの少し寂しいような気持ちを抑えて、すっと立ち上がり最高礼を示した。地位的には、セレーネの方が上なのだが、聖女はこの国を守る大事な逸材。貴族なれども無碍にしてはならないと国の法により定められている。
「そのような礼は不要ですわ、セレーネ様。子供達にお菓子を持ってきてくださったとのこと、感謝申し上げます」
呼びかけられて、セレーネは肩を震わせる。頭をあげるとレーヌは柔らかく微笑んで、すぐにセレーネから視線を外し、子供達へ慈愛の籠った瞳を向ける。
「お菓子をいただいていたのね」
「うん、そうだよ!お姉ちゃんがくれたお菓子すごく美味しかったよ!」
「僕も、僕も!あ、でも、レーヌ様の作ってくれるお菓子の方がもっと好き!」
「あら、ありがとう。今度また作るわね」
レーヌは小さな子供達の頭を撫でた。
「ねえねえ、レーヌ様ご本読んでよー!」
「駄目!かくれんぼするんだ!」
子供達にせがまれて、レーヌは困り顔をする。
「ごめんなさいね。これから……神官長様と急いで買い出しに行ってこないといけないの。帰ってきたら遊んであげるから」
神官長。という言葉にセレーネは両手を握りしめた。この大神殿の神官長はエルゲンだ。これからエルゲンと買い出しに行ってくるというレーヌは、文句を飛ばす子供達を適当に宥めて、すぐにその場を去っていく。彼女はただ単に、子供達の様子を見に来ただけだったのかもしれない。
「本当に、レーヌ様はお綺麗だわ。エルゲン様とお似合いなのに……残念ね」
「ほんと、エルゲン様には奥様がいらっしゃるというし……」
「一体どうして、あの我儘で傲慢だと噂の公爵令嬢様とご結婚なさったのかしら」
「なんでも皇子様に婚約破棄されたところを憐れんで結婚なさったというわよ」
「まあ、エルゲン様……お可哀相だわ」
ひそひそと話す神官は知らない。今目の前にいるのが、その我儘で傲慢だと噂の公爵令嬢だということを。今日、セレーネが教会にいることを知っているのはエルゲンと、そして今訪ねてきたレーヌだけだから。
「おねえさん、どうしたの?」
ふいに、袖口をひっぱられて、視線を降ろすと、くすんだ金髪の女の子が心配気に顔を覗き込んでいた。
「あ、レーヌ様だ!」
「レーヌ様!」
セレーネの周りにいた子供達は庭に入って来たレーヌを視界に映すとすぐに彼女の元へ走り寄る。もの凄い好かれようだ。セレーネはほんの少し寂しいような気持ちを抑えて、すっと立ち上がり最高礼を示した。地位的には、セレーネの方が上なのだが、聖女はこの国を守る大事な逸材。貴族なれども無碍にしてはならないと国の法により定められている。
「そのような礼は不要ですわ、セレーネ様。子供達にお菓子を持ってきてくださったとのこと、感謝申し上げます」
呼びかけられて、セレーネは肩を震わせる。頭をあげるとレーヌは柔らかく微笑んで、すぐにセレーネから視線を外し、子供達へ慈愛の籠った瞳を向ける。
「お菓子をいただいていたのね」
「うん、そうだよ!お姉ちゃんがくれたお菓子すごく美味しかったよ!」
「僕も、僕も!あ、でも、レーヌ様の作ってくれるお菓子の方がもっと好き!」
「あら、ありがとう。今度また作るわね」
レーヌは小さな子供達の頭を撫でた。
「ねえねえ、レーヌ様ご本読んでよー!」
「駄目!かくれんぼするんだ!」
子供達にせがまれて、レーヌは困り顔をする。
「ごめんなさいね。これから……神官長様と急いで買い出しに行ってこないといけないの。帰ってきたら遊んであげるから」
神官長。という言葉にセレーネは両手を握りしめた。この大神殿の神官長はエルゲンだ。これからエルゲンと買い出しに行ってくるというレーヌは、文句を飛ばす子供達を適当に宥めて、すぐにその場を去っていく。彼女はただ単に、子供達の様子を見に来ただけだったのかもしれない。
「本当に、レーヌ様はお綺麗だわ。エルゲン様とお似合いなのに……残念ね」
「ほんと、エルゲン様には奥様がいらっしゃるというし……」
「一体どうして、あの我儘で傲慢だと噂の公爵令嬢様とご結婚なさったのかしら」
「なんでも皇子様に婚約破棄されたところを憐れんで結婚なさったというわよ」
「まあ、エルゲン様……お可哀相だわ」
ひそひそと話す神官は知らない。今目の前にいるのが、その我儘で傲慢だと噂の公爵令嬢だということを。今日、セレーネが教会にいることを知っているのはエルゲンと、そして今訪ねてきたレーヌだけだから。
「おねえさん、どうしたの?」
ふいに、袖口をひっぱられて、視線を降ろすと、くすんだ金髪の女の子が心配気に顔を覗き込んでいた。
76
お気に入りに追加
4,906
あなたにおすすめの小説

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います
りまり
恋愛
私の名前はアリスと言います。
伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。
母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。
その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。
でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。
毎日見る夢に出てくる方だったのです。

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない
ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。
ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。
ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。
ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる
kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。
いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。
実はこれは二回目人生だ。
回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。
彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。
そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。
その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯
そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。
※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。
※ 設定ゆるゆるです。

【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい
高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。
だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。
クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。
ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。
【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】

あなたの姿をもう追う事はありません
彩華(あやはな)
恋愛
幼馴染で二つ年上のカイルと婚約していたわたしは、彼のために頑張っていた。
王立学園に先に入ってカイルは最初は手紙をくれていたのに、次第に少なくなっていった。二年になってからはまったくこなくなる。でも、信じていた。だから、わたしはわたしなりに頑張っていた。
なのに、彼は恋人を作っていた。わたしは婚約を解消したがらない悪役令嬢?どう言うこと?
わたしはカイルの姿を見て追っていく。
ずっと、ずっと・・・。
でも、もういいのかもしれない。

【完結】婚約者様、王女様を優先するならお好きにどうぞ
曽根原ツタ
恋愛
オーガスタの婚約者が王女のことを優先するようになったのは――彼女の近衛騎士になってからだった。
婚約者はオーガスタとの約束を、王女の護衛を口実に何度も破った。
美しい王女に付きっきりな彼への不信感が募っていく中、とある夜会で逢瀬を交わすふたりを目撃したことで、遂に婚約解消を決意する。
そして、その夜会でたまたま王子に会った瞬間、前世の記憶を思い出し……?
――病弱な王女を優先したいなら、好きにすればいいですよ。私も好きにしますので。

奪われる人生とはお別れします ~婚約破棄の後は幸せな日々が待っていました~
水空 葵
恋愛
婚約者だった王太子殿下は、最近聖女様にかかりっきりで私には見向きもしない。
それなのに妃教育と称して仕事を押し付けてくる。
しまいには建国パーティーの時に婚約解消を突き付けられてしまった。
王太子殿下、それから私の両親。今まで尽くしてきたのに、裏切るなんて許せません。
でも、これ以上奪われるのは嫌なので、さっさとお別れしましょう。
※他サイト様でも連載中です。
◇2024/2/5 HOTランキング1位に掲載されました。
◇第17回 恋愛小説大賞で6位&奨励賞を頂きました。
本当にありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる