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奮闘
聞きたいこと
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セレーネは、屋敷中を走り回ってエルゲンを探した。
いつもより早く目覚めたセレーネに驚いたのか、すれ違う使用人達は慌てた様子で「おはようございます奥様」と声を掛けてくる。
「ねえ、エルゲンはどこ?」
「旦那様でしたら、奥様をお起こしに今しがた執務室をお出になられたはずですが」
どうやら行き違ってしまったらしい。
セレーネが急いで寝室へ戻ると、そこには寝台の前に立つエルゲンがいた。
(……エルゲン?)
エルゲンのその後ろ姿から、異様な雰囲気を感じ取ったセレーネは一旦足を止める。
「セレーネ」
振り返ったエルゲンの浮かべる表情は、いつもと変わらない春の陽だまりのような笑みだった。セレーネはほっと息を吐く。
「……あぁ、よかった。どこへ行ったのかと思いましたよ」
「……早く目が覚めたからあなたを探していたのよ」
セレーネが両手をもじもじとさせていると、エルゲンはゆっくりと歩き近づいて、セレーネの華奢な身体を抱き上げ寝台へ腰掛ける。
「……私のお姫様は一体何を思いついて私を探していたのですか?」
「え、な、なんで分かるの?」
「さあ、なんででしょう」
にっこりと微笑むエルゲンは、それ以上何か答える気はないらしい。セレーネはぎゅぅとエルゲンのまっさらな服の襟元を掴んで、懇願するようにエルゲンを凝視した。
「……ちょっと知り合いにお会いしたくて。神殿で出会った方なんだけど」
「昨日は神殿に?」
「うん。あなたがいるんじゃないかと思って入ってみたけど、あなたは今はいないって教えてくれた方がいるの」
「なるほど。それで?」
「その方にお礼がいいたいの」
「では、私から伝えておきますが……」
それではだめなのだ。
お礼をいいたいのは確かだけど、聞きたいことがあるから行きたいのだ。昨日あれだけ心配を掛けた手前、こうして直接伝えたのだが、やっぱりエルゲンが出掛けてから、こっそりラーナと共に神殿に行った方が良かっただろうか。
「…いいの。お礼は直接自分で伝えるから。でも、その方がいつ神殿にいらっしゃるのか分からないから、聞いておいて欲しいわ。白髪が綺麗で、優しそうな老紳士様でいらしたの。……子ども達の様子をよく見に行くって仰っていたわ」
「あぁ……カーティス様ですね。彼は2日置きに神殿に来ては、孤児院の子ども達の様子を見て帰られる方です。昨日いらっしゃったということは、明日には会える可能性が高いですね」
「そう!じゃあ、明日、神殿に行ってカーティス様にお会いしたらすぐに帰るわ。エルゲンは私のことなんて気にせずお仕事に集中していて頂戴ね」
エルゲンが近くにいては、カーティスから神殿のことや、エルゲンとレーヌのことをゆっくりと聞くことができないから。とは言わない。
エルゲンはほんの少し思案して、セレーネの額をそっと撫でた。
「今度は何を考えていらっしゃるのですか」
「な、何も考えてないわ」
「……あまり、危ないことは考えないように」
「何も考えてないって言ってるじゃないの」
セレーネが頬を膨らませると、エルゲンは困ったような顔をしてセレーネの膨らんだ頬を優しくつついた後、小さな身体を強く抱きしめた。
「エルゲン?……何て言ったの?」
首の裏側でエルゲンがボソリと何か呟いたような気がしたけれど、彼はセレーネの問いには答えなかった。
いつもより早く目覚めたセレーネに驚いたのか、すれ違う使用人達は慌てた様子で「おはようございます奥様」と声を掛けてくる。
「ねえ、エルゲンはどこ?」
「旦那様でしたら、奥様をお起こしに今しがた執務室をお出になられたはずですが」
どうやら行き違ってしまったらしい。
セレーネが急いで寝室へ戻ると、そこには寝台の前に立つエルゲンがいた。
(……エルゲン?)
エルゲンのその後ろ姿から、異様な雰囲気を感じ取ったセレーネは一旦足を止める。
「セレーネ」
振り返ったエルゲンの浮かべる表情は、いつもと変わらない春の陽だまりのような笑みだった。セレーネはほっと息を吐く。
「……あぁ、よかった。どこへ行ったのかと思いましたよ」
「……早く目が覚めたからあなたを探していたのよ」
セレーネが両手をもじもじとさせていると、エルゲンはゆっくりと歩き近づいて、セレーネの華奢な身体を抱き上げ寝台へ腰掛ける。
「……私のお姫様は一体何を思いついて私を探していたのですか?」
「え、な、なんで分かるの?」
「さあ、なんででしょう」
にっこりと微笑むエルゲンは、それ以上何か答える気はないらしい。セレーネはぎゅぅとエルゲンのまっさらな服の襟元を掴んで、懇願するようにエルゲンを凝視した。
「……ちょっと知り合いにお会いしたくて。神殿で出会った方なんだけど」
「昨日は神殿に?」
「うん。あなたがいるんじゃないかと思って入ってみたけど、あなたは今はいないって教えてくれた方がいるの」
「なるほど。それで?」
「その方にお礼がいいたいの」
「では、私から伝えておきますが……」
それではだめなのだ。
お礼をいいたいのは確かだけど、聞きたいことがあるから行きたいのだ。昨日あれだけ心配を掛けた手前、こうして直接伝えたのだが、やっぱりエルゲンが出掛けてから、こっそりラーナと共に神殿に行った方が良かっただろうか。
「…いいの。お礼は直接自分で伝えるから。でも、その方がいつ神殿にいらっしゃるのか分からないから、聞いておいて欲しいわ。白髪が綺麗で、優しそうな老紳士様でいらしたの。……子ども達の様子をよく見に行くって仰っていたわ」
「あぁ……カーティス様ですね。彼は2日置きに神殿に来ては、孤児院の子ども達の様子を見て帰られる方です。昨日いらっしゃったということは、明日には会える可能性が高いですね」
「そう!じゃあ、明日、神殿に行ってカーティス様にお会いしたらすぐに帰るわ。エルゲンは私のことなんて気にせずお仕事に集中していて頂戴ね」
エルゲンが近くにいては、カーティスから神殿のことや、エルゲンとレーヌのことをゆっくりと聞くことができないから。とは言わない。
エルゲンはほんの少し思案して、セレーネの額をそっと撫でた。
「今度は何を考えていらっしゃるのですか」
「な、何も考えてないわ」
「……あまり、危ないことは考えないように」
「何も考えてないって言ってるじゃないの」
セレーネが頬を膨らませると、エルゲンは困ったような顔をしてセレーネの膨らんだ頬を優しくつついた後、小さな身体を強く抱きしめた。
「エルゲン?……何て言ったの?」
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