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奮闘
真心の花
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朝、目が覚めると小鳥の囀りが聞こえた。
瞼をゆっくり開ける。部屋はまだ薄暗く、朝特有の群青色の色合いで以て、朝の訪いを教えてくれる。
セレーネはゆっくりと立ち上がり、寝台を降りた。裸足のままぺたりと床を踏んで、窓のカーテンを開き、眺める。
陽光を浴びて輝く庭。休みの日にはいつも眼下にあるこの庭を、エルゲンと手を繋ぎながらよく歩いた。
(あの花は……もう、そんな時期になったのね。……エルゲンが、いつでも寝室から眺められるようにって手ずから植えてくれた……)
彼は神官長という立場にあって、皆から傅かれ敬われる存在。しかも女神の祝福を受けている。その品性がどれだけ正しく、性根が真っ直ぐだからといって、多少傲慢になっても仕方がないはずなのに。
彼は土を触り、種を植え、水を与えて。それを我が子かと思われるほど大切に美しく育て上げ「庭師の肝を冷やさせてばかりでした」と笑いながら「あなたへの贈り物」だと、贈ってくれた。
今まで、セレーネの欲しいものはいつも大金を積まなければならないようなもので、しかし、それは全て確実に金で買えるようなものでしかなかった。
エルゲンが贈ってくれた花は一見してただの花だけれど、その価値が分からないセレーネではなかった。
『美しいドレスや装飾品も考えたのですが……毎年、あなたの目を楽しませられるものを手ずから育てたかったのです』
と、その言葉をもらってセレーネは感動のあまり言葉を無くした。
人の真心はいかに金を積んでも買えないもの。エルゲンはそんな大切なものをこの数年で数えきれないほど贈ってくれた。
(……今度は、私の番なんだわ)
セレーネは、ぎゅぅと拳を握り、冷えた足先を擦り合わせながら、エルゲンが幸せになるために出来ることを考える。
レーヌと2人で幸せになれるように。
自分に出来ること。出来ること……。出来ること…………。
(……だ、だめだわ。お金を使う方法しか思いつかない)
何をするにしても、お金が大切であるとエダンに溺愛され、教え込まれたセレーネは何をするにしても、お金を使う方法しか思いつかなかった。別にお金を使ってはいけないわけではないと思うのだが、それにしたってあまり常識から外れたことをすると、その火の粉が、エルゲンに降り掛かってしまうかもしれない。
元々、世間知らずであることは自覚しているので、まずはエルゲンとレーヌが幸せになれる方法を誰か常識的な人に聞いた方がいいのかもしれない。とセレーネは考えた。
(常識的というと、やっぱり……アマンダに聞くのがいいかしら。いえでも)
ずっとセレーネの恋の悩みを聞き続けてくれた彼女に相談するのは忍びない。
それにこの時期、彼女は隣国で香水の材料調達に行っているはずだ。相談するにしても、もう少し時期を考えなければならない。
(……でも誰か他に……)
ふいに、昨日出会った老紳士のことを思い出した。
(そうだわ!彼に聞けば何か教えてくれるかもしれない。教会のことにも詳しいみたいだったし!)
セレーネは思い立って、さっそく寝室を飛び出した。
瞼をゆっくり開ける。部屋はまだ薄暗く、朝特有の群青色の色合いで以て、朝の訪いを教えてくれる。
セレーネはゆっくりと立ち上がり、寝台を降りた。裸足のままぺたりと床を踏んで、窓のカーテンを開き、眺める。
陽光を浴びて輝く庭。休みの日にはいつも眼下にあるこの庭を、エルゲンと手を繋ぎながらよく歩いた。
(あの花は……もう、そんな時期になったのね。……エルゲンが、いつでも寝室から眺められるようにって手ずから植えてくれた……)
彼は神官長という立場にあって、皆から傅かれ敬われる存在。しかも女神の祝福を受けている。その品性がどれだけ正しく、性根が真っ直ぐだからといって、多少傲慢になっても仕方がないはずなのに。
彼は土を触り、種を植え、水を与えて。それを我が子かと思われるほど大切に美しく育て上げ「庭師の肝を冷やさせてばかりでした」と笑いながら「あなたへの贈り物」だと、贈ってくれた。
今まで、セレーネの欲しいものはいつも大金を積まなければならないようなもので、しかし、それは全て確実に金で買えるようなものでしかなかった。
エルゲンが贈ってくれた花は一見してただの花だけれど、その価値が分からないセレーネではなかった。
『美しいドレスや装飾品も考えたのですが……毎年、あなたの目を楽しませられるものを手ずから育てたかったのです』
と、その言葉をもらってセレーネは感動のあまり言葉を無くした。
人の真心はいかに金を積んでも買えないもの。エルゲンはそんな大切なものをこの数年で数えきれないほど贈ってくれた。
(……今度は、私の番なんだわ)
セレーネは、ぎゅぅと拳を握り、冷えた足先を擦り合わせながら、エルゲンが幸せになるために出来ることを考える。
レーヌと2人で幸せになれるように。
自分に出来ること。出来ること……。出来ること…………。
(……だ、だめだわ。お金を使う方法しか思いつかない)
何をするにしても、お金が大切であるとエダンに溺愛され、教え込まれたセレーネは何をするにしても、お金を使う方法しか思いつかなかった。別にお金を使ってはいけないわけではないと思うのだが、それにしたってあまり常識から外れたことをすると、その火の粉が、エルゲンに降り掛かってしまうかもしれない。
元々、世間知らずであることは自覚しているので、まずはエルゲンとレーヌが幸せになれる方法を誰か常識的な人に聞いた方がいいのかもしれない。とセレーネは考えた。
(常識的というと、やっぱり……アマンダに聞くのがいいかしら。いえでも)
ずっとセレーネの恋の悩みを聞き続けてくれた彼女に相談するのは忍びない。
それにこの時期、彼女は隣国で香水の材料調達に行っているはずだ。相談するにしても、もう少し時期を考えなければならない。
(……でも誰か他に……)
ふいに、昨日出会った老紳士のことを思い出した。
(そうだわ!彼に聞けば何か教えてくれるかもしれない。教会のことにも詳しいみたいだったし!)
セレーネは思い立って、さっそく寝室を飛び出した。
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