大好きな旦那様はどうやら聖女様のことがお好きなようです

古堂すいう

文字の大きさ
上 下
9 / 73
聖女選定

聖女選定

しおりを挟む
そのひと月後、アマンダの言う通り、国中に「聖女選定の儀を王都大神殿にて行う」と布告があった。

なにせ50年に一度の儀式だというから。国中、特に王都はお祝いムードに包まれて、白い旗に白百合の文様の縫われた旗が、そこかしこで挙げられるようになった。王都の町並みはいつも以上に華やいで、花の香りで満ち、人で賑わう。

それに伴って、エルゲンの忙しさも増して、ついには10日間連続で屋敷に帰ってこない日もあった。

『エルゲン、おかえりなさい』
『ああ、セレーネ。こんな時間まで起きてらしたのですか』
『エルゲンの顔が見たかったの』
『私もあなたのお顔が見たかったですよ。最近は寝顔ばかりでしたから』
『……今日はもうゆっくり出来るの?』
『いえ、これからまた大神殿に戻るところです。式典用の蝋燭の発注に手違いがありまして』

こんな会話をしたのが、つい5日前。それ以来、セレーネはエルゲンの姿を見かけてすらいない。こんな日々がすでにふた月は続いている。

聖女選定の儀は、これよりまだひと月も先。

エルゲンの愛に浸り、甘やかな日々を過ごしてきたセレーネにとって、これほどまでにつまらない日々が続くのは、結婚して以来初めてのことだった。気分転換に仕立て屋を屋敷へ呼んでも、エルゲンが見てくれないと思うと、気持ちが萎える。外に出る気分にもなれず、セレーネはここひと月の間屋敷の自室に引き籠るようになった。

体調不良を装って、エルゲンに心配してもらおうかとも考えたが、ただでさえ忙しく疲れているであろうエルゲンにそんなことをするのは、さすがに躊躇われる。我儘をいうのは、セレーネにとって息を吸い、吐くのと同じような行為だが、エルゲンを苦しめるのは本意ではないので、それすらも我慢した。

そんな彼女の我慢を、女神が見届けて憐れんだのかもしれない。

その日の夜、エルゲンは珍しく早く帰って来た。

しかしその面差しはどこか暗く、目の下にはくっきりとした隈が浮かんでいる。そんな様だが、エルゲンは微笑みを絶やすことなく、帰ってきて早々「セレーネ、話があります」と彼女の手を優しく取って、寝室へと招いた。

「聖女選定式のことです」

久しぶりにエルゲンの顔が見られて嬉しいセレーネは、エルゲンの少し緊張しているようなその表情には気づかずに、明るく「なあに?」と問いかけた。

「布告があったので、あなたもご存じかと思いますが。あとひと月後に聖女選定式があります」
「知ってるわ。アマンダに教えてもらったもの」
「そうでしたか」

エルゲンはほんの少し考えるような素振りをみせてから「内容については?」と首を傾げた。

「あなたが聖女様を選ぶのでしょう?集まった巫女の中で誰が聖女様としてふさわしいか女神様に問うて、それから……」

それから、アマンダは何と言っていたんだったか。確か神官長が、つまりエルゲンが、選ばれた巫女の手を取って……。

「それからは覚えてないわ」
「──……それから、選ばれた巫女の手を取り、屈んだ彼女の額に口づけます」
「え」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います

りまり
恋愛
 私の名前はアリスと言います。  伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。  母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。  その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。  でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。  毎日見る夢に出てくる方だったのです。

【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい

高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。 だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。 クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。 ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。 【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】

【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる

kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。 いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。 実はこれは二回目人生だ。 回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。 彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。 そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。 その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯ そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。 ※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。 ※ 設定ゆるゆるです。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

報われない恋の行方〜いつかあなたは私だけを見てくれますか〜

矢野りと
恋愛
『少しだけ私に時間をくれないだろうか……』 彼はいつだって誠実な婚約者だった。 嘘はつかず私に自分の気持ちを打ち明け、学園にいる間だけ想い人のこともその目に映したいと告げた。 『想いを告げることはしない。ただ見ていたいんだ。どうか、許して欲しい』 『……分かりました、ロイド様』 私は彼に恋をしていた。だから、嫌われたくなくて……それを許した。 結婚後、彼は約束通りその瞳に私だけを映してくれ嬉しかった。彼は誠実な夫となり、私は幸せな妻になれた。 なのに、ある日――彼の瞳に映るのはまた二人になっていた……。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※お話の内容があわないは時はそっと閉じてくださいませ。

【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない

曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが── 「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」 戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。 そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……? ──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。 ★小説家になろうさまでも公開中

【完結】婚約者様、王女様を優先するならお好きにどうぞ

曽根原ツタ
恋愛
オーガスタの婚約者が王女のことを優先するようになったのは――彼女の近衛騎士になってからだった。 婚約者はオーガスタとの約束を、王女の護衛を口実に何度も破った。 美しい王女に付きっきりな彼への不信感が募っていく中、とある夜会で逢瀬を交わすふたりを目撃したことで、遂に婚約解消を決意する。 そして、その夜会でたまたま王子に会った瞬間、前世の記憶を思い出し……? ――病弱な王女を優先したいなら、好きにすればいいですよ。私も好きにしますので。

処理中です...