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聖女選定
聖女選定
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そのひと月後、アマンダの言う通り、国中に「聖女選定の儀を王都大神殿にて行う」と布告があった。
なにせ50年に一度の儀式だというから。国中、特に王都はお祝いムードに包まれて、白い旗に白百合の文様の縫われた旗が、そこかしこで挙げられるようになった。王都の町並みはいつも以上に華やいで、花の香りで満ち、人で賑わう。
それに伴って、エルゲンの忙しさも増して、ついには10日間連続で屋敷に帰ってこない日もあった。
『エルゲン、おかえりなさい』
『ああ、セレーネ。こんな時間まで起きてらしたのですか』
『エルゲンの顔が見たかったの』
『私もあなたのお顔が見たかったですよ。最近は寝顔ばかりでしたから』
『……今日はもうゆっくり出来るの?』
『いえ、これからまた大神殿に戻るところです。式典用の蝋燭の発注に手違いがありまして』
こんな会話をしたのが、つい5日前。それ以来、セレーネはエルゲンの姿を見かけてすらいない。こんな日々がすでにふた月は続いている。
聖女選定の儀は、これよりまだひと月も先。
エルゲンの愛に浸り、甘やかな日々を過ごしてきたセレーネにとって、これほどまでにつまらない日々が続くのは、結婚して以来初めてのことだった。気分転換に仕立て屋を屋敷へ呼んでも、エルゲンが見てくれないと思うと、気持ちが萎える。外に出る気分にもなれず、セレーネはここひと月の間屋敷の自室に引き籠るようになった。
体調不良を装って、エルゲンに心配してもらおうかとも考えたが、ただでさえ忙しく疲れているであろうエルゲンにそんなことをするのは、さすがに躊躇われる。我儘をいうのは、セレーネにとって息を吸い、吐くのと同じような行為だが、エルゲンを苦しめるのは本意ではないので、それすらも我慢した。
そんな彼女の我慢を、女神が見届けて憐れんだのかもしれない。
その日の夜、エルゲンは珍しく早く帰って来た。
しかしその面差しはどこか暗く、目の下にはくっきりとした隈が浮かんでいる。そんな様だが、エルゲンは微笑みを絶やすことなく、帰ってきて早々「セレーネ、話があります」と彼女の手を優しく取って、寝室へと招いた。
「聖女選定式のことです」
久しぶりにエルゲンの顔が見られて嬉しいセレーネは、エルゲンの少し緊張しているようなその表情には気づかずに、明るく「なあに?」と問いかけた。
「布告があったので、あなたもご存じかと思いますが。あとひと月後に聖女選定式があります」
「知ってるわ。アマンダに教えてもらったもの」
「そうでしたか」
エルゲンはほんの少し考えるような素振りをみせてから「内容については?」と首を傾げた。
「あなたが聖女様を選ぶのでしょう?集まった巫女の中で誰が聖女様としてふさわしいか女神様に問うて、それから……」
それから、アマンダは何と言っていたんだったか。確か神官長が、つまりエルゲンが、選ばれた巫女の手を取って……。
「それからは覚えてないわ」
「──……それから、選ばれた巫女の手を取り、屈んだ彼女の額に口づけます」
「え」
なにせ50年に一度の儀式だというから。国中、特に王都はお祝いムードに包まれて、白い旗に白百合の文様の縫われた旗が、そこかしこで挙げられるようになった。王都の町並みはいつも以上に華やいで、花の香りで満ち、人で賑わう。
それに伴って、エルゲンの忙しさも増して、ついには10日間連続で屋敷に帰ってこない日もあった。
『エルゲン、おかえりなさい』
『ああ、セレーネ。こんな時間まで起きてらしたのですか』
『エルゲンの顔が見たかったの』
『私もあなたのお顔が見たかったですよ。最近は寝顔ばかりでしたから』
『……今日はもうゆっくり出来るの?』
『いえ、これからまた大神殿に戻るところです。式典用の蝋燭の発注に手違いがありまして』
こんな会話をしたのが、つい5日前。それ以来、セレーネはエルゲンの姿を見かけてすらいない。こんな日々がすでにふた月は続いている。
聖女選定の儀は、これよりまだひと月も先。
エルゲンの愛に浸り、甘やかな日々を過ごしてきたセレーネにとって、これほどまでにつまらない日々が続くのは、結婚して以来初めてのことだった。気分転換に仕立て屋を屋敷へ呼んでも、エルゲンが見てくれないと思うと、気持ちが萎える。外に出る気分にもなれず、セレーネはここひと月の間屋敷の自室に引き籠るようになった。
体調不良を装って、エルゲンに心配してもらおうかとも考えたが、ただでさえ忙しく疲れているであろうエルゲンにそんなことをするのは、さすがに躊躇われる。我儘をいうのは、セレーネにとって息を吸い、吐くのと同じような行為だが、エルゲンを苦しめるのは本意ではないので、それすらも我慢した。
そんな彼女の我慢を、女神が見届けて憐れんだのかもしれない。
その日の夜、エルゲンは珍しく早く帰って来た。
しかしその面差しはどこか暗く、目の下にはくっきりとした隈が浮かんでいる。そんな様だが、エルゲンは微笑みを絶やすことなく、帰ってきて早々「セレーネ、話があります」と彼女の手を優しく取って、寝室へと招いた。
「聖女選定式のことです」
久しぶりにエルゲンの顔が見られて嬉しいセレーネは、エルゲンの少し緊張しているようなその表情には気づかずに、明るく「なあに?」と問いかけた。
「布告があったので、あなたもご存じかと思いますが。あとひと月後に聖女選定式があります」
「知ってるわ。アマンダに教えてもらったもの」
「そうでしたか」
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「あなたが聖女様を選ぶのでしょう?集まった巫女の中で誰が聖女様としてふさわしいか女神様に問うて、それから……」
それから、アマンダは何と言っていたんだったか。確か神官長が、つまりエルゲンが、選ばれた巫女の手を取って……。
「それからは覚えてないわ」
「──……それから、選ばれた巫女の手を取り、屈んだ彼女の額に口づけます」
「え」
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