大好きな旦那様はどうやら聖女様のことがお好きなようです

古堂すいう

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結婚生活

聖女選定の話

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「私も詳しくは知らないのですけれど。聖女様の選定をなさるのは、神官長──つまり、エルゲン様のお役目だったはずですわ」
「そうなの?」
「ええ……。各地に、女神に祈りを捧げるための神殿があることはご存じかしら」
「知っているわ」
「それらの神殿には女神に仕える巫女がございます。その者達が聖女選定の日に一同に会して、神官長様が皆の前で女神の像に問うのですよ。誰が聖女様となるお方なのか。すると神官長様にのみ声が聞こえるように女神は答えをお返しになります。女神に名指しされた者が、聖女様となりますから。神官長様はその方の手を取って……」

なぜか、アマンダはそこで黙った。何か言いにくそうにしている。焦れたセレーネは「それで?」と聞き返した。

「……いいえ、それ以降は私も分かりませんわ」

誤魔化すように笑って、アマンダはハーブティーをゆっくりと口に含んだ。手と取って何なのか。セレーネは気になったが、それ以降のことを聞くのは憚られて、ぱくりとクッキーを口に運んだ。

「まあ、なんにせよ。エルゲン様はあなたに魅力を感じていないわけではないと思いますけれど」
「どうしてそう思うのよ」
「エルゲン様とあなたが寄り添う姿を見て、そう思うだけですよ」
「なあにそれ」
「長い間生きていると分かるようになるものですよ」
「あら、いつもは老婦人扱いされることを嫌がるのに、こういう時ばっかりそういうこと言うのね」
「たまには言わせていただかないと。若く繕うことも嫌になる時があるんですよ」

やれやれと言った風情で、アマンダは溜息をつく。そんなアマンダを見て、セレーネは可笑しそうに笑った。彼女の年上らしいところ、それなのに偉そうにしないところが、セレーネは好きだった。

しばらく2人はお喋りに没頭した。最新の香水の話。社交界の流行。隣国から取れる珍しい花。王都に出来た新しい仕立て屋。

2人の話は花咲くばかりで、途切れることはなかった。

「アマンダとお話していると、いつも時間も過ぎるのがあっという間ね」
「そう言っていただけて嬉しいですわ。私もあなたと話していると時間を忘れてしまいます」

上品に笑うアマンダの顔を見つめながら「……そろそろお暇するわ」とセレーネは席を立ち上がる。

「次に会う時には、エルゲンの好みをちゃんと聞いてくるわ」

そう宣うセレーネに、アマンダはほんの少し暗い顔をした。

「セレーネ」
「なあに?」
「何かお辛いことがあったら、いつでも来てくださいましね。私はいつでもあなたを歓迎致しますわ」

改めてそんなことを言うアマンダを不思議に思いながらも、セレーネはそんな彼女の言葉を嬉しく思って「じゃあ、遠慮なく頼らせてもらうことにするわね」と元気いっぱいに答えた。
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