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結婚生活

誘惑の香

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「ところで今日は、頼み事があると言っていらしたけど、どうなさったのかしら」

問いかけてくるアマンダに、セレーネは真剣な表情で口を開いた。

「──エルゲンを誘惑するための香を作って欲しいの」
「は?」

ポカンと口を開くアマンダに、セレーネはドレスの裾をぎゅっと握り、ぽつぽつと言葉を零した。

「……前にも少しお話したことがあるけど、エルゲンが全然私に手を出してくれないの。どうしてなのかたくさん考えたわ。私の身体が彼にとって魅力的じゃないのか、とか。顔が好みじゃないのかしら、とか。全部エルゲンに聞いてみたけど、エルゲンは違うって否定するの」
「……あなたが魅力的に見えないのなら、この国の女のほとんどが魅力的に見えないってことになるわよねえ」

アマンダはぽつりと言って、セレーネの悩ましげなその表情をじっくりと観察した。癖のある淡い金髪に、澄み渡る海のような瞳。小さくぽってりとした唇に、まろやかな白い頬。セレーネほどの美貌の持ち主はなかなかいない。そんな彼女が魅力的ではないと感じる男がいたら、アマンダはその男の顔が見て見たいと本気で思った。

「それで私考えたの。顔も身体も関係ないのなら、あとは何が足りないのかって」
「それが香りってこと?」
「ええ、そう」

真剣な表情で頷くセレーネに、アマンダはほんの少し考えるそぶりを見せて、閃いたように顔をあげた。

「それで私に、あなたの旦那様を誘惑するような香りを調合して欲しいってことね?」
「そうなの。お願できない?」
「あなたの頼みだもの。もちろん受けるけれど。エルゲン様のお好みを知らないことには調合は難しいわね」
「エルゲンが好きな香り?」
「ええ。さすがに嫌いな香りでは誘惑する以前の問題になってしまうから」
「……分かった。それとなく聞いてみるけど……」
「あら、何か問題が?」

問いかけるアマンダに、セレーネはぎこちなく頷いた。

「エルゲン、これから少し忙しくなりそうなの。だから、少し難しくなるかもしれないわ」

エルゲンが「忙しくなる」と言うと、大抵本彼は忙しそうに朝も夜もなく屋敷を出入りする。ほんの少しでもセレーネとの時間を取ろうとしてくれてはいるのだろうが、それでも敢え無く一言二言を交わすだけになってしまう時もあった。

彼が忙しい時は、大抵そんな感じになるので、セレーネはそんな短い時間の間で彼の好きな香を聞き出せるかどうか不安に思った。

アマンダは少し考えた後「ああ……」と何かを思い出したように手を叩いた。

「そういえば、そろそろ聖女選定の時期だったのではないかしら」
「?」
「ああ、そうねえ。セレーネはまだ若いからお知りでないのだわ」

アマンダはほんの少し遠い目をした。

「聖女選定っていうのは、50年に1度行われる聖女を選定するための儀式のことなのよ。……あと1か月もしたら、今の聖女様が隠居を宣言なさって「聖女選定」の布告が国中に渡ることになるのではなかったかしら。知り合いに神官様と親しい方がいて、その方からお聞きしたことだから、定かではないのだけれど」
「……聖女様。本当にいらっしゃるのね」

この国に「聖女」という存在がいることは知っている。だけどその存在はエルゲンが神官長を務める王都の大神殿の奥にあって、あまり表に出てくるような存在ではないので、皆、「聖女」が普段いることを意識しないのだ。

「聖女様の選定ってどうやってするの?」

セレーネの問いかけに、アマンダはほんの少し戸惑うような表情を見せた。
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