大好きな旦那様はどうやら聖女様のことがお好きなようです

古堂すいう

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結婚生活

年の離れた友人

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セレーネが向かった先は、王都郊外にひっそりと佇む煉瓦造りのお洒落な洋館。洋館と言っても、それほど大きな建物ではなく、二階建ての一軒家よりは大きい程度である。

馬車を門前につけると、さっそく屋敷の扉が開いて、淡い色合いドレスを身に纏った上品な老婦人が現れた。彼女は調香師としてとても有名な女性で、名をアマンダと言う。セレーネとは王都の仕立て屋で出会った。

あまり誰かと意気投合することのないセレーネにとって、初めて趣味の合った友人でもある。

「セレーネ、いらっしゃい。どうぞ、中へ」

穏やかな声に即されて、セレーネはゆっくりと馬車を降りた。御者には何時に迎えにきて欲しいと伝えて、帰らせる。

「久しぶりね、アマンダ。お元気だった?」
「ええ、ええ、元気でしたよ」
「最近はまた部屋に籠りっぱなし?駄目よ、たまには外に出ないと」
「そう仰いますけど、あなたはどうなのかしら?セレーネ」

そう返されてしまえば、何も言い返すことは出来ない。なにせセレーネも人に指摘なんて出来ないくらい屋敷に籠りっぱなしの人間なのだから。

友人がいないことも外に出ない理由の1つではあるけれど、それ以外にも理由はあって、最たる理由は、そもそも買い物に行く必要がないからである。

服が欲しいと言えば仕立て屋やデザイナーが屋敷を訪れるし、宝石が欲しいと言えば宝石商が自ら足を運んでやってくる。

セレーネの所有する財産は、王族が喉から手が出るほど欲しがるほどのもので、そんな彼女の所有する財産の恩恵にあずかろうと、行商人自らが彼女の元へ駆けつけて、顧客になってもらおうとする。エルゲンの私邸に移ってからは、そういう機会は減ったが、昔からの個人的な繋がりで、セレーネが良く欲しいと思う物を売る仕立て屋やデザイナー、宝石商には時折エルゲンの屋敷を尋ねてもらっている。

というわけで、必要なものが勝手に寄って来るような生活をしているので、セレーネはアマンダの言葉に何も言い返すことが出来なかった。渋い表情を浮かべるセレーネに対してアマンダは微笑んで「お茶を用意するから、いつものところで座っていて頂戴」と言葉を掛ける。

それに頷いて、いつものところ──アマンダ自慢の中庭の東屋へ向かった。

アマンダは調香師ということもあってか、庭に香りの元となりそうな花や草を植えている。彩り鮮やかな庭は趣味良く整えられており、セレーネはここに来るといつも自分自身の心すら整うような気がして、この景色を見られる東屋をとても気に入っていた。

「……今日はカモミールティーですよ」
「ありがとう。アマンダ」
「いいえ、それからクッキーもありますからね。どうぞ好きなだけお食べになってくださいまし」

差し出されたのは、淡い金色のカモミールティーが入った玻璃のグラスに、花柄文様の大皿に入った香ばしいバターの匂いを放つクッキーだった。

「アマンダは私を太らせようとしてるのね」
「あらあら、何を仰いますことやら。あなたはもう少し太った方がよろしいわ」

優しく笑うアマンダにつられて、セレーネもクスクスと笑いを零した。
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