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結婚生活
甘い朝食
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「はい、口を開けて」
エルゲンに即されて、セレーネは口を開きて与えられるものを遠慮なく口の中に入れていく。端から見ると餌を与える親鳥と小鳥のようである。
セレーネはエルゲンの膝の上でくつろぎながら、口を開けているだけでいいので、この食事の方法が好きだった。エルゲンも際限なくセレーネを甘やかすものだから、ほぼ毎日この格好で食事をしている。
エルゲンの私邸へ来たばかりのメイドはこの光景を見て、麗しいと思うと同時にその砂糖よりも甘い光景に当てられて泡を吹く。
「美味しいですか?」
「エルゲン、私あれが食べたいわ。今食べたのは嫌よ」
「いけません。きちんと野菜も取らなくてはいけませんよ」
「……や」
「セレーネ。こればかりは言うことは聞きなさい」
「ひどいわ、私が嫌だと言っているのよ?言うことを聞いてというべきなのは私ではないかしら」
セレーネの勝手な言い分に対しても、エルゲンは怒ったりはせずに静かに首を振る。
「セレーネ」
「……分かったわよ」
諭すようなその声音に、セレーネはすぐに折れた。
こんな風にエルゲンが少し頑固になるのは、セレーネの健康に関わることばかりだ。それ以外のことで、エルゲンがセレーネの我儘を聞かないことはほとんどない。
それにこんな風な声を出す時のエルゲンはセレーネが折れるまで自分から折れることがほとんどない。それなので、セレーネはほんの少し抵抗しても、すぐに折れるようにしている。心配されることが嫌なわけではないので。大人しく口を開くと、エルゲンは満足気に微笑んで、野菜のたっぷり入ったスープを掬った。
エルゲンは、セレーネの口に入れながら、時々自らの口に食べ物を含んで朝食を終える。
彼はこの朝食が終わったら、すぐに大神殿に向かい朝の礼拝をしなければならないので、とても忙しいはずなのだが、セレーネが「眠い、眠い」とごねて、昼まで眠る態勢を取った時以外は、こうした朝食の取り方をするのだった。
「お腹いっぱいだわ」
「それは良かった」
エルゲンは笑って、セレーネの腰を抱き彼女の額にまた口づけた後に、膝からおろした。
「もう、お仕事に行くの?」
「ええ……。ああ、そうだ、言い忘れていました。セレーネ、しばらく帰りは遅くなるので、いつものように待たないでしっかり寝るように」
「どうして?」
「そういえば、まだきちんとお話していませんでしたね。……時間が出来た時にお話しますから」
「……分かったわよ」
いじけて肩を落とすセレーネを見て、エルゲンは苦笑を零した。
「今日は最近出来たという友人のところへ遊びに行くのでは?」
「あ、そうだったわ!」
すっかり忘れていたセレーネは急に予定が出来たような気がして嬉しくなった。正直言って、エルゲンが傍にいてくれないことほどつまらないことはないが、それでも今まで全く友人などいなかったセレーネにとって、友人との予定は貴重なものだ。
それなので、セレーネはすぐに準備に取り掛かることにした。そんな彼女の様子を見て、エルゲンは慈しみの瞳を向けながらも、寂しそうに言葉を零した。
「自分で言っておきながら、何というか、複雑ですね」
「なにか言った?」
「いいえ、何も」
彼はセレーネが忙しなく動き様子を見届けて、セレーネの見送りの元、王都にある大神殿へと向かった。
(……そういえば、エルゲンは何を話そうとしているのかしら)
ふとそんなことが気になったセレーネだったが、早く支度をしなければ約束の時刻より遅れてしまうことに気づいて、一旦思考を止めて準備に取り掛かった。
エルゲンに即されて、セレーネは口を開きて与えられるものを遠慮なく口の中に入れていく。端から見ると餌を与える親鳥と小鳥のようである。
セレーネはエルゲンの膝の上でくつろぎながら、口を開けているだけでいいので、この食事の方法が好きだった。エルゲンも際限なくセレーネを甘やかすものだから、ほぼ毎日この格好で食事をしている。
エルゲンの私邸へ来たばかりのメイドはこの光景を見て、麗しいと思うと同時にその砂糖よりも甘い光景に当てられて泡を吹く。
「美味しいですか?」
「エルゲン、私あれが食べたいわ。今食べたのは嫌よ」
「いけません。きちんと野菜も取らなくてはいけませんよ」
「……や」
「セレーネ。こればかりは言うことは聞きなさい」
「ひどいわ、私が嫌だと言っているのよ?言うことを聞いてというべきなのは私ではないかしら」
セレーネの勝手な言い分に対しても、エルゲンは怒ったりはせずに静かに首を振る。
「セレーネ」
「……分かったわよ」
諭すようなその声音に、セレーネはすぐに折れた。
こんな風にエルゲンが少し頑固になるのは、セレーネの健康に関わることばかりだ。それ以外のことで、エルゲンがセレーネの我儘を聞かないことはほとんどない。
それにこんな風な声を出す時のエルゲンはセレーネが折れるまで自分から折れることがほとんどない。それなので、セレーネはほんの少し抵抗しても、すぐに折れるようにしている。心配されることが嫌なわけではないので。大人しく口を開くと、エルゲンは満足気に微笑んで、野菜のたっぷり入ったスープを掬った。
エルゲンは、セレーネの口に入れながら、時々自らの口に食べ物を含んで朝食を終える。
彼はこの朝食が終わったら、すぐに大神殿に向かい朝の礼拝をしなければならないので、とても忙しいはずなのだが、セレーネが「眠い、眠い」とごねて、昼まで眠る態勢を取った時以外は、こうした朝食の取り方をするのだった。
「お腹いっぱいだわ」
「それは良かった」
エルゲンは笑って、セレーネの腰を抱き彼女の額にまた口づけた後に、膝からおろした。
「もう、お仕事に行くの?」
「ええ……。ああ、そうだ、言い忘れていました。セレーネ、しばらく帰りは遅くなるので、いつものように待たないでしっかり寝るように」
「どうして?」
「そういえば、まだきちんとお話していませんでしたね。……時間が出来た時にお話しますから」
「……分かったわよ」
いじけて肩を落とすセレーネを見て、エルゲンは苦笑を零した。
「今日は最近出来たという友人のところへ遊びに行くのでは?」
「あ、そうだったわ!」
すっかり忘れていたセレーネは急に予定が出来たような気がして嬉しくなった。正直言って、エルゲンが傍にいてくれないことほどつまらないことはないが、それでも今まで全く友人などいなかったセレーネにとって、友人との予定は貴重なものだ。
それなので、セレーネはすぐに準備に取り掛かることにした。そんな彼女の様子を見て、エルゲンは慈しみの瞳を向けながらも、寂しそうに言葉を零した。
「自分で言っておきながら、何というか、複雑ですね」
「なにか言った?」
「いいえ、何も」
彼はセレーネが忙しなく動き様子を見届けて、セレーネの見送りの元、王都にある大神殿へと向かった。
(……そういえば、エルゲンは何を話そうとしているのかしら)
ふとそんなことが気になったセレーネだったが、早く支度をしなければ約束の時刻より遅れてしまうことに気づいて、一旦思考を止めて準備に取り掛かった。
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