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夢
婚約破棄
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「セレーネ・エンデミリオン。本日この場を以ってあなたとの婚約を破棄する」
そう宣う第一皇子ロイ──の横には華奢な女が1人。その姿に、セレーネは見覚えがあった。
(あれは……、……エンリケ!)
弱々しく今にも卒倒しそうな男爵令嬢を、ロイは大事そうに見つめ、その肩を抱いていた。
そんな2人を前にして、セレーネは訳が分からなくなった。
助けを求めて、両親の方へ顔を向けてみると、さっと視線を避けられる。その横にはこれまた華奢な体躯の金色の髪の美しい妹がいる。
両親は優秀で人柄も優れている妹を可愛がり、気が強く何をしてもすぐに飽きてやめてしまうセレーネには無関心だった。
今この場で皇子に反論でもしたら、自分達の爵位が危ういから黙っているのだろう。
薄情な両親に憤慨しそうになったセレーネだったが、再びロイの声が大広間に轟きそれどころではなくなった。
「お前は時期王妃としての身分を授かりながら、1人の国民でもあるエンリケに数々の嫌がらせをした。頬を叩いているところを目撃した者もいる。これが時期王妃のすることか」
ロイの最もな言い分に、その場の誰もが頷いた。完全なる四面楚歌である。
セレーネはこんなにも屈辱的な所業を受けたことがなかった。国の財政を握ると謳われた祖父─エダンに誰よりも甘やかされながら育った彼女は、気位が高く、傲慢で我儘だ。エダンの唯一の至宝とまで言われていたのだから、そうなってしまうのも無理はないのかもしれない。
不思議なことに、エダンはセレーネ以外の人間には無関心だったので、彼女はより一層調子づいてしまったのである。
そんな彼女には救いの手を差し伸べてくれる友人も、まして幼馴染もない。
つまり、誰も彼女を助けようとしない。
やっと自らの危機的状況に気づいたセレーネは、ぐっと唇を噛み(おじい様が、生きていらしたらこんなことにはならなかったのに!)と心の中で叫んだ。
「よって、お前の所有する全ての財産を没収する!公爵家は大人しくセレーネが所有する全ての財産を王家へ引き渡すように」
その言葉に、セレーネは愕然とした。
一国を買えるほどの大金を有していた祖父エダンは、その遺産の全てをセレーネに相続させた。そう、全てだ。その場にいる皆がこの婚約破棄には2つの意味があると知った。
1つは、嫌っていたセレーネとの婚約破棄。そしてもう1つは、彼女の持つ財産の没収。
彼女の持つ財産は昔から王家が喉から手が出るほど欲していたものだ。だからこそ2人は婚約していたのだが、ロイはセレーネと婚約することを嫌がっていた。然れども、彼女の持つ財産は欲しい。
ロイは、セレーネの恋心とその我儘で傲慢な性格を利用し、彼女の悪行を皆の前で晒して、自らの願望の全てを今ここで叶えたのである!
セレーネは悔しさのあまり下唇を引きちぎらんばかりに噛んだ。口の中にじんわりと血の味がするも、裏切られた衝撃でそれすらも感じることが出来なかった。
「さあ、もうお帰りいただいて結構だ」
周りからクスクスと忍び笑いが聞こえてきた。あまりの屈辱。セレーネは誇り高い自らの矜持がズタズタに傷つけられる感覚に耐え切れず、だけどこんな大勢の中では泣くに泣けずいた。その時。
「お待ちください、皇子」
柔らかい、春の風のような声が広間に響いた。
そう宣う第一皇子ロイ──の横には華奢な女が1人。その姿に、セレーネは見覚えがあった。
(あれは……、……エンリケ!)
弱々しく今にも卒倒しそうな男爵令嬢を、ロイは大事そうに見つめ、その肩を抱いていた。
そんな2人を前にして、セレーネは訳が分からなくなった。
助けを求めて、両親の方へ顔を向けてみると、さっと視線を避けられる。その横にはこれまた華奢な体躯の金色の髪の美しい妹がいる。
両親は優秀で人柄も優れている妹を可愛がり、気が強く何をしてもすぐに飽きてやめてしまうセレーネには無関心だった。
今この場で皇子に反論でもしたら、自分達の爵位が危ういから黙っているのだろう。
薄情な両親に憤慨しそうになったセレーネだったが、再びロイの声が大広間に轟きそれどころではなくなった。
「お前は時期王妃としての身分を授かりながら、1人の国民でもあるエンリケに数々の嫌がらせをした。頬を叩いているところを目撃した者もいる。これが時期王妃のすることか」
ロイの最もな言い分に、その場の誰もが頷いた。完全なる四面楚歌である。
セレーネはこんなにも屈辱的な所業を受けたことがなかった。国の財政を握ると謳われた祖父─エダンに誰よりも甘やかされながら育った彼女は、気位が高く、傲慢で我儘だ。エダンの唯一の至宝とまで言われていたのだから、そうなってしまうのも無理はないのかもしれない。
不思議なことに、エダンはセレーネ以外の人間には無関心だったので、彼女はより一層調子づいてしまったのである。
そんな彼女には救いの手を差し伸べてくれる友人も、まして幼馴染もない。
つまり、誰も彼女を助けようとしない。
やっと自らの危機的状況に気づいたセレーネは、ぐっと唇を噛み(おじい様が、生きていらしたらこんなことにはならなかったのに!)と心の中で叫んだ。
「よって、お前の所有する全ての財産を没収する!公爵家は大人しくセレーネが所有する全ての財産を王家へ引き渡すように」
その言葉に、セレーネは愕然とした。
一国を買えるほどの大金を有していた祖父エダンは、その遺産の全てをセレーネに相続させた。そう、全てだ。その場にいる皆がこの婚約破棄には2つの意味があると知った。
1つは、嫌っていたセレーネとの婚約破棄。そしてもう1つは、彼女の持つ財産の没収。
彼女の持つ財産は昔から王家が喉から手が出るほど欲していたものだ。だからこそ2人は婚約していたのだが、ロイはセレーネと婚約することを嫌がっていた。然れども、彼女の持つ財産は欲しい。
ロイは、セレーネの恋心とその我儘で傲慢な性格を利用し、彼女の悪行を皆の前で晒して、自らの願望の全てを今ここで叶えたのである!
セレーネは悔しさのあまり下唇を引きちぎらんばかりに噛んだ。口の中にじんわりと血の味がするも、裏切られた衝撃でそれすらも感じることが出来なかった。
「さあ、もうお帰りいただいて結構だ」
周りからクスクスと忍び笑いが聞こえてきた。あまりの屈辱。セレーネは誇り高い自らの矜持がズタズタに傷つけられる感覚に耐え切れず、だけどこんな大勢の中では泣くに泣けずいた。その時。
「お待ちください、皇子」
柔らかい、春の風のような声が広間に響いた。
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