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もどかしい恋

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『貴方がだっ!大好きです‼』


アノ時、自分の世話をする菖蒲(あやめ)は、そうたどたどしく言ったのを覚えている。

──もどかしいなぁ…


そう赤い髪の角の無い鬼は、横目でぽけ~と空を眺めてる白髪の珍しい白い角の鬼をちらりと眺めて想った。

──うーん…もどかしい


アノ時、自分の世話をする菖蒲(あやめ)は、そうたどたどしく言ったのを覚えている。

自分にも勇気があればなぁ、なんて想いながら、赤い髪の角の無い鬼は、いつも何かと世話を焼いてくれるぽけ~っと空を眺めている白い鬼を見てため息をついた。


「?

夜亜芽(よつめ)、ため息、どうしたの」

「大丈夫だよ六花(りっか)


ちょっと考え事してたんだぁ」


──うーん、声を聴くのももどかしくなってきた


夜亜芽と呼ばれた赤い髪に角の無い鬼はこれまた大きなため息をつくと、立ち上がって伸びをした。


「よし!ちょっと素振りしてくるわ!

夏雪(なつゆき)さーん!

ちょっと相手してくれませんかー?」


そして夜亜芽は大声で本邸の方に声をかけると、青い屋根に白い建物の大きな家から大柄の女性もとい本来性別は男なのだが…、六花の五番目の姉という夏雪が嬉しそうにドスンドスンと音を立ててかけてきた。


「なぁに~!夜亜芽ちゃぁあ~んっ!

相手って相撲かしらぁあんっ!」


「相撲じゃないですよ!

相撲ではないです、ていうか体格差で私が潰れます。

素振りしたいので相手してください」


「あらぁん!

アタシの素振りは重いわよぉんっ!

六花ちゃんじゃなくていいのぉん?」


「あんな感じです六花」


夜亜芽に言われて夏雪が弟の六花を見ると、六花はぽけ~と指の先に蝶々を止まらせてぼーっとしていた。


「アノ子、あんなにぼーっとしてるのにアタシの素振り受け止めちゃうのよねぇん。

いいわぁん!

夜亜芽ちゃん素振りしましょぉお!」


そうして青い角の巨体と、赤い髪の角の無い鬼が真正面に向き合った。

手に持っているのは木刀だ。


──夏雪さんに勝てたら、少しは告白とか、できるかな


とか想ったらなんだか恥ずかしくなってきた夜亜芽は、頭の中で首を振って、夏雪に一気に距離を詰めた。

夏雪が下から木刀で夜亜芽の木刀を払い上げる。


夜亜芽の木刀はあっさり宙を舞った。


普段、六花の長女の燈桜(ひざくら)さんに鍛えてもらっているのになんという体たらくだろうか。


夜亜芽は実際結果を分かってはいたけれど、改めて強者を目にすると自分がみじめに想えた。


ソレは恋心に置いても同じだった。


夜亜芽と六花は親同士が決めた許嫁同士だ。


六花は気を使ってくれるけれど、なんというか、ソレは友人に対するソレであり、夜伽などもっての他当然のことで、接吻すらしたこともなければ抱きしめられたことすらない。


夜亜芽も乙女だ。


親の恋は何処から始まったのだろうとか気になるし、結婚てどうやって至るのだろうとか考えたこともある。


そんな中、自分の世話係のあの弱気な菖蒲でさえ好きな人に想いを告げて結ばれたのだ。


なんだか夜亜芽はみじめになってきて土の上に大の字で横になった。


「夜亜芽ちゃぁ~ん、大丈夫ぅう?

アタシ力入れすぎちゃったかしらぁあんっ」


夏雪はもじもじしながら夜亜芽の顔を覗き込んできた。


「夏雪さんのせいじゃないです。

ちょっと悩み事が…」


「もしかして…、恋の悩み…?」


夏雪がこそっと耳打ちするように言う。


「まぁ、そんなところです」


「んもうっ‼

六花ちゃんったらぁあ‼」


「私、六花に抱きしめてもらったことすらないんですよね。

手をつないだことは、…あるけど。

でもなんか…」


「物足りない?」

──違う、そうじゃない


すぐそう想った


でも物足りなかったとしても、自分はソレを口にできないで居るだろう。


「すごいな、菖蒲は」


夜亜芽は腕を目の上に置き、そう呟いた。
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