聖剣使いの乙女は実は魔王の娘だった

桐夜 白

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魔王の娘 と 休戦締約と同盟条約

魔王の娘 と 休戦締約と同盟条約 21

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 *
 
 
━━ピチョン…、ピチョン…、ザブン…!
 
──ふぅ、なんとかお風呂に入れたけど…、まさかこの大理石の部屋がルーレライルだったとはね…
 
 
 
エディーリンがそう想いながら意外だという気持ちと共にバスタブから大理石の床を覗くと、バスタブいっぱいのお湯が大理石の床に音を立てて溢れた。
恐らく魔族を嫌うあの国王が、あえてルーレライル…、人間界語のお風呂を運び出して何も無い空間にしたのだろう。
ソレは故意によるモノなのか、それとも純粋に魔族はお風呂に入る種族と知らなかったのか。
一体どちらなのだろう。
そう想いながらエディーリンは手で湯をすくい、顔の高さまで持ち上げて湯舟に零す。
 
 
──兵士達が萎縮してたけど、レイラは何者なのかしら…
もしかして権力者か何か…?
 
 
「…まさかね」
 
 
 
そんなことないか、と想いながら、エディーリンは湯船に身体を沈める。
恐らくシスターだから、神職者の科目…、察するに神に祈り通じる力を持つ存在の一人だからだろう、とエディーリンは湯を弄びながら想った。
黒い髪が湯船に揺蕩い、甘く心安らぐ香りが鼻をくすぐった。
とてもいい香りだった。
 
 
 
「エディー?
お湯加減はいかがですか?」

「あ!
とっても気持ちいいわ!
ありがとう、レイラ!
おかげで助かったわ」
 
 
 
レイラが緑色の扉の外からいつもの柔らかな声をかけてくれ、エディーリンはソレに慌てて声を返す。

そう考えすぎだ。
いろいろと。
彼女はきっと神職者の力を賜った存在だから、兵士達も無下に出来なかっただけだ。

エディーリンはそう想うと、ザバアと音を立てて湯船から立ち上がり、傍にあったタオルで身体の水を拭うと、緑の制服に着替える。

髪をふきながら緑色の扉を開けると、レイラと栗色の髪のシスターが微笑んでいた。
 
 
 
「今日のお昼迄には寮で不自由ないようにしておきましたので、これからは何も心配いりませんくてよ、エディー。
もし何かあったらぜひ、わたくしを、頼ってくださいな」
 
 
 
レイラが微笑んだまま、自分を頼れ、という部分を強調してエディーリンに伝える。
エディーリンはソレに素直にお礼を言うと、やはり彼女は特別なのかしら?と考え直す。
 
 
 
「レイラ、エディー、
登校の時間が近いわ。
そろそろ学園に行きましょう」
 
 
 
栗色の髪のシスターが言い、二人が頷く。
 
 
 *
 
 
エディーリンとシスターレイラは同い年だった。
二人は学園について、エントランスから優美なアール・ヌーヴォーの階段を2回上がると、どうやら普通科が左側でシスター科が右側で別れているらしい。
三人はまた後ほど、と会釈すると、それぞれの教室へと向かって行った。
 
 
エディーリンが自分のクラスに辿り着くと、扉に手をかける。
 
 
──私は魔族と人間の休戦締約と同盟条約、双方の平和の為にやってきた
ソレを忘れてはいけない
 
 
エディーリンはソレを心に刻んで、一呼吸おいて扉を開いた。
 
 
 
クラス全員がエディーリンを見た。
ソノ目は、畏怖だった。
 
 
こそこそと「アルミホイルよ…」「兵士様達が居るけど…、やっぱり怖いわ」「エカル先生でさえ一戦も勝てないだなんて、オレ信じられないよ…」
予想はしていたけど、エディーリンが席に向かい、席につくまで、そんな話ばかり聴こえて来た。

「!」
 
 
 
そんな時だった。
目の前に緑の女子制服と男子制服の生徒が数人、グループでエディーリンの机の前、教卓のある台に立ち、エディーリンを強気な視線で見下ろしていた。
 
 
 
「ごきげんよう、アルミホイルさん。
今日もお友達はソノ烏だけかしら?」
 
 
 
挑発かな?
うん、挑発だな?
明かな挑発だった。
だがエディーリンは相手にせず、ディプスクロスに至っても相手にしていなかった。
 
 
 
「昨日は随分と暴れてくれたよなー。えー?
蛮族の混血──ウウィーグツィ族よりずっと蛮族っぽかったぜ!
さすが、まーぞーくってヤツだな!
すげえ気味悪ぃ」
 
 
 
派手な髪色の男子がエディーリンの机に足を置いて上から脅すように声を投げる。
 
 
 
「うふふ、でもぉ、いくら魔族でもぉ?
だーれも味方も居なければ、理解者も居ないよねぇー!
だあーって魔族でぇー、アルミホイルだもぉーん!!」
 
 
 
短いくりくりしたツインテールの金髪の少女が、自慢の、なのかくるくるくりくりしたふわふわしたツインテールを触りながら言う。
 
 
 
「うっふふふふ、そうですわね、アルミホイルで十分よ。
どうせ結界の中では、魔術も使えないんだし」
  
「ていうかオレ達に手だししたら、ソノ噂の休戦とか条約どうなっちゃうのかなー?アルミは」
 
「こっちには聖剣の乙女様が目覚めるという神託が西洋五大国各地に下ったのだよ。
聖剣の乙女様が目覚めれば…、魔族なんて滅びたも同然だね」
 
「うふふふっ、あはははははっ!
それもそうよね!
だって我らがエンテイラー国王陛下が、魔族を野放しにしておくはずがないもの!
まずはお前から殺されるのよッ!!
目障りな化け物!!」
 
 
 
悔しいというより、腹立たしいというより、ただただ「なっさけないことですこと、器の小さな者の考えることですわね」と、ただそれだけだった。
本当にソレしか想うことがなく、無視を決め込んでいたら何かを勘違いしたのか、派手な髪色の男子がエディーリンの机にかかと落としをして「オラっなんか言えや!ビビッても許してもらえると想うなよ化け物!」と叫んだ。
ソレは、ソレらの目は侮蔑と優越感のソレだった。
 
 
──許してもらえる…?
コノ者達は何を言っているのかしら?
 
 
エディーリンはおかしくなって想わず笑みが零れかけたのを、心の中でとどめて心の中で笑った。
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