風華鬼伝承

桐夜 白

文字の大きさ
上 下
6 / 6
第一話 鬼達の幼き日々

3

しおりを挟む
 
 *

ということがあったと、現(うつつ)と五人の姉達は聴き、現ををはじめとして全員が心配した。

髪の毛を整えようと鋏(はさみ)を取り出すと、夜亜芽(よつめ)は怯えて部屋の隅っこまで逃げて怯えた表情をしていた。
そこで翠桜が歌いながら櫛(くし)で髪を整えてあげると、歌声に落ち着いたのか表情は和らいでいった。
しかし鋏(はさみ)で切られるのが、自分も切られるのではないかと怯え、鋭利なモノを特に怖がった。
仕方なく眠っている間に、髪を切ると、さっぱりした姿に起きた夜亜芽は驚きまた部屋の隅に行ってしまった。
 
 
お風呂もろくに入れられてないのかと心配して四女の木蘭(モクラン)が服を持っていくと、きょとんとして、「くさいからみずのかけるの?」と言った。

「え?」と全員が絶句したのを現は覚えている。

「かけないよ、お風呂へ行くのよ?」と木蘭が言うと、「おふろってなぁに?」と言ったのでさらに全員絶句した。
 
 
おいでと手を伸ばすと怯えて縮こまる夜亜芽を、「温かいお水でゆっくり、ゆ~っくり、キレイキレイ皆でしましょうね~」と母─翠桜が抱き抱えて言い、今度は三女の蓮花(れんか)が歌を歌って踊って「おっふろ!おっふろ!」と言ったので、どうやら夜亜芽には”お風呂とは安全なところ”と認識できたようで、強張った体は力が抜けて翠桜にしがみついていた。
 
 
「よぉし現!オレ達も入るか!」
「うん、父さん」
 
 
男湯と女湯は厚い木の板を隔てて在る。
女湯から翠桜の歌が聴こえると、張り合うように父─九蓋も歌いだし、現は噴出して笑ったのを覚えている。
 
  
アレが最後の家族全員の風呂になるとは、誰が予想しただろうか?
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。


処理中です...