風華鬼伝承

桐夜 白

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第一話 鬼達の幼き日々

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「おーいボールそっち行ったー!」
「もーらいっ」
「取り返せー!」
「オレが行くー!」
 
 
 
青を基調とした町で、子供達がボール遊びをしている。
ソレは二チームに分かれて奪い合いっこするようなものだった。
 
 
──ボクもやってみたいな
 
「ねぇ、皆」
「現(うつつ)様!」
「現様だ!」
 
 
 
現(うつつ)。
白い髪に青ではなく青と紫の稀有のグラデーションの角を持つ幼くとも美麗な彼が声をかけると、周囲の子供だけでなく大人達まで頭を垂れた。
そしてまるで祈るように拝む。
 
 
 
「あ…、ボクもボール遊びを…」
「とんでもございません!現様の御身に何かあったらと思うと!もう子供達には遊ばせませんので!ええ!」
「あ…」
 
 
 
いつもこうだった。
新しい遊びが始まるにつれ、声をかけると大人が子供を咎める。
そして現に最敬礼をして場を去るのだ。
 
 
現はこの青瑠璃玖(あおるりく)の長の息子で、母の夢見の予言では、巫女としての時代息子に聖獣がやってくると予言した程だ。
ソノ結果、たまに聖獣が青瑠璃玖の長の家の上、つまり現の屋敷の上を浮遊しているのをみたことが多数目撃されている。
故に、現は拝まれ、仲間に入れてもらえないのだ。
寂しいものだ。
誰にも相手にしてもらえないのだから。
 
 
 
そんな中、優しい歌声が聴こえてきた。
夜亜芽(よつめ)だ。

最近許嫁として赤恋玖(セキレンク)から両親が連れて来た少女だ。
人見知りが激しく、やっと自分達に心を開いてくれた。
それまでの期間、半年以上。
7歳の夜亜芽の誕生日を祝ったのと、現が同じ誕生日なのに夜亜芽が嬉しくなるように一緒に誕生日歌を歌ったのが一番嬉しかったらしい。
曰く、彼女は誰かに生まれたことを祝福された想い出がないそうだ。
だから、「本当の家族みたいだね」と言った彼女の言葉を、自分は今も覚えている。
 
 
 
「行こ、夜亜芽(よつめ)のところに」。
 
 
 
そう言って現は衣を翻した。
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