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高校1年目
夏休みと阿部とボーリング(2)
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事の始まりは阿部の手伝いが終わってから3日後、バイト先で阿部と勤務時間が被り、閉店作業を終えて、ロッカー室で帰る準備をしていた時であった。
俺がロッカー室でバイト先の制服を脱いでカバンに入れている時に、阿部がドアを開けて入ってくるなり俺の肩をポンと叩いた。
「明後日、午後って空いています?空いていたら遊びに行きません?」
阿部が遊びに誘われるのは初めてだったので、俺は内心ビックリした。。
考えてみれば阿部とは高校入ってから約3カ月、良くも悪くも色々あったがバイト後や学校の後、最近やっていた黒に限りなく近いグレーな手伝いの後で、ラーメン屋で飯を一緒に食べるだけであった。
逆に言えばこれまで阿部と純粋に遊びに行くと言う事がなかったことは、一般的な常識からではおかしいことかもしれないが、阿部が色んな交友関係を持っているので遊ぶ相手には困る事がなさそうなだと思っていたところもあり、更には俺も阿部とはこの何とも言えない距離感での関係が良いとも思っていた。
阿部が遊びに誘っていることに喉に魚の骨が刺さっているような違和感があり、これまでの無かったことが急に起こると不自然な感じと相手が阿部と思うと、脊椎反社で何か疑いたくなった。
「どうせお前の事だがら、また何か変なことを考えているんじゃないか?」
阿部はそれを聞くと右腕を目元に当てながら、テレビの芸人がやるような泣きマネをしだした。
「登藤は友達がいないから、どうせつまらない夏休みを過ごすと思って、私は少しでも高校の夏休みをエンジョイ出来るように良心で誘っているだけです。」
友達がいないは事実だが、阿部に心配されたくないし、阿部には良心と言うものを感じたことがない。
とは言え、夏休みの2週間ぐらいを阿部の手伝いで潰れてしまって、残りの予定も今のところ何もないので、内心はこのまま夏を満喫することなくバイト先と家を往復するだけの夏休みになりそうで、流石にどうかと思っていた。
阿部が何を考えているとか深くは考えずに、俺は誘いに応じても良いのではと浅はかな結論を出してしまっていた。
阿部の交友関係は良くわからないが、どうせ遊ぶ相手がいない日が出たので、何となく俺を誘っているとそう思った。
それに俺は別に断る理由も無かったので阿部と遊ぶ約束をした。
「まあ、別に暇だし、良いけど何するか考えてるのか?」
阿部は顎に手を当てながら少し考えていた。
俺はこの時に阿部が考えているので、無計画に遊ぶ約束を振ってきたと思っていて、完全に純粋に遊びに誘っていたと言う事を確認していた。
これが阿部の演技だと思うと本当に狡猾な奴だと思う。
「ボーリングなんてどうです?どうせなら昼飯も食べてから行きません?」
「ああ、そうするか。」
こうして阿部との遊ぶ約束をするのだが、俺は阿部があの何とも言えない不気味な笑みを浮かべていたことを見逃していた。
阿部との待ち合わせ場所は駅前のファミレスだった。
俺と阿部は毎回ラーメン屋で飯を食べるので、全身から皮膚が痒いような違和感を感じていたが、ボーリングが出来るようなアミューズメント施設は駅周辺しかないので当然と言えばそうだった。
待ち合わせ場所には阿部が既に居て、俺は阿部に声を掛けるとファミレスの店内に入った。
「いらっしゃいませ、何名様ですか?」
店員に声をかけられると阿部がすぐにこう答えた。
「あ、連れがもう先に入店しているんで大丈夫です。」
俺はその言葉に頭の片隅からある事を瞬時に思い出したと同時に、阿部にまんまとハメられたことに気付いた。
俺はその場から逃げ出そうとしたが阿部がすかさず手を物凄い力で掴んでいた。
阿部が俺を右手で掴みながら左手で手を振ると、こちらに気付いた女性二人がこちらに手を振っている。
悔しいがファミレスで男が取っ組み合いなどして、騒ぎを起こすわけにも行かないと思うと、もう逃げることはあきらめるしかなかった。
阿部はいつものあの不気味で気持ち悪い笑いをしながら、俺にこう言った。
「夏休みをエンジョイ出来るように良心で用意しました。」
どうしてこうなったのか、目の前にいる同い年の異性の前で考えていた。
別に彼女達には罪がないので、不快にならない様にはしないと思う部分で、阿部が俺の性格を理解して波風立てない立ち回りをするとわかっていることが腹が立った。
まさに掌で踊らされている訳で、周りに誰も居なかったら普通に平手で頭を叩いてやろうかと思っていた。
「じゃあ、自己紹介しますか、私は阿部 直人です。」
そう言うと、目の前の女性達が口々に「知ってる!」って突っ込みを入れた。
いつもだったら、表情筋どう動いているのかわからないが、口角があがり口から歯茎が見え、阿部の腹の底の黒い部分が滲み出て、人間とは思えない笑い方をしているが、これまでとは別人とも思えるような綺麗な笑顔で笑っていた。
しかし、見た目は阿部なので、変に綺麗な顔している阿部でしかない。
今の阿部は口元だけ見れば爽やかな好青年にしか見えないのは目の錯覚だろうか、そして俺は夢を見ていると思い太ももを抓ってみたがどうやら夢ではないようだ。
「人気者はつらいですねぇ、今日は私の同志と言うべき心の友が来てくれました。」
阿部は目の前の女性達に気付かれない様にテーブルの下で足を器用に動かし、俺の靴を軽く二回蹴った。
自己紹介をしろと言う事らしいが、全然考えていなかったのと変に間が空いてしまうと、芸能人のノリみたいのを強要されそうなので簡素的に終わらしてしまった方が良いと判断した。
「登藤 清です。宜しくお願いします。」
俺の冴えない自己紹介に何とも言えない場の空気になってしまった。
目の前からの女性達から放たれる冷ややかな目線で、何故か皮膚にチリチリ焼ける痛みを感じがしていた。
「彼はシャイボーイですが、意外と面白い良い奴です。女性陣も自己紹介お願いします。」
阿部がすぐさま、女性陣に自己紹介を振ると言う、強引に場の空気を変えると言う力技に俺はこの時だけは阿部に感謝した。
「ハイ、ハイ、私、大島 宇美。陸上部やっています。」
阿部の目の前に座っている、やたら元気がある自己紹介をした健康的な小麦肌にポニーテールの見た目からわかるスポーツ系女子が大島さんだった。
陸上をやっていることもあって見た目からスタイルが良いこともあり、阿部が言うにはかなり人気があると言うことだ。
「斑目 瞳です。宜しくね。」
俺の目の前に座っている、小柄でアッシュブラウンのショートボブに目尻が少し上がり気味で目が大きいので威圧感があるが、見た感じがネコを連想するような綺麗と可愛いが同居しているような女性が斑目さんだった。
彼女は見た目とは反してかなり気が強いタイプで、そのギャップから阿部が言うにはかなり人気があると言うことだ。
二人とも俺や阿部とも住む世界が違う、学校内のカースト制度の頂点にいるような女性陣に俺は萎縮していた。
それよりも阿部がこの二人と接点を持っていると言う事に、阿部の人間関係は俺の予想を宇宙に飛んでいくロケットの如く遥か斜め上を通り越して想像の範疇を超えていた。
そう思うと、俺じゃなくても阿部のコミニティがあれば彼女達が喜ぶような、イケメンや秀才を連れてくることも可能だっただろう。
何よりも目の前にいる女性陣のステータスが高すぎて、俺の目の前に太陽が二つ並んでいるぐらい眩しかった。
その場の空気は完全に阿部の独壇場だった。
阿部は、見た目は火星の裏側から来たような奴だが、口調も丁寧でありながらもユーモアのセンスが長けているので会話も盛り上がっていくが、それと比例するように俺の存在はどんどん薄くなるのだ。
言葉数も少なく”ああ”とか”そうだね”とか、相槌しか打てないのが原因だとわかっているが、居ても居なくても大差変わりないと言うならこのまま空気になってここから出ていきたいと思った。
「そうそう、渡すべきものを渡しておきますか。」
阿部は思い出したかのように急にA4クリアファイルを2つを取り出すと、二人に一つづつ渡した。
俺はそのクリアファイルを見た事があり、図書館で俺が書いた読書感想文を阿部がしまっていたクリアファイルだ。
どうやら二人は阿部の限りなく黒に近いグレーな手伝いの納品先で客先だったと言う事実を目の前にして、俺は複雑な気持ちになっていた。
しかし、それとは別に非の打ちどころがないような目の前の二人が、阿部や俺とたいして変わらないのでは、そんなことを無意識に感じてしまっていたのかもしれない。
何故か理由もわからないが、俺はその時から自然と会話の輪に入れるようになっていて、最初の萎縮していたのが噓のようだった。
その後は何も無かったように談笑して運ばれてきた料理を食べ終ると、阿部が考えていたプラン通りのボーリングをやる為に場所を移動した。
男女4人がそろったと言う事で、移動中に予想していた通り男女混合のチーム戦をやることになり、阿部と大島さん、俺と斑目さんのチーム分けになった。
こうして始まったボーリング対決は、両チームで投手を1フレーム毎に交代して投げるルールで、格差がない勝負と思っていた。
だが、阿部はこの勝負に勝てると言う自信があるのか、ある提案をしてきた。
「この勝負、負けたチーム側が勝ったチームにジュースを奢るなんてどうですか?」
阿部の絶対勝てると確信しているドヤ顔に腕を組んだ決めポーズが、斑目さんの何かスイッチを押したらしく阿部と斑目さんの独断で提案を受け入れることになった。
1フレーム目で阿部がスペアを取ると、2フレームで大島さんがストライクを取ると言う上々の滑り出しに対して、1フレームの斑目さんが9本、2フレームの俺がスペアを取って一歩遅れるような展開になった。
この後も7フレームまでに阿部・大島チームは1回づつ、ストライクを取っているのに対して、俺・斑目チームは俺がストライクを1回取っただけとなっていた。
斑目さんは勝負ごとには絶対勝ちたいらしく、上手くスコアが出せないことに苛々しているのか綺麗な顔に眉間に皺が寄っていて、どう声を掛ければいいか俺は頭を悩ませていた。
良く考えれば阿部と俺を比べた場合、同じくらいの運動神経とあると仮定したら、大島さんが斑目さんを比べた場合、確実に運動部所属の大島さんの方がスコアが高くなることに9フレーム目が終った時に気がついた。
結局、1ゲーム目はそのまま流れで阿部・大島チームの勝利で終って、またしても阿部のドヤ顔に腕を組んだ決めポーズを見ながら斑目さんとジュースを買いに行くことになった。
斑目さんは俺の後ろ2、3歩離れた距離を歩いていたが、この無言の何とも言えない雰囲気に頭が痛かった。
俺がもう少し人として出来てる人間であれば気の利いた言葉の一つや二つは出たと思うが、それが出来ない事にこうして苦しめられているのだ。
自動販売機前で注文されたジュースを買うと、斑目さんの分は俺が奢ることにした。
彼女に気の利いた言葉が掛けられないのは申し訳ないと思い、何か代わりになる事があればと思ったらこれぐらいしかなかった。
「好きなの買って良いよ、俺の奢りで。」
そう言って小銭を投入口で入れると、彼女は若干戸惑っていたが自販機のボタンを押した。
その後、自分の分を買うとそのまま阿部と大島さんのところへ戻る為、ジュースを抱えて歩き始めた。
その瞬間、後ろから上着を引っ張られて、俺は驚いた。
もちろん引っ張った相手は斑目さんだった。
「その、ジュースありがとう。」
俺はその一言に心臓を打つような衝撃が走った。
自販機前で普通に言ってくれれば、何ともなく普通に受け取れるが、少し予想していないタイミングで言われたので変に意識してしまった。
”科学的に”一目惚れ”とは、一目見た相手の外見から勝手にその人の内面までを、妄想して好感を抱くことで“一目惚れ”をします。”
不意に頭に阿部の言葉が過ったのは、心臓を打つような衝撃は今の状況で無意識で妄想して好感を抱いているだけなのかも知れない。
振り返ったら、スマホを片手で弄りながら鼻をほじって言っているかも知れないと想像しながらも、恥ずかしそうにモジモジしているかもしれないなんて想像している。
俺が振り返ることがなければ、シュレディンガーの猫のように俺の想像している二つの時間線が平行に存在しているのだ。
そんなことを考えていたら、斑目さんが話をはじめた。
「阿部とつるんでるから、阿部と同類のような人だと思ったけど案外、良い人なんだね。」
阿部のような宇宙人と同類と言われるのは心外であったが、お世辞でも良い人だと好評を貰えたのは嬉しかった。
正直、俺もどうして阿部とつるんでいるのか良くわかっていない。
「あいつは、まぁ、火星の裏側から来たような奴だけど、退屈なことはないな。あいつが言うには、俺はビジネスパートナーらしい。」
斑目さんは鼻で笑うと「何それ?」と聞いてきた。
「俺もわからん。」そう言いながら振り返ると斑目さんは上着から手を離した。
俺の想像している二つの時間線は結局二つとも存在していなかった。
そこには阿部のドヤ顔に腕を組んだ決めポーズの真似をした斑目さんがいた。
「こんな人を馬鹿にしたポーズで勝負しろって言われたらコテンパンにしてやりたいと思わない?」
容姿は似ても似つかないが、その真似は以外特徴をつかんでいて、俺は笑ってしまった。
俺がロッカー室でバイト先の制服を脱いでカバンに入れている時に、阿部がドアを開けて入ってくるなり俺の肩をポンと叩いた。
「明後日、午後って空いています?空いていたら遊びに行きません?」
阿部が遊びに誘われるのは初めてだったので、俺は内心ビックリした。。
考えてみれば阿部とは高校入ってから約3カ月、良くも悪くも色々あったがバイト後や学校の後、最近やっていた黒に限りなく近いグレーな手伝いの後で、ラーメン屋で飯を一緒に食べるだけであった。
逆に言えばこれまで阿部と純粋に遊びに行くと言う事がなかったことは、一般的な常識からではおかしいことかもしれないが、阿部が色んな交友関係を持っているので遊ぶ相手には困る事がなさそうなだと思っていたところもあり、更には俺も阿部とはこの何とも言えない距離感での関係が良いとも思っていた。
阿部が遊びに誘っていることに喉に魚の骨が刺さっているような違和感があり、これまでの無かったことが急に起こると不自然な感じと相手が阿部と思うと、脊椎反社で何か疑いたくなった。
「どうせお前の事だがら、また何か変なことを考えているんじゃないか?」
阿部はそれを聞くと右腕を目元に当てながら、テレビの芸人がやるような泣きマネをしだした。
「登藤は友達がいないから、どうせつまらない夏休みを過ごすと思って、私は少しでも高校の夏休みをエンジョイ出来るように良心で誘っているだけです。」
友達がいないは事実だが、阿部に心配されたくないし、阿部には良心と言うものを感じたことがない。
とは言え、夏休みの2週間ぐらいを阿部の手伝いで潰れてしまって、残りの予定も今のところ何もないので、内心はこのまま夏を満喫することなくバイト先と家を往復するだけの夏休みになりそうで、流石にどうかと思っていた。
阿部が何を考えているとか深くは考えずに、俺は誘いに応じても良いのではと浅はかな結論を出してしまっていた。
阿部の交友関係は良くわからないが、どうせ遊ぶ相手がいない日が出たので、何となく俺を誘っているとそう思った。
それに俺は別に断る理由も無かったので阿部と遊ぶ約束をした。
「まあ、別に暇だし、良いけど何するか考えてるのか?」
阿部は顎に手を当てながら少し考えていた。
俺はこの時に阿部が考えているので、無計画に遊ぶ約束を振ってきたと思っていて、完全に純粋に遊びに誘っていたと言う事を確認していた。
これが阿部の演技だと思うと本当に狡猾な奴だと思う。
「ボーリングなんてどうです?どうせなら昼飯も食べてから行きません?」
「ああ、そうするか。」
こうして阿部との遊ぶ約束をするのだが、俺は阿部があの何とも言えない不気味な笑みを浮かべていたことを見逃していた。
阿部との待ち合わせ場所は駅前のファミレスだった。
俺と阿部は毎回ラーメン屋で飯を食べるので、全身から皮膚が痒いような違和感を感じていたが、ボーリングが出来るようなアミューズメント施設は駅周辺しかないので当然と言えばそうだった。
待ち合わせ場所には阿部が既に居て、俺は阿部に声を掛けるとファミレスの店内に入った。
「いらっしゃいませ、何名様ですか?」
店員に声をかけられると阿部がすぐにこう答えた。
「あ、連れがもう先に入店しているんで大丈夫です。」
俺はその言葉に頭の片隅からある事を瞬時に思い出したと同時に、阿部にまんまとハメられたことに気付いた。
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阿部が俺を右手で掴みながら左手で手を振ると、こちらに気付いた女性二人がこちらに手を振っている。
悔しいがファミレスで男が取っ組み合いなどして、騒ぎを起こすわけにも行かないと思うと、もう逃げることはあきらめるしかなかった。
阿部はいつものあの不気味で気持ち悪い笑いをしながら、俺にこう言った。
「夏休みをエンジョイ出来るように良心で用意しました。」
どうしてこうなったのか、目の前にいる同い年の異性の前で考えていた。
別に彼女達には罪がないので、不快にならない様にはしないと思う部分で、阿部が俺の性格を理解して波風立てない立ち回りをするとわかっていることが腹が立った。
まさに掌で踊らされている訳で、周りに誰も居なかったら普通に平手で頭を叩いてやろうかと思っていた。
「じゃあ、自己紹介しますか、私は阿部 直人です。」
そう言うと、目の前の女性達が口々に「知ってる!」って突っ込みを入れた。
いつもだったら、表情筋どう動いているのかわからないが、口角があがり口から歯茎が見え、阿部の腹の底の黒い部分が滲み出て、人間とは思えない笑い方をしているが、これまでとは別人とも思えるような綺麗な笑顔で笑っていた。
しかし、見た目は阿部なので、変に綺麗な顔している阿部でしかない。
今の阿部は口元だけ見れば爽やかな好青年にしか見えないのは目の錯覚だろうか、そして俺は夢を見ていると思い太ももを抓ってみたがどうやら夢ではないようだ。
「人気者はつらいですねぇ、今日は私の同志と言うべき心の友が来てくれました。」
阿部は目の前の女性達に気付かれない様にテーブルの下で足を器用に動かし、俺の靴を軽く二回蹴った。
自己紹介をしろと言う事らしいが、全然考えていなかったのと変に間が空いてしまうと、芸能人のノリみたいのを強要されそうなので簡素的に終わらしてしまった方が良いと判断した。
「登藤 清です。宜しくお願いします。」
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阿部がすぐさま、女性陣に自己紹介を振ると言う、強引に場の空気を変えると言う力技に俺はこの時だけは阿部に感謝した。
「ハイ、ハイ、私、大島 宇美。陸上部やっています。」
阿部の目の前に座っている、やたら元気がある自己紹介をした健康的な小麦肌にポニーテールの見た目からわかるスポーツ系女子が大島さんだった。
陸上をやっていることもあって見た目からスタイルが良いこともあり、阿部が言うにはかなり人気があると言うことだ。
「斑目 瞳です。宜しくね。」
俺の目の前に座っている、小柄でアッシュブラウンのショートボブに目尻が少し上がり気味で目が大きいので威圧感があるが、見た感じがネコを連想するような綺麗と可愛いが同居しているような女性が斑目さんだった。
彼女は見た目とは反してかなり気が強いタイプで、そのギャップから阿部が言うにはかなり人気があると言うことだ。
二人とも俺や阿部とも住む世界が違う、学校内のカースト制度の頂点にいるような女性陣に俺は萎縮していた。
それよりも阿部がこの二人と接点を持っていると言う事に、阿部の人間関係は俺の予想を宇宙に飛んでいくロケットの如く遥か斜め上を通り越して想像の範疇を超えていた。
そう思うと、俺じゃなくても阿部のコミニティがあれば彼女達が喜ぶような、イケメンや秀才を連れてくることも可能だっただろう。
何よりも目の前にいる女性陣のステータスが高すぎて、俺の目の前に太陽が二つ並んでいるぐらい眩しかった。
その場の空気は完全に阿部の独壇場だった。
阿部は、見た目は火星の裏側から来たような奴だが、口調も丁寧でありながらもユーモアのセンスが長けているので会話も盛り上がっていくが、それと比例するように俺の存在はどんどん薄くなるのだ。
言葉数も少なく”ああ”とか”そうだね”とか、相槌しか打てないのが原因だとわかっているが、居ても居なくても大差変わりないと言うならこのまま空気になってここから出ていきたいと思った。
「そうそう、渡すべきものを渡しておきますか。」
阿部は思い出したかのように急にA4クリアファイルを2つを取り出すと、二人に一つづつ渡した。
俺はそのクリアファイルを見た事があり、図書館で俺が書いた読書感想文を阿部がしまっていたクリアファイルだ。
どうやら二人は阿部の限りなく黒に近いグレーな手伝いの納品先で客先だったと言う事実を目の前にして、俺は複雑な気持ちになっていた。
しかし、それとは別に非の打ちどころがないような目の前の二人が、阿部や俺とたいして変わらないのでは、そんなことを無意識に感じてしまっていたのかもしれない。
何故か理由もわからないが、俺はその時から自然と会話の輪に入れるようになっていて、最初の萎縮していたのが噓のようだった。
その後は何も無かったように談笑して運ばれてきた料理を食べ終ると、阿部が考えていたプラン通りのボーリングをやる為に場所を移動した。
男女4人がそろったと言う事で、移動中に予想していた通り男女混合のチーム戦をやることになり、阿部と大島さん、俺と斑目さんのチーム分けになった。
こうして始まったボーリング対決は、両チームで投手を1フレーム毎に交代して投げるルールで、格差がない勝負と思っていた。
だが、阿部はこの勝負に勝てると言う自信があるのか、ある提案をしてきた。
「この勝負、負けたチーム側が勝ったチームにジュースを奢るなんてどうですか?」
阿部の絶対勝てると確信しているドヤ顔に腕を組んだ決めポーズが、斑目さんの何かスイッチを押したらしく阿部と斑目さんの独断で提案を受け入れることになった。
1フレーム目で阿部がスペアを取ると、2フレームで大島さんがストライクを取ると言う上々の滑り出しに対して、1フレームの斑目さんが9本、2フレームの俺がスペアを取って一歩遅れるような展開になった。
この後も7フレームまでに阿部・大島チームは1回づつ、ストライクを取っているのに対して、俺・斑目チームは俺がストライクを1回取っただけとなっていた。
斑目さんは勝負ごとには絶対勝ちたいらしく、上手くスコアが出せないことに苛々しているのか綺麗な顔に眉間に皺が寄っていて、どう声を掛ければいいか俺は頭を悩ませていた。
良く考えれば阿部と俺を比べた場合、同じくらいの運動神経とあると仮定したら、大島さんが斑目さんを比べた場合、確実に運動部所属の大島さんの方がスコアが高くなることに9フレーム目が終った時に気がついた。
結局、1ゲーム目はそのまま流れで阿部・大島チームの勝利で終って、またしても阿部のドヤ顔に腕を組んだ決めポーズを見ながら斑目さんとジュースを買いに行くことになった。
斑目さんは俺の後ろ2、3歩離れた距離を歩いていたが、この無言の何とも言えない雰囲気に頭が痛かった。
俺がもう少し人として出来てる人間であれば気の利いた言葉の一つや二つは出たと思うが、それが出来ない事にこうして苦しめられているのだ。
自動販売機前で注文されたジュースを買うと、斑目さんの分は俺が奢ることにした。
彼女に気の利いた言葉が掛けられないのは申し訳ないと思い、何か代わりになる事があればと思ったらこれぐらいしかなかった。
「好きなの買って良いよ、俺の奢りで。」
そう言って小銭を投入口で入れると、彼女は若干戸惑っていたが自販機のボタンを押した。
その後、自分の分を買うとそのまま阿部と大島さんのところへ戻る為、ジュースを抱えて歩き始めた。
その瞬間、後ろから上着を引っ張られて、俺は驚いた。
もちろん引っ張った相手は斑目さんだった。
「その、ジュースありがとう。」
俺はその一言に心臓を打つような衝撃が走った。
自販機前で普通に言ってくれれば、何ともなく普通に受け取れるが、少し予想していないタイミングで言われたので変に意識してしまった。
”科学的に”一目惚れ”とは、一目見た相手の外見から勝手にその人の内面までを、妄想して好感を抱くことで“一目惚れ”をします。”
不意に頭に阿部の言葉が過ったのは、心臓を打つような衝撃は今の状況で無意識で妄想して好感を抱いているだけなのかも知れない。
振り返ったら、スマホを片手で弄りながら鼻をほじって言っているかも知れないと想像しながらも、恥ずかしそうにモジモジしているかもしれないなんて想像している。
俺が振り返ることがなければ、シュレディンガーの猫のように俺の想像している二つの時間線が平行に存在しているのだ。
そんなことを考えていたら、斑目さんが話をはじめた。
「阿部とつるんでるから、阿部と同類のような人だと思ったけど案外、良い人なんだね。」
阿部のような宇宙人と同類と言われるのは心外であったが、お世辞でも良い人だと好評を貰えたのは嬉しかった。
正直、俺もどうして阿部とつるんでいるのか良くわかっていない。
「あいつは、まぁ、火星の裏側から来たような奴だけど、退屈なことはないな。あいつが言うには、俺はビジネスパートナーらしい。」
斑目さんは鼻で笑うと「何それ?」と聞いてきた。
「俺もわからん。」そう言いながら振り返ると斑目さんは上着から手を離した。
俺の想像している二つの時間線は結局二つとも存在していなかった。
そこには阿部のドヤ顔に腕を組んだ決めポーズの真似をした斑目さんがいた。
「こんな人を馬鹿にしたポーズで勝負しろって言われたらコテンパンにしてやりたいと思わない?」
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