上 下
9 / 36

旅館

しおりを挟む
旅行で遊びに来た旅館でのんびり酒を飲んでた時、窓ガラスががたんと揺れた。


「えっ、なんだ?」と驚いて窓の外を見ると、何も異変はなかった。ただの風のせいかもしれないと思いながら、再び酒を飲み始めた。
元々だいぶ安いプランだったし、建物自体古いのかもしれない。

しかし、しばらくしてまた窓ガラスががたんと揺れた。今度は確かに風ではないと感じた。誰かが叩いたような音だ。猿でもいるのかと不審に思い、旅館のスタッフに問い合わせてみよう。

お酒を買いにフロントに向かったついでに聞いてみることにする。

「すみません、窓の揺れが何度かありましたが、問題はないですか?」と尋ねると、スタッフは驚いたような表情を浮かべた。

「あ、えっと、実はお客様のお部屋はよくそういったお声があって……良ければお部屋交換しますか?」とスタッフが小声で教えてくれた。

「ああ、別にそこまでじゃないんですけど、そんな良く言われるんですか?」

「はい、実際に泊まられたお客様からのご報告が結構あります。窓の揺れもその一つなんです。おそらく、霊的なものなのかなと……」

「ああ、そうなんですね」

正直な話、霊なんて信じる方ではない。ただの噂に過ぎないと思っていたが、窓の揺れが怪しく感じたので、何かしらの調査をしてみようと思った。
スタッフさんの言い方もなんだか気になるし。

夜も深まり、一人旅館の廊下を歩いていると、急に足元が重くなったような感覚があった。ドロリとした見えない粘液に包まれたような感覚に足を止めると、廊下の向こう側から何かが聞こえてきた。

コツコツ…コツコツ…

その音は、何かが廊下を歩いているような音だった。革靴のような足音が近づいてくるにつれて、どんどん恐怖が膨らんでいく。

声を出すことができず、じっと立ち尽くすしかなかった。

そして、足音が私の前に近づいてきた瞬間、顔を上げる勇気もなく、恐怖で凍りついてしまった。

視界の端に入ってきたのは人間のような影だった。茶色の革靴を履いたスーツの足。なにか声をかけてくる訳でも無く、目の前で足を止めた。

叫びたいのに声が出ない。何かしないとマズイ、でも恐怖で上手く体が動かない。

革靴が1歩、近づいてくる。人が近づいてくる感覚は無い。このままこれとぶつかるのは。本能的にまずい。

もう一歩、革靴が近ずいてきたとき、何も無かったようにスーツの足が霧散した。

呆然と立ち尽くしていると、スタッフが駆け寄ってきて「お客様!?大丈夫ですか!?」と声をかけてくれた。


「あ、あの…何だったんですか?」

スタッフは少し困ったような表情を浮かべて答えた。

「実は、この旅館には幽霊が出るという噂があるんです。でも、今まで実際に幽霊を見たという証言はないんですよ。何かがあるのかもしれませんが、はっきりとしたことはわかりません」

私は深く考え込んだ。この旅館には何かが存在しているのかもしれない。ただの噂では済まされない恐怖が、私の中に広がっていった。

結局、その夜、部屋に戻ったあとも何度か窓ガラスが揺れる現象が続いた。そのたびに私は震えながら、何かに追われるような恐怖に襲われた。

けれど、それ以上のことは何も無かったんだ。

そして、旅館を後にするとき、私はふと思った。もしもあの旅館に実際に幽霊がいたとしたら、それは一体何者なのか。そして、なぜ私へ近づくような行動をするのだろうか。

いまだに解明されていない謎に、私は興味を抱きながらも、後味の悪さを感じながら旅館を去ったのであった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

追っかけ

山吹
ホラー
小説を書いてみよう!という流れになって友達にどんなジャンルにしたらいいか聞いたらホラーがいいと言われたので生まれた作品です。ご愛読ありがとうございました。先生の次回作にご期待ください。

401号室

ツヨシ
ホラー
その部屋は人が死ぬ

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

【短編】怖い話のけいじばん【体験談】

松本うみ(意味怖ちゃん)
ホラー
1分で読める、様々な怖い体験談が書き込まれていく掲示板です。全て1話で完結するように書き込むので、どこから読み始めても大丈夫。 スキマ時間にも読める、シンプルなプチホラーとしてどうぞ。

サクッと読める♪短めの意味がわかると怖い話

レオン
ホラー
サクッとお手軽に読めちゃう意味がわかると怖い話集です! 前作オリジナル!(な、はず!) 思い付いたらどんどん更新します!

無名の電話

愛原有子
ホラー
このお話は意味がわかると怖い話です。

【怖い話】さしかけ怪談

色白ゆうじろう
ホラー
短い怪談です。 「すぐそばにある怪異」をお楽しみください。 私が見聞きした怪談や、創作怪談をご紹介します。

ジャングルジム【意味が分かると怖い話】

怖狩村
ホラー
僕がまだ幼稚園の年少だった頃、同級生で仲良しだったOくんとよく遊んでいた。 僕の家は比較的に裕福で、Oくんの家は貧しそうで、 よく僕のおもちゃを欲しがることがあった。 そんなある日Oくんと幼稚園のジャングルジムで遊んでいた。 一番上までいくと結構な高さで、景色を眺めながら話をしていると、 ちょうど天気も良く温かかったせいか 僕は少しうとうとしてしまった。 近くで「オキロ・・」という声がしたような、、 その時「ドスン」という音が下からした。 見るとO君が下に落ちていて、 腕を押さえながら泣いていた。 O君は先生に、「あいつが押したから落ちた」と言ったらしい。 幸い普段から真面目だった僕のいうことを信じてもらえたが、 いまだにO君がなぜ落ちたのか なぜ僕のせいにしたのか、、 まったく分からない。 解説ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 近くで「オキロ」と言われたとあるが、本当は「オチロ」だったのでは? O君は僕を押そうとしてバランスを崩して落ちたのではないか、、、

処理中です...