『ショート怪談』訪れるもの

不審者

夜中の2時、私は一人で寝室で本を読んでいた。最近発売された恋愛小説で結構面白い。ついつい続きが気になってずっと読んでしまったんだ。
すると突然、インターホンが鳴った。こんな夜中に誰だろうと思ってモニターを見たら、見知らぬ男が立っていた。たぶん、男だ。
彼は黒いスーツを着て、黒い帽子をとかぶっていた。彼はカメラに向かって笑っていた。笑っているんだと思う。口角が上がっているが、その笑顔は不気味で、目が死んでいるように見えた。

私はインターホンに応答しなかった。彼はしばらく待ってから、またインターホンを押した。無視した。彼は何度も何度もインターホンを押し続けた。

「完全にやべーやつじゃん」
私は怖くなって、電話で警察に通報しようとしたが、圏外の表示。インターネットもつながらない。
意味の分からない状況に恐怖が爆発的に膨れ上がってくる。

彼はとうとうインターホンを押すのをやめた。これで帰ると思った時、最悪のタイミングで他の住人がオートロックの扉を開けて出ていった。ニコニコとした顔を張り付けた男は、するりとマンションの中に入っていく。

鍵をかけたか不安になり、急いで扉を見に行った。

かぎはかかっていた。安堵したのもつかの間、玄関前のインターホンが押された。
ドアの向こうから、彼の声が聞こえた。

「開けてください。お話があります」

恐ろしくなった私は寝室へ戻って、寝室の鍵も閉めた。
私は身を縮めながら、スマホを再度開いてみる。圏外の表示、インターネットへも繋がらない。

「開けてください。お話があります」
彼の声は不気味で、私の背筋を凍りつかせた。
繰り返されるその声は、壊れた機械のように冷たく響いた。

「開けてください。お話があります」


私は彼と何の関わりもないはずなのに、どうして私の家に来たのか。
彼の存在自体が私にとって脅威であり、畏怖の対象だった。
一体何を話そうとしているのか、そしてなぜ私を選んだのか。疑問が頭をよぎりながら、私は身を固くして彼の声を聞き続けた。

ガチャリと、嫌な音が聞こえた気がした。

「開けてください。お話があります」

再び彼の声が響いた。その声はますます近づいているように感じられ、私の心臓は痛いほどに強さを増していった。
そんなはずはない。開くはずがない。だって、ここのカギはスペアが作れないと言っていたじゃないか。


私は布団にくるまり脅えながら、彼の足音が次第に近づいていくのを感じた。

コツコツと、靴音が響いてくる。

そして、ついに彼は寝室のドアの前まで辿り着いた。私は息を潜め、彼の次の行動を警戒した。すると、彼は静かにドアを叩いた。

「開けてください。お話があります」

再びその冷たい声が私の耳に響く。

私は彼の要求に屈することはないと決意し、何も答えずにいた。しかし、彼は諦めることなく、何度も何度もドアを叩いてくる。その音は、まるで私の心臓を打ち抜くように響いた。

私はもう耐えられなくなり、彼に向かって叫び散らす。

「どうして私なの！何が欲しいの！？」

すると、彼の声が変わった。

「君の魂をいただきたい。だから、開けてください」

モニターに映ったあの顔が頭をよぎる。

私は恐怖のあまり、声を失ってしまった。彼の真意がわからず、ただただ彼の行動に振り回されるしかない。そして、彼は再びドアを叩き始めた。その音は、私の心を打ち砕くように響いた。

ドアノブが回る音、扉のきしむ音、フローリングを革靴が歩く音。
布団の隙間からのぞいた彼の笑顔はますます不気味さを増し、私の恐怖は頂点に達した。
彼は悦に入りながら、私の前に立ち、言った。

「さあ、準備はできているかい？」

私は絶望の中で叫び続けたが、彼の存在は私を包み込み、私の意識を奪っていった。そして、私の最後の記憶は、彼の冷たい手が私の体に触れる感覚だった。