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デアイ

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 彼は出会い系で知り合った女性とデートすることにした。
 プロフィール写真を見て、凄い美人だと思ったからだ。
 しかし、待ち合わせ場所に行ったが、彼女は現れなかった。
「あれ、日付も場所も間違えたりしてないよな?」

 LINE通話したが、一向に繋がらない。

「今どちらにいますか、と」
 メッセージを送ったが、30分待っても既読すらなかった。

「うわあ、釣りだったのかよ、まじかァ。。」

 彼は諦めて狭いワンルームの家に帰ることにした。

 帰宅し、ドアを開けようと、手を伸ばすと一枚の紙がドアに貼ってあった。彼は不審に思いながらも、顔を近づけた。

「私はあなたの家に来ました。でも、あなたがいませんでした。残念です」

 背筋に寒いものを感じた。連絡の途中で送ってもらった彼女の字そのままなのだ。

 彼女は本当に家に来たのか?
 そもそもなんで家がわかったのだ?
 なぜ彼女は待ち合わせ場所に現れずに家に来た?
 彼は疑問を抱きながらも、ドアを開けた。

 そこには彼の写真を持った女性が立っていた。プロフィール通りの美しい彼女。
 全て飲み込みそうなほど黒い瞳が、真っ直ぐに彼を見つめていて、何かを伝えようとしているようだった。
 彼女が手に写真を持っていることに気づき、驚きと恐怖が入り混じった感情が胸に広がった。彼がで彼女に送った写真を現像していたのだ。

 彼女は彼の写真を握りしめながらいった。
「あなたを愛しています」

「な、何を言っているんだ?」

 彼は言葉にならない感情に押し潰されそうになりながらも、彼女の目を見つめた。

 彼女は微笑みながら、彼に近づいてきた。彼は恐怖で身体が硬直し、逃げ出したいという願望が湧き上がる。しかし、体は思うように動かない。金縛りにでもあっているようだった。
 目の前で立ち止まり、感情の読み取れない顔で見つめてくる。
 そして、ゆっくりと手を伸ばし、彼の頬に触れると、微かに囁いた。
「私はずっと見ていたの。あなたがいなかったから、私はあなたを探しに来たの」

 彼女の言葉が理解できない。

「なんで、俺の家がわかったんだ?待ち合わせ場所に来なかったのはなんで」

 彼の声は震えていた。意味のわからない状況に、感覚が麻痺してきている。

 彼女は微笑みながら、彼の手を握りしめた。「あなたの写真、私はずっと見ていたの。私たちの出会いは運命だったの。あなたを愛しています」と言い、彼の手を強く握りしめる。

「私はずっと見ていたの。あなたが私を見てくれているのを。ずっと、ずっと見ていたの。素敵な横顔、愛らしい瞳、美しい唇。全部、全部愛しているの。だから、私は愛しているのよ?あなたが私に向ける劣情も、全て愛しているの」

 瞬きすらせず、たんたんとした口調で彼女は愛を伝え続けている。

 彼は呆然と立ち尽くし、彼はまだ何も理解できていないままで、彼女の言葉が頭の中で反響していく。

「だからね、またあした。あなたを見ていようと思うの。だからね、これからずっとあいしているから。ずっと、ずっと、いるから。またあした」

 手を離した彼女は、玄関の靴箱からハイヒールを取りだし、ゆっくりと家を出ていく。

 彼女の愛の真意やその行動の意図は一切分からない。
 彼は彼女の思いを理解できないまま、混乱し、恐怖に包まれたまま、彼は立ちつくしていた。
     
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