癒やしを求めて生きてきただけなのだが

見崎志念

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どうやら異世界らしい

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「ご主人! も少し先からいっぱい匂いある。似た匂いがたくさんあるからたぶん同じのがいっぱいいる」
「てことは集落かなんかか。人間だったらいいなぁ……」
 踏み固められただけの道を、さっき拾った植物をもしゃりつつ、カーレッジに案内されながら二十分ほど歩いたあたりで、ようやく建物のようなものを見つけることができた。
 二十分の間で俺の考えは、『道に迷った』から『一切知らない場所にいる』にシフトしている。

 そりゃそうだよ。
 途中で生えてる植物は図鑑でさえ見たことないやつらが多種多様にいた。
 歩いている途中で見つけた動物の足跡は平行に二つずつ、つついていた。
 極め付きは俺とほとんど同じくらいのでかさの蜘蛛が巣を張っていた。

 少なくとも日本ではない。地球上にあんな大きさの蜘蛛がいるなんて聞いたことがない。
 つーかいてたまるか!

 ということはですよ。ぶっ飛んだ話ですけど異世界にいるっぽいですね。

「はぁ。気が重いよ……」
 そりゃまあ俺だってご多分に漏れず、異世界へ転生してスライムとかゴブリンの最弱モンスターから最強チート大魔王とか神様になるとか、超積極的に自分を好きになってくれる女の子たちに囲まれたうはうはハーレムな生活をする物語が大好きですよ。読んでおりましたよ。
 
 でもそれは物語だから、あるいは妄想だから楽しめるものであって、本当に体験できる環境に置かれても、困る。
 俺はそんな世界に行くよりもカーレッジと死ぬまでのんびりできればそれでいい。
 もふもふに癒されながら少しだけ仕事して自分の趣味を満喫するような人生でいい。
 欲を言えば癒しに囲まれるだけの一生を終えたい。

 正直な話、すごく帰りたい。

「ご主人、行かないの?」
「ん? ああ、行くよ。行かなきゃどーしようもないからね」
 そもそも人間だったとしても、盗賊のアジトとか闇宗教とかでよそ者お断りって可能性もあるんだし、危険がないわけじゃない。異世界だったら余計価値観も違うだろう。
 かと言ってここで俺がびびって足踏みしたら、カーレッジが路頭に迷ってしまう。こいつにしっかりした飯を食わせてやりたいから俺は頑張るんです。
 


 というわけで、集落へ足を踏み入れてみた。

 一応建物があるので知能の低い生き物の住みかじゃなさそうだ。
 農作業を行っている形跡がないので狩猟民族だろうか。あるいは見えないところで作物を育てているみたいなのもあり得るか。 
 わかりやすく武器やら農作業用の道具を置いてたりしないから、どっちも確信は持てないけれど。

 目につくのは家の作りの雑さだ。拾ってきただろう加工されていない木を蔦かなにかで絡めて家の形にしているだけ。雨風をしのぐにしても、今ならインターネット使えばもう少しまともな作り方調べられるだろうな。
 文明レベルは縄文とか弥生とかそんなところと変わらんのかな? 
 むしろ竪穴住居よりも器用さレベルは低い気がするからそれ以下か。
 それに家のサイズもまばらなのは何なんだろうか。明らかに入り口のサイズが違う家がごっちゃに建てられてんだよな。しいて言えば子供用と大人用って感じだけど、住み分けでもされてるんかね。

 
「ご主人! なにかそこに隠れてる!!」
「なんと!? どこ!?」
「あの家!」
 数メートル先にある建物を目線で教えてくれた。
 隠れているってことは、こちらを警戒しているのか、あるいは獲物として見られているのか。
 後者だった場合対抗できるほど俺強くないんで俺ら終わりなんだけど。

「危なそうなやつか?」
「わかんない。でも何も持ってないと思う。そいつの匂いしかしない」
「戦闘民族でもない限りは安心ってことかね」

 とりあえずは声かけてみるか。

「おーい、なんでそんな所に隠れてんだー? 襲ったりしないから出てこいよ」

 我ながらどうかなと思う誘い文句だ。カーレッジがなんかすごく心配そうな顔をしているが今は置いておこう。
 そしてびっくりすることに、俺の大胆な誘い文句にそいつはしっかりと反応して俺の前に姿を現した。

「お、お前ら、な、何者だ!」

 第1村人発見! お相手は緑色の体色に尖った耳、ぷっくりと膨れたお腹に細い手足が特徴的なゴブリンさんでした。
  
 いや、まじか。
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