2 / 3
犯人はふてぶてしくも手を差し出す
しおりを挟む
「嫌ですけど?」
にこやかに手を差し出してくる春風愛依に、俺はなるべくしっかりと意思が伝わるようにしっかり嫌そうな顔で返答した。
右手を差し出しながらキョトンとした顔で俺を見下ろしている春風に、俺は続ける。
「そもそも俺と春風とじゃ、考え方が違いすぎるだろ」
俺は春風が学園で何をしようとしてるのか知っている。そしてそれは俺が最も嫌いなことで、俺が最も関わりたくない立ち位置だ。
誰だって、自分と真逆の考え方に協力なんて出来ないだろ。
差し出していた手を下し、静かな目で俺を見続けている春風愛依。
一生徒が空き教室を無断で使う横暴が許されてるのは、我らが学園の理事長の娘だからってだけじゃない。まして生徒会副会長の肩書があるからでもない。
理由は単純。春風の突飛な行動が当たり前すぎて誰も止めなくなったんだ。触らぬ神に祟りなしってやつ。
目立たない学園生活のために一番関わってはいけない女。それが春風愛依。
見た目が整っているせいで余計目立つからなこいつ。道を歩けばスカウトに声を掛けられているらしいし、俺も何度かその場面に遭遇している。その見た目と物おじしない性格が相まってか、崇拝者は多い。
そんな動かなければただの美少女に無言で見つめられているこの状況。羨ましいって? ならぜひ変わってほしいもんだ。これ以上ここにいても俺の生活が荒らされるだけだし、早く帰りたい。
というか縛り方が雑なのかうますぎたのか、だんだん腕の感覚なくなってきた。見えてないけど多分うっ血してるよこれ。
R指定入る色になる前にぜひとも早く外していただきたい。
「ちょい待ち! てことは何? お嬢の誘い断るってこと?」
椅子の背もたれに胸からもたれかかっていた現行犯から待ったがかかった。
「……そう言ったつもりなんだけど」
「いやいやー、それはちょっとさぁ? お嬢じきじきのお誘いよ?
その尊さ分かってる? え、分かっててやってるんだとしたら、そうとうやべぇぞ?」
現行犯、もとい里中桜がゆっくりと立ち上がり近づいてくる。
里中桜はいわゆるカッコイイ系女子ってのが大半の評価だけど、こいつただの春風愛依の追っかけだ。ありていに言えば重度の崇拝者。
運動神経が良すぎてすべての運動部から勧誘受けてるらしいが、春風に呼び出された時にすぐ動けるようにって理由でどこにも所属はせず助っ人で突き通しているような重症者だ。
ちなみに身長が大きい。185だから細身の割に存在感があるんだよな。しかもここまで俺を担いでくるほどのパワーがあるのは確定してるので、そんな仕留める気満々の顔をせず是非その場で立ち止まってほしい。
というかこれまじでやばいな。あいつボクシング部の助っ人の時全国出場した上級生負かしてるし、このまま殴られると非常に痛いことになる。あごに綺麗に入ると天国に行く気持ちよさらしいけど、そういうのは求めてないし。
痛いのはすでに腕で限界なんで、いい感じに仲裁入ってくれると助かるんだけど。
「里中さん、ストップ。あざが残ると言い訳が大変だから」
よし、カットイン入った。理由が流石すぎる点は置いておこう。
腕組みをしながら淡々とした口調で里中を止めた赤ふち眼鏡の女子は風紀委員長の不破綴。
2年8組のクラス委員長も兼ねている、いわゆる真面目な委員長。そんな優しい肩書で収まるならどれだけよかったか。
委員会活動の中で罰則や指導も担当しているが、明治の警察みたいなやりすぎ対応している話しか聞かないんだよ。
一例としてあげるなら、タバコ持ち込んだやつがいた時、箱ごと口にくわえさせて、外れないようガムテープで止めて、そのまま校庭に一日中縛られてた。
良い悪いに関わらず、不破の価値観にそぐわないと命の危険があるので絡まれないようにしていたんだけどな。
ちなみにオッパイガオオキイ。腕組みも胸の前じゃなくて下で組んでる。重そうだね。
「えー、なんで? わかんない奴なら体に教えるしかないじゃん」
「それは全面的に同意だけど、今回だけは愛依ちゃんの意見を聞いてからよ」
まじでか。鶴の一声で俺の死が確定するのか。
物騒な話をしてる二人からの視線を受け止めた元凶は、満足げに笑っていた。
「うん。……うん、そうよね。それぐらい信念あるからこそあなたはそうなったのよね!
やっぱり私の見立ては間違ってなかったわ」
笑顔で胸を張る春風。あれ、俺手伝うってことで脳内まとまってます?
しっかりお断り入れましたよね?
どこぞの耳と御異形主人公でももう少しまともに話してたと思うぞ。
「サクラちゃんもフワちゃんも、折れちゃったら困るから暴力は禁止。
それに、秋山くんは必ず手伝ってくれるから。大丈夫」
何を根拠に言ってんだ。
あやうく口から出そうになるが、里中の射程圏内なので黙っておく。目線だけで殺せそうな勢いなんだけど里中さん。
ニコニコと満足げな春風は、手をパンと叩いて俺から離れた。
「さ、この後依頼人が来るんだから! 流石に見た目があれだし、サクラちゃん、腕の縄解いてあげて」
「承知しました!!」
「フワちゃんはお湯沸かしてくれる? コーヒー出してあげたいし」
「ブルーマウンテンでいいわよね?」
「よろしくー。あ、サクラちゃんは終わったらメモ用紙と筆記用具準備してねー。
それでも手が空いてたらケーキの用意もよろしく!」
「承知しました!!」
何やら指示を飛ばしながら机の書類を整理しだしている。
今の会話でわかったのは、高校生をふんじばって椅子に括り付けているのは、流石に一般的にダメだと春風も常識的にわかっているということくらいなんだが。
「というわけなのでよろしく!」
「なにが??」
すべて伝えましたと言わんばかりの澄んだ笑顔で、よろしくって言われましてもね。
「だって、最初の依頼よ? 気合い入れて対応するもんでしょ?」
それはいいんだけど、勝手にやってくれない? なんで俺を巻き込むの?
にこやかに手を差し出してくる春風愛依に、俺はなるべくしっかりと意思が伝わるようにしっかり嫌そうな顔で返答した。
右手を差し出しながらキョトンとした顔で俺を見下ろしている春風に、俺は続ける。
「そもそも俺と春風とじゃ、考え方が違いすぎるだろ」
俺は春風が学園で何をしようとしてるのか知っている。そしてそれは俺が最も嫌いなことで、俺が最も関わりたくない立ち位置だ。
誰だって、自分と真逆の考え方に協力なんて出来ないだろ。
差し出していた手を下し、静かな目で俺を見続けている春風愛依。
一生徒が空き教室を無断で使う横暴が許されてるのは、我らが学園の理事長の娘だからってだけじゃない。まして生徒会副会長の肩書があるからでもない。
理由は単純。春風の突飛な行動が当たり前すぎて誰も止めなくなったんだ。触らぬ神に祟りなしってやつ。
目立たない学園生活のために一番関わってはいけない女。それが春風愛依。
見た目が整っているせいで余計目立つからなこいつ。道を歩けばスカウトに声を掛けられているらしいし、俺も何度かその場面に遭遇している。その見た目と物おじしない性格が相まってか、崇拝者は多い。
そんな動かなければただの美少女に無言で見つめられているこの状況。羨ましいって? ならぜひ変わってほしいもんだ。これ以上ここにいても俺の生活が荒らされるだけだし、早く帰りたい。
というか縛り方が雑なのかうますぎたのか、だんだん腕の感覚なくなってきた。見えてないけど多分うっ血してるよこれ。
R指定入る色になる前にぜひとも早く外していただきたい。
「ちょい待ち! てことは何? お嬢の誘い断るってこと?」
椅子の背もたれに胸からもたれかかっていた現行犯から待ったがかかった。
「……そう言ったつもりなんだけど」
「いやいやー、それはちょっとさぁ? お嬢じきじきのお誘いよ?
その尊さ分かってる? え、分かっててやってるんだとしたら、そうとうやべぇぞ?」
現行犯、もとい里中桜がゆっくりと立ち上がり近づいてくる。
里中桜はいわゆるカッコイイ系女子ってのが大半の評価だけど、こいつただの春風愛依の追っかけだ。ありていに言えば重度の崇拝者。
運動神経が良すぎてすべての運動部から勧誘受けてるらしいが、春風に呼び出された時にすぐ動けるようにって理由でどこにも所属はせず助っ人で突き通しているような重症者だ。
ちなみに身長が大きい。185だから細身の割に存在感があるんだよな。しかもここまで俺を担いでくるほどのパワーがあるのは確定してるので、そんな仕留める気満々の顔をせず是非その場で立ち止まってほしい。
というかこれまじでやばいな。あいつボクシング部の助っ人の時全国出場した上級生負かしてるし、このまま殴られると非常に痛いことになる。あごに綺麗に入ると天国に行く気持ちよさらしいけど、そういうのは求めてないし。
痛いのはすでに腕で限界なんで、いい感じに仲裁入ってくれると助かるんだけど。
「里中さん、ストップ。あざが残ると言い訳が大変だから」
よし、カットイン入った。理由が流石すぎる点は置いておこう。
腕組みをしながら淡々とした口調で里中を止めた赤ふち眼鏡の女子は風紀委員長の不破綴。
2年8組のクラス委員長も兼ねている、いわゆる真面目な委員長。そんな優しい肩書で収まるならどれだけよかったか。
委員会活動の中で罰則や指導も担当しているが、明治の警察みたいなやりすぎ対応している話しか聞かないんだよ。
一例としてあげるなら、タバコ持ち込んだやつがいた時、箱ごと口にくわえさせて、外れないようガムテープで止めて、そのまま校庭に一日中縛られてた。
良い悪いに関わらず、不破の価値観にそぐわないと命の危険があるので絡まれないようにしていたんだけどな。
ちなみにオッパイガオオキイ。腕組みも胸の前じゃなくて下で組んでる。重そうだね。
「えー、なんで? わかんない奴なら体に教えるしかないじゃん」
「それは全面的に同意だけど、今回だけは愛依ちゃんの意見を聞いてからよ」
まじでか。鶴の一声で俺の死が確定するのか。
物騒な話をしてる二人からの視線を受け止めた元凶は、満足げに笑っていた。
「うん。……うん、そうよね。それぐらい信念あるからこそあなたはそうなったのよね!
やっぱり私の見立ては間違ってなかったわ」
笑顔で胸を張る春風。あれ、俺手伝うってことで脳内まとまってます?
しっかりお断り入れましたよね?
どこぞの耳と御異形主人公でももう少しまともに話してたと思うぞ。
「サクラちゃんもフワちゃんも、折れちゃったら困るから暴力は禁止。
それに、秋山くんは必ず手伝ってくれるから。大丈夫」
何を根拠に言ってんだ。
あやうく口から出そうになるが、里中の射程圏内なので黙っておく。目線だけで殺せそうな勢いなんだけど里中さん。
ニコニコと満足げな春風は、手をパンと叩いて俺から離れた。
「さ、この後依頼人が来るんだから! 流石に見た目があれだし、サクラちゃん、腕の縄解いてあげて」
「承知しました!!」
「フワちゃんはお湯沸かしてくれる? コーヒー出してあげたいし」
「ブルーマウンテンでいいわよね?」
「よろしくー。あ、サクラちゃんは終わったらメモ用紙と筆記用具準備してねー。
それでも手が空いてたらケーキの用意もよろしく!」
「承知しました!!」
何やら指示を飛ばしながら机の書類を整理しだしている。
今の会話でわかったのは、高校生をふんじばって椅子に括り付けているのは、流石に一般的にダメだと春風も常識的にわかっているということくらいなんだが。
「というわけなのでよろしく!」
「なにが??」
すべて伝えましたと言わんばかりの澄んだ笑顔で、よろしくって言われましてもね。
「だって、最初の依頼よ? 気合い入れて対応するもんでしょ?」
それはいいんだけど、勝手にやってくれない? なんで俺を巻き込むの?
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本
しましまのしっぽ
恋愛
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本です。
関西弁彼女の台本を標準語に変えたものもあります。ご了承ください
ご自由にお使いください。
イラストはノーコピーライトガールさんからお借りしました
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします
暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。
いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。
子を身ごもってからでは遅いのです。
あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」
伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。
女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。
妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。
だから恥じた。
「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。
本当に恥ずかしい…
私は潔く身を引くことにしますわ………」
そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。
「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。
私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。
手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。
そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」
こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる