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犯人はふてぶてしくも手を差し出す
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「嫌ですけど?」
にこやかに手を差し出してくる春風愛依に、俺はなるべくしっかりと意思が伝わるようにしっかり嫌そうな顔で返答した。
右手を差し出しながらキョトンとした顔で俺を見下ろしている春風に、俺は続ける。
「そもそも俺と春風とじゃ、考え方が違いすぎるだろ」
俺は春風が学園で何をしようとしてるのか知っている。そしてそれは俺が最も嫌いなことで、俺が最も関わりたくない立ち位置だ。
誰だって、自分と真逆の考え方に協力なんて出来ないだろ。
差し出していた手を下し、静かな目で俺を見続けている春風愛依。
一生徒が空き教室を無断で使う横暴が許されてるのは、我らが学園の理事長の娘だからってだけじゃない。まして生徒会副会長の肩書があるからでもない。
理由は単純。春風の突飛な行動が当たり前すぎて誰も止めなくなったんだ。触らぬ神に祟りなしってやつ。
目立たない学園生活のために一番関わってはいけない女。それが春風愛依。
見た目が整っているせいで余計目立つからなこいつ。道を歩けばスカウトに声を掛けられているらしいし、俺も何度かその場面に遭遇している。その見た目と物おじしない性格が相まってか、崇拝者は多い。
そんな動かなければただの美少女に無言で見つめられているこの状況。羨ましいって? ならぜひ変わってほしいもんだ。これ以上ここにいても俺の生活が荒らされるだけだし、早く帰りたい。
というか縛り方が雑なのかうますぎたのか、だんだん腕の感覚なくなってきた。見えてないけど多分うっ血してるよこれ。
R指定入る色になる前にぜひとも早く外していただきたい。
「ちょい待ち! てことは何? お嬢の誘い断るってこと?」
椅子の背もたれに胸からもたれかかっていた現行犯から待ったがかかった。
「……そう言ったつもりなんだけど」
「いやいやー、それはちょっとさぁ? お嬢じきじきのお誘いよ?
その尊さ分かってる? え、分かっててやってるんだとしたら、そうとうやべぇぞ?」
現行犯、もとい里中桜がゆっくりと立ち上がり近づいてくる。
里中桜はいわゆるカッコイイ系女子ってのが大半の評価だけど、こいつただの春風愛依の追っかけだ。ありていに言えば重度の崇拝者。
運動神経が良すぎてすべての運動部から勧誘受けてるらしいが、春風に呼び出された時にすぐ動けるようにって理由でどこにも所属はせず助っ人で突き通しているような重症者だ。
ちなみに身長が大きい。185だから細身の割に存在感があるんだよな。しかもここまで俺を担いでくるほどのパワーがあるのは確定してるので、そんな仕留める気満々の顔をせず是非その場で立ち止まってほしい。
というかこれまじでやばいな。あいつボクシング部の助っ人の時全国出場した上級生負かしてるし、このまま殴られると非常に痛いことになる。あごに綺麗に入ると天国に行く気持ちよさらしいけど、そういうのは求めてないし。
痛いのはすでに腕で限界なんで、いい感じに仲裁入ってくれると助かるんだけど。
「里中さん、ストップ。あざが残ると言い訳が大変だから」
よし、カットイン入った。理由が流石すぎる点は置いておこう。
腕組みをしながら淡々とした口調で里中を止めた赤ふち眼鏡の女子は風紀委員長の不破綴。
2年8組のクラス委員長も兼ねている、いわゆる真面目な委員長。そんな優しい肩書で収まるならどれだけよかったか。
委員会活動の中で罰則や指導も担当しているが、明治の警察みたいなやりすぎ対応している話しか聞かないんだよ。
一例としてあげるなら、タバコ持ち込んだやつがいた時、箱ごと口にくわえさせて、外れないようガムテープで止めて、そのまま校庭に一日中縛られてた。
良い悪いに関わらず、不破の価値観にそぐわないと命の危険があるので絡まれないようにしていたんだけどな。
ちなみにオッパイガオオキイ。腕組みも胸の前じゃなくて下で組んでる。重そうだね。
「えー、なんで? わかんない奴なら体に教えるしかないじゃん」
「それは全面的に同意だけど、今回だけは愛依ちゃんの意見を聞いてからよ」
まじでか。鶴の一声で俺の死が確定するのか。
物騒な話をしてる二人からの視線を受け止めた元凶は、満足げに笑っていた。
「うん。……うん、そうよね。それぐらい信念あるからこそあなたはそうなったのよね!
やっぱり私の見立ては間違ってなかったわ」
笑顔で胸を張る春風。あれ、俺手伝うってことで脳内まとまってます?
しっかりお断り入れましたよね?
どこぞの耳と御異形主人公でももう少しまともに話してたと思うぞ。
「サクラちゃんもフワちゃんも、折れちゃったら困るから暴力は禁止。
それに、秋山くんは必ず手伝ってくれるから。大丈夫」
何を根拠に言ってんだ。
あやうく口から出そうになるが、里中の射程圏内なので黙っておく。目線だけで殺せそうな勢いなんだけど里中さん。
ニコニコと満足げな春風は、手をパンと叩いて俺から離れた。
「さ、この後依頼人が来るんだから! 流石に見た目があれだし、サクラちゃん、腕の縄解いてあげて」
「承知しました!!」
「フワちゃんはお湯沸かしてくれる? コーヒー出してあげたいし」
「ブルーマウンテンでいいわよね?」
「よろしくー。あ、サクラちゃんは終わったらメモ用紙と筆記用具準備してねー。
それでも手が空いてたらケーキの用意もよろしく!」
「承知しました!!」
何やら指示を飛ばしながら机の書類を整理しだしている。
今の会話でわかったのは、高校生をふんじばって椅子に括り付けているのは、流石に一般的にダメだと春風も常識的にわかっているということくらいなんだが。
「というわけなのでよろしく!」
「なにが??」
すべて伝えましたと言わんばかりの澄んだ笑顔で、よろしくって言われましてもね。
「だって、最初の依頼よ? 気合い入れて対応するもんでしょ?」
それはいいんだけど、勝手にやってくれない? なんで俺を巻き込むの?
にこやかに手を差し出してくる春風愛依に、俺はなるべくしっかりと意思が伝わるようにしっかり嫌そうな顔で返答した。
右手を差し出しながらキョトンとした顔で俺を見下ろしている春風に、俺は続ける。
「そもそも俺と春風とじゃ、考え方が違いすぎるだろ」
俺は春風が学園で何をしようとしてるのか知っている。そしてそれは俺が最も嫌いなことで、俺が最も関わりたくない立ち位置だ。
誰だって、自分と真逆の考え方に協力なんて出来ないだろ。
差し出していた手を下し、静かな目で俺を見続けている春風愛依。
一生徒が空き教室を無断で使う横暴が許されてるのは、我らが学園の理事長の娘だからってだけじゃない。まして生徒会副会長の肩書があるからでもない。
理由は単純。春風の突飛な行動が当たり前すぎて誰も止めなくなったんだ。触らぬ神に祟りなしってやつ。
目立たない学園生活のために一番関わってはいけない女。それが春風愛依。
見た目が整っているせいで余計目立つからなこいつ。道を歩けばスカウトに声を掛けられているらしいし、俺も何度かその場面に遭遇している。その見た目と物おじしない性格が相まってか、崇拝者は多い。
そんな動かなければただの美少女に無言で見つめられているこの状況。羨ましいって? ならぜひ変わってほしいもんだ。これ以上ここにいても俺の生活が荒らされるだけだし、早く帰りたい。
というか縛り方が雑なのかうますぎたのか、だんだん腕の感覚なくなってきた。見えてないけど多分うっ血してるよこれ。
R指定入る色になる前にぜひとも早く外していただきたい。
「ちょい待ち! てことは何? お嬢の誘い断るってこと?」
椅子の背もたれに胸からもたれかかっていた現行犯から待ったがかかった。
「……そう言ったつもりなんだけど」
「いやいやー、それはちょっとさぁ? お嬢じきじきのお誘いよ?
その尊さ分かってる? え、分かっててやってるんだとしたら、そうとうやべぇぞ?」
現行犯、もとい里中桜がゆっくりと立ち上がり近づいてくる。
里中桜はいわゆるカッコイイ系女子ってのが大半の評価だけど、こいつただの春風愛依の追っかけだ。ありていに言えば重度の崇拝者。
運動神経が良すぎてすべての運動部から勧誘受けてるらしいが、春風に呼び出された時にすぐ動けるようにって理由でどこにも所属はせず助っ人で突き通しているような重症者だ。
ちなみに身長が大きい。185だから細身の割に存在感があるんだよな。しかもここまで俺を担いでくるほどのパワーがあるのは確定してるので、そんな仕留める気満々の顔をせず是非その場で立ち止まってほしい。
というかこれまじでやばいな。あいつボクシング部の助っ人の時全国出場した上級生負かしてるし、このまま殴られると非常に痛いことになる。あごに綺麗に入ると天国に行く気持ちよさらしいけど、そういうのは求めてないし。
痛いのはすでに腕で限界なんで、いい感じに仲裁入ってくれると助かるんだけど。
「里中さん、ストップ。あざが残ると言い訳が大変だから」
よし、カットイン入った。理由が流石すぎる点は置いておこう。
腕組みをしながら淡々とした口調で里中を止めた赤ふち眼鏡の女子は風紀委員長の不破綴。
2年8組のクラス委員長も兼ねている、いわゆる真面目な委員長。そんな優しい肩書で収まるならどれだけよかったか。
委員会活動の中で罰則や指導も担当しているが、明治の警察みたいなやりすぎ対応している話しか聞かないんだよ。
一例としてあげるなら、タバコ持ち込んだやつがいた時、箱ごと口にくわえさせて、外れないようガムテープで止めて、そのまま校庭に一日中縛られてた。
良い悪いに関わらず、不破の価値観にそぐわないと命の危険があるので絡まれないようにしていたんだけどな。
ちなみにオッパイガオオキイ。腕組みも胸の前じゃなくて下で組んでる。重そうだね。
「えー、なんで? わかんない奴なら体に教えるしかないじゃん」
「それは全面的に同意だけど、今回だけは愛依ちゃんの意見を聞いてからよ」
まじでか。鶴の一声で俺の死が確定するのか。
物騒な話をしてる二人からの視線を受け止めた元凶は、満足げに笑っていた。
「うん。……うん、そうよね。それぐらい信念あるからこそあなたはそうなったのよね!
やっぱり私の見立ては間違ってなかったわ」
笑顔で胸を張る春風。あれ、俺手伝うってことで脳内まとまってます?
しっかりお断り入れましたよね?
どこぞの耳と御異形主人公でももう少しまともに話してたと思うぞ。
「サクラちゃんもフワちゃんも、折れちゃったら困るから暴力は禁止。
それに、秋山くんは必ず手伝ってくれるから。大丈夫」
何を根拠に言ってんだ。
あやうく口から出そうになるが、里中の射程圏内なので黙っておく。目線だけで殺せそうな勢いなんだけど里中さん。
ニコニコと満足げな春風は、手をパンと叩いて俺から離れた。
「さ、この後依頼人が来るんだから! 流石に見た目があれだし、サクラちゃん、腕の縄解いてあげて」
「承知しました!!」
「フワちゃんはお湯沸かしてくれる? コーヒー出してあげたいし」
「ブルーマウンテンでいいわよね?」
「よろしくー。あ、サクラちゃんは終わったらメモ用紙と筆記用具準備してねー。
それでも手が空いてたらケーキの用意もよろしく!」
「承知しました!!」
何やら指示を飛ばしながら机の書類を整理しだしている。
今の会話でわかったのは、高校生をふんじばって椅子に括り付けているのは、流石に一般的にダメだと春風も常識的にわかっているということくらいなんだが。
「というわけなのでよろしく!」
「なにが??」
すべて伝えましたと言わんばかりの澄んだ笑顔で、よろしくって言われましてもね。
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