98 / 111
第97話 聞いたことのある声
しおりを挟む病室は2階に移っているので、僕らは階段で向かった。手には途中で買ったばあちゃんの好きな菓子をぶら下げて。
晄矢さんはどういうわけか、ネクタイにスーツの上着まで着ている。冷房が効いてるから暑くはないだろうけど、別にラフにしてればいいのに。僕は普通にTシャツ、デニム。
――――病院で話すって言ってたけど、まさかばあちゃんの前で話すんじゃないよな? 見舞いと入院の手続きだけして、それから話すってことだろうか。
僕は意気揚々と階段を昇る晄矢さんをちらちらと盗み見しながら昇った。
「南谷さん、先ほどご家族の方がみえて、今、談話室にいらっしゃいますよ」
「はっ? か、家族?」
入院手続きをナースセンターで済ませ、病室に行こうとしたらそう呼び止められた。
僕はとても人に見せられないような歪んだ顔をして聞き返した。晄矢さんがいるってのに、そんなもの気にする余裕もない。
「家族って……僕しか……」
――――脇田さんでも来てくれたのかな? 救急搬送されたときも付いて来てくれたんだし。
「どうした? 涼、談話室行くぞ」
「あ……うん。でも、晄矢さん……」
なんだ? 晄矢さんだって、今の聞こえたはずだ。おかしいって思わないのか? 僕はすたすたと廊下を歩く晄矢さんを追いかける。
ナースセンターを挟んで病室とは反対側に談話室はある。明るい陽射しが入る部屋。大きく入り口が開いているので、近くまで行くと話し声が聞こえてくる。飛び切り明るい声。間違いなくばあちゃんの声だ。
――――あんなに嬉しそうな声、久しぶりだ。随分良くなったんだな。
だがその声に混じり、どこかで聞いたことのある声が……しかも……。
――――泣いてる? いや、笑ってるのか……。それにこの声……僕の……知ってる人の声だ。
いつしか僕の足は速くなり、ほとんど走るようになって晄矢さんを追い抜いた。
リノリウムの床をスニーカーの靴底が擦り、キュッキュッと鳴る。ぶら下げた菓子の袋が足の動きを阻んでもどかしい。
「う……嘘……」
窓から日差しが入って眩しい。その姿は逆光になっている。けど……ばあちゃんと、もう一つの影……見間違いじゃない、それは……。
「か……母さん……」
椅子に座るばあちゃんに寄り添い立っていたのは、10年前に生き別れた僕の母だった。
7
お気に入りに追加
143
あなたにおすすめの小説
【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます
猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」
「いや、するわけないだろ!」
相川優也(25)
主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。
碧スバル(21)
指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。
「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」
「スバル、お前なにいってんの……?」
冗談? 本気? 二人の結末は?
美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
ハイスペックストーカーに追われています
たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!!
と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。
完結しました。
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
【完結】父を探して異世界転生したら男なのに歌姫になってしまったっぽい
おだししょうゆ
BL
超人気芸能人として活躍していた男主人公が、痴情のもつれで、女性に刺され、死んでしまう。
生前の行いから、地獄行き確定と思われたが、閻魔様の気まぐれで、異世界転生することになる。
地獄行き回避の条件は、同じ世界に転生した父親を探し出し、罪を償うことだった。
転生した主人公は、仲間の助けを得ながら、父を探して旅をし、成長していく。
※含まれる要素
異世界転生、男主人公、ファンタジー、ブロマンス、BL的な表現、恋愛
※小説家になろうに重複投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる