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第92話 暖かい手
しおりを挟む病院の朝は早い。僕らが当直の医師から病状を説明してもらっているうちに、わさわさと人が増えてきた。
僕らが健康に仕事が出来るのも、こうやって医療を支えていてくれる人のおかげだよね。
「もう会えますよ。どうぞ」
集中治療室にいたため、僕らは面会を足止めされていた。これが急を要する場面なら入れてもらえたのだろうから、少しくらい待たされても平気だ(本当は顔見るまで落ち着かなかった)。
朝イチ、一般病室に移してもらって僕らはその部屋に入った。四人部屋の窓際にばあちゃんはいた。
「ばあちゃんっ!」
「涼! ああ、こんなに早く来てくれたのか」
僕は声が大きくならないよう気を付け駆け寄った。目を丸くして僕を見たばあちゃんは、背を立てたベッドの上から手を伸ばす。
「心配かけたねえ。昨日、あんたの部屋を掃除してたら急にお腹が痛くなって……電話が鳴ってたの気付いたんだけど、途中で力尽きたんよ」
ばあちゃんは病院の病衣を着てたけど、相変わらず肌艶がよくて入院患者には見えなかった。髪も白髪少ないんだよね。昨日、激痛で失神した人とは思えないよ。握った手も暖かくて、僕はようやくホッとした。
「脇田さんが、あんたに連絡したって言っとったから、来てくれるとは思ってたけど」
脇田さんはばあちゃんに頼まれた『食材(新鮮な肉)』を手に我が家を訪問。そこで倒れていたばあちゃんを発見して救急車を呼んでくれたんだ。ホントに感謝しかないよ。
「ああ、車で来たんだ。えっと、晄矢さん」
僕はカーテンの向こうにいる晄矢さんに声をかけた。遠慮がちにカーテンが開かれる。
「おはようございます。初めまして……」
「ばあちゃん、僕のバイト先の人で……城南さん。昨日の晩、脇田さんから電話がきてすぐ、僕をここまで送ってくれたんだよ」
そう言えば晄矢さん、どうしてばあちゃんが倒れたことわかったんだろ。無事となればどうしてもそれを確かめたくなる。
「それはどうも……東京から、まあ、ありがとうございます。あ、涼、もしかして……」
はっ! そんな場合ではなかった。ばあちゃんは、電話口でしたように『ニヒヒ』とやらしい笑みを浮かべて僕と晄矢さんを交互にチラチラ見てる。
「な、なんだよ。あの……」
「ふうーん、なるほどー」
「なにがなるほどだよっ! うごっ!」
つい焦って声が大きくなってしまった。後ろから、晄矢さんに口を塞がれた。
「こら、声が大きい……具合の悪い方もいるぞ」
「す、すみません」
さっと背中から寄り添い、僕の耳もとで囁く。その様子を目の当たりにしたばあちゃんは、再びにやあと笑った。
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