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第73話 公判 3
しおりを挟む傍聴人が座りなおす、椅子のギシッといった音が響いた。それでも誰もそれに振り向かず、法廷のやや真ん中に立つ晄矢さんに、視線の全てが注がれている。
「娘さんは被告人に手紙を書いてくれたそうです。これから全うに生きるのであれば、いつか会えるだろうと。
それが、被告人に生きる気力を与え、模範囚として出所できた原動力になったのは言うまでもありません」
鼻をすする音がした。鳥飼さんが背中を丸め嗚咽を漏らしているのだ。隣席の警官がハンカチを手渡した。
「その、真面目に頑張ろうとしていた被告人が逮捕されました。兄も私も信じられず驚きましたが、事実は違った。
被告人は岩泉さんをかばい、自ら罪を負おうとしたのです。理由は、彼女が小さい子供を抱えて苦労していたから。
幼いころに別れたきりの娘さんとそのお子さん、つまり被告人の孫のことが重なったのは、先ほどの被告人の証言からも明らかです」
晄矢さんは再び傍聴席を見る。僕ではなく、もっと手前の方だ。そこにはさっき証言台に立った岩泉さんが俯き、隣に座る幼い女の子の肩を抱きしめている。
晄矢さんは、岩泉さんの窮状も丁寧に説明した。現在、元夫に対し、接見禁止命令を申し立てていることも含めて。
「我々法に携わる者は、目の前にある罪だけを裁いていればよいのでしょうか。今回の案件で、私はそれを深く考えることになりました。
自分の命に代えても守りたい存在がいることは、きっと幸せなことだと思います。ただ、犠牲になるだけではなんの解決にもならないことは多い。この件もそうです」
晄矢さんは被告人席に視線を移した。
「私は頑なに真実を言わない被告人に申しました。『あなたはこのままで、誰が幸せになると思っているのですか』と。
岩泉さんは罪の意識にさいなまれながら、また元夫の暴力にも恐れなければならない。被告人の娘さんは、一度は信じようとした父親にまた裏切られて絶望する。残ったのはあなたの自己満足だけだと」
そこで、なぜか晄矢さんがふっと笑みをこぼした。
「こんな偉そうなこと、私も言えないんですけどね。私も親切の押し売りをしてしまった。大切な人に、その人が頑張ってることを無視して、私の庇護を受けろと上から目線で」
――――えっ! なんで突然そんなことぶっこんで来るんだ!?
間違いなく僕のことだ。僕は真っ赤になって俯く。膝のあたりをぎゅっと掴んだ。
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