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第69話 事件の背景

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 僕は窓を全開し、扇風機の前でパソコンを開く。輝矢さんから送られた資料を眺めていた。水を飲んだら汗が噴き出てくる。
 図書館に行くつもりだったが、もう少しすれば陽もくれる。冷蔵庫に入れておいた冷たいタオルで体を冷やし、耐えることにした。

 あの後、輝矢さんは逃げるように去ってしまった。絶対何かを知ってる。こうなったら、明日公判が終わった後、晄矢さんに詰め寄ろうか。そんな時間あるかはわからないが。

 ――――でも……晄矢さんに会うのはあれ以来だ。

 城南邸を出て以来。やっぱり胸がきゅうんとする。会いたい気持ちがないわけじゃない。

 ――――その前に資料読んどかなきゃ。どうやって、この男を無罪にするんだろうか。

 それはやはり、弁護士を目指すものとして大いに興味があった。一度さらっとあらましを見たときは、人生の落伍者そのものと思ってしまっていたのだが……。



 被告人の氏名は鳥飼学(とりかいまなぶ)さん、61歳。3ヶ月前、成人してから4度目になる収監の刑期2年を終え社会に戻って来た。
 引受ける人はいなく、当時の国選弁護人が身元保証人となって仕事を紹介。石塚製作所でライン業務に入ることとなった。

 鳥飼さんは元々精密機械工場の作業員で、細かい部品を組み立てていたんだ。バブルの時期に結婚もし、ローンを組んで家を建ててた……けど。

 ――――バブル崩壊とともに、給料は半減、家を売らざるを得なくなった。

 けど、家の価値も買った時の半値。残ったのはローンだけ。あの頃は、そういう人が少なくなかったと話だけは聞いている。
 僕の両親は、バブル崩壊とは関係ない。もっと後の話だ。ばあちゃんの話では、誰かに騙されたとか言ってたけど……。

 そこから彼の人生は狂い始め、妻子とは離婚。うまくいかない日々が続く。二回目の逮捕が執行猶予中だったことで実刑となり、それからは出たり入ったりとなった。

 ――――驚いた。この最後の窃盗事件、国選弁護人には輝矢さんだったんだ。

 僕は晄矢さんを一回り小さくしたような、でも目つきはずっと優し気な輝矢さんを思い出す。
 三条さんは以前、輝矢さんは『晄矢さんに嫉妬してた』と言ってた。そのうえで開き直り、自分は自分の仕事をしようとしていたと。

 きっとそれはこういうことなんだ。祐矢氏の経営方針とは違っても、依頼人の今後も考え寄り添っていた。そして……。

 ――――晄矢さんも本当は、輝矢さんのそういうとこきっと尊敬してた。



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