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第49話 ゴルフコンペ・クライシス 3
しおりを挟むクラブハウスで大騒ぎしている人物は、このコンペのメインゲスト、横沢代議士だった。
彼曰く、林に打ち込んだのは超有名ゴルファーのサイン入りボール。ただ、彼は自慢したかっただけで、もちろんプレーに使うつもりはなかったと弁明した。
キャディーが間違えたとか言ってるけど、大方ポケットに入れてたのを自分が間違えて打っちゃったんだろう。
しかし、僕がボール探しの技を披露したことで、他人事でなくなってしまった。黛副社長は問い詰められて困ってる。
「あの……」
黛副社長が責められる謂れはない。僕は名乗ろうと足を踏み出した。けど……。
「横沢先生。ボールを探し出したのはウチのものですが、生憎この雨の中に探しには行かせられません。雨がやみましたら、私ども総出で探させていただきます」
僕の肩をぐっと掴み、前に出たのは晄矢さんだ。サングラスはもうかけていない。整った顔立ちで鋭い眼光を横沢さんに投げつけた。
胸キュンってこういう時のことを言うんだよね。カッコいいよ……マジ。
「な、なにを言っておる。さっきからそれじゃあ間に合わんと言ってるだろうが。大体睨みつけるとは無礼なやつめ。ああ、君は城南の息子だな? 城南はどこにいる!」
うわあ、めっちゃ引くな、こいつ。
でも、祐矢氏が出てきたら、僕は行かなきゃなんないな。諦め加減で僕は晄矢さんの腕を引っ張る。
「大丈夫、僕行って来るから」
「な、馬鹿な。そんな必要はないっ!」
「あ、そうだ、君だ。君だったな。見つけてきてくれたらもちろん礼はする。さっさと取ってくるんだ!」
ムッ! なんだこいつ、僕は犬じゃないぞっ! でも晄矢さんのみならず、藤堂社長や黛さんも険しい表情になってしまった。このままじゃ……。
「横沢先生。何を騒いでおられるので?」
一触即発のムードのなか、腹から出された太い声がロビーに響いた。
「城南先生」
祐矢氏だ。黛副社長がすがるような目で登場した城南弁護士を見た。
――――まあいいや。これでことが収まれば。
僕は命が下るまでもなく、行くつもりだったしね。
「ああ、城南。君のところの使用人だろ。悪いがボールを探しに行かせてくれ。一刻も争うんだ」
「親父っ!」
晄矢さんが祐矢氏に詰め寄る。慌てて僕は晄矢さんの腕をもう一度引っ張った。
「はあ……そんな大層ことでもなさそうですがね?」
祐矢氏は晄矢さんを制し、事も無げに横沢にそう応じた。
「はあっ? 何言ってる。あれがどんなに大事がわかって……」
「大事なものかもしれませんが、この雷雨の中、行かせるつもりはないですね。断っておきますが、彼はうちの使用人じゃない。よしんば使用人であったとしても、玉一つに危険な目に合わせるようなこと、私どもではいたしておりません」
「親父……」
驚いた。今日一驚いた。普通のことではあるけど、祐矢氏が僕の身を案じてくれたんだ。この、多分仕事上、とっても大切な相手であろう代議士先生の頼みを断って。
――――ちょっと感動しちゃった……。
「おい、城南。よくも言ったな。おまえ、後悔することに……」
「お礼、いただけるんですよね?」
「え……?」
突然の僕の声に、全員がこっちを見た。視線が痛いがこのままでは無事に済まない。僕が頑張るしかないよね?
「僕、探してきます」
「涼、何言ってるんだっ!? そんな必要はない」
「おお、こいつが一番わかってるじゃないか。約束しよう」
「わかりました。じゃあ行ってきます」
僕は晄矢さんを振り切り、大雨が芝を打ち付ける外へと走り出した。
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